アメリカ硬貨のデザインヒストリー[ヘラルディックイーグル(白頭鷲)]
アメリカ硬貨の多くには白頭鷲(ヘラルディックイーグル)が刻まれている。アメリカの国鳥だ。アメリカ合衆国の国章のように、堂々とした白頭鷲がほとんどの硬貨に描かれている。このヘラルディックイーグルのデザインは、アンティーク貨幣の多くで様々な形で使われている。
建国期のアメリカ大陸会議は、早急に国章が必要であると考えていた。1776年7月の独立宣言の採択の際、同会議はトマス・ジェファーソン、ジョン・J・アダムス、ベンジャミンフランクリンで委員会を設立している。
この建国の父である3名は国章作成のために、大急ぎでアメリカの芸術家ピエール・ユージーン・ド・シミティエールに白羽の矢を立てた。彼はデザイン(この時白頭鷲はなかった)をしたため1776年8月に提出したが、あまりにも複雑だったため却下され、お蔵入りになったとされている。
その後2つの委員会でも国章作成の動きがあったがどちらも却下され、最終的に国章の完成までに6年が費やされた。第二期委員会では、アメリカ国旗とニュージャージーの州章をデザインしたフランシス・ホプキンスに白羽の矢が立てられている。彼のデザインはその前の委員会が作成したデザインを取り入れたもので、アメリカ国旗の要素も大きく入っていたが、やはり却下されてしまう。
第三期委員会は1782年初めに設立され、ロイヤー・ウィリアム・バートンによってデザインが作成されたが、これも却下されている。
これらの3つの委員会を経て、次にデザインを行ったのが当時の書記官のチャールズ・トムソンである。彼はデザインを単純にし、正式な図面もないままに大陸会議を通過させてしまった。彼が描いた構図が現在のアメリカ国章となっている。
1782年の夏までに、(おそらくロバート・スコットとされる)彫刻家がヘラルディックイーグルをかたどった真鍮の型を作成している。その後数十年にわたり、このデザインはアメリカ貨幣の主なモチーフとして使われることとなった。
18世紀末にロバート・スコットは新たな金貨の裏面にオリジナルの鷲をかたどったデザインを作成している。しかし批判が出たため、修正を余儀なくされる。修正後のデザインは鷲の首が太く、足の部分に盾が描かれている。
より力強くなったそのデザインをスコットのものではないと言う者もいるが、歴史上は彼の功績となっている。この時の鷲は、その10年前に採用された国章に似ている。
その後の100年の間もいくつかの金種で採用されたが、雲がなくなったり、星の描き方や、鷲の頭上の刻印に変更があったりと、全体的なデザインは多少変わっている。だが、基本的にはシンボルである鷲が刻まれていることは変わっていない。
長い間、力の象徴とされてきた鷲は、空の王であり、強さと勇気を表していると考えられている。鋭い目と広げた翼は心構えと先見の明を象徴し、足のかぎ爪で掴んでいる矢とオリーブの枝はそれぞれ戦いと平和を示している。
鷲の正面に刻まれた盾は、建国時の州を表す13のストライプ(国章では赤と白)で装飾され、盾の上部(国章は青)は大陸会議を表している。アメリカ国のモットーはリボン上に刻まれていて、様々な金種で使用されたが、削除されているものもある。鷲の頭上の雲や星は、その後のデザインでは最終的に取り除かれたが、アメリカの建国の父たちが築いた新世界をイメージした、新たな天の世界を表していた。
1830年代には、クリスチャン・ゴブレクトの初期のアイディアでモチーフは変更され、羽ばたく鷲を取り入れた。その際、鷲は、成長して動き出すアメリカを表すことを意図してデザインされている。
これは流通用硬貨には使われなかったが、盾が縮小されたヘラルディックイーグルはその後採用されている。ゴブレクトの羽ばたく鷲は少額のセント硬貨に花を添えたが、ゴブレクトの初期のデザインのように「前進、上昇」を示すような構図ではなかった。
1878年、ジョージ・モーガンは、ドル硬貨の盾を取り除いたが、翼を広げるどっしりとした鷲はそのままにされている。1892年には彼と同時代のチャールズ・バーバーが、クォーターイーグル(2.5ドル金貨)とハーフイーグル(5ドル金貨)の裏面に、元々の国章のデザインを再度イメージした星を戻したデザインを作成した。
再度採用されたデザインは、1907から1921年の間に様々な金種で変更もされたが、鷲は刻まれ続けた。ただし、ヘラルディックイーグルは、より趣のあるものに変更されている。
この220年ほどの間、アメリカ硬貨の鷲のモチーフは様々な変化をしてきた。初期のものの多くはヘラルディックイーグルを、国家の誕生を強く象徴し、結び付けるものとして刻まれたものだが、アメリカ建国の父の時代から近代の硬貨まで、その象徴は重きをなしてきたと言える。そして、アメリカ国鳥である鷲は、国を照らす灯の象徴として、またアメリカを守る力強さと心構えの象徴として、今も輝いている。