テトラドラクマ銀貨とは?古代ギリシアの歴史とコインを探る

テトラドラクマ(Tetradrachm)銀貨は、古代ギリシアで広く流通し、貿易や取引に欠かせない通貨でした。様々なデザインがあり、コレクションの幅も広がる、歴史を感じる一枚です。

古代オリエント世界で主流だった「スターテル金貨」の流れを受け、テトラドラクマ銀貨はギリシアのアテネを舞台に、広大な地域に渡って華やかに展開していきます。

古代ギリシア時代は、アンティークコインのコレクターたちにとって非常に人気が高いテーマの1つでもあります。今回は、テトラドラクマ銀貨とはどんなコインなのか、そして「アテネの”フクロウ”のテトラドラクマ銀貨」を中心に、古代ギリシアの歴史を紐解きながら解説していきます。

 

アテネ テトラドラクマ銀貨

 基本データ

コイン名 アテネ テトラドラクマ銀貨
通称 テトラドラクマ
発行年 紀元前454年〜320年
アテネ(アッティカ)
額面 1 テトラドラクマ = 4 ドラクマ
種類 銀貨
素材
発行枚数 -
品位 -
直径 25mm
重さ 17.04g(前後する場合あり)
統治者 -
デザイナー -
カタログ番号 GCV #  2526、 HGC 4 #  1597、 SNG Cop#  31
表面のデザイン 戦闘用のヘルメットをかぶった右向きのアテネ神
表面の刻印 -
裏面のデザイン フクロウとオリーブ、三日月
裏面の刻印 AΘΕ(ギリシャ語でアテネ)
エッジのタイプ スムース
エッジの刻印 -

 古代ギリシア時代のはじまり

ペルシア帝国が猛威を振るう中、ペルシア帝国の最後の国王カンビュセス2世は、ギリシア征服を狙います。しかし、紀元前334年アレクサンドロス3世率いるギリシア軍に敗れます。

マケドニア王国出身のアレキサンダー3世が国王の座につき、繁栄が始まります。

ギリシアの歴史は古く、紀元前40万年前に遡るといわれています。ここでいう古代ギリシアとは、紀元前6世紀~3世紀にかけてアテネを中心に発展を遂げた時代のことを指します。

古代ギリシアは複数の「ポリス」と呼ばれる都市国家によって形成され、現代の民主主義の基盤となる政治形態が確立された時代でもあります。

ギリシアの首都アテネは、世界史上初めてのオリンピックが開催された土地でもあり、経済や産業、政治と文化の中心となった都市です。ソクラテスやプラトン、アリストテレスなどの偉大な哲学者を輩出しています。

アテネは西洋文明の芸術と学問、哲学の始祖として栄え、パルテノン神殿やアクロポリスなど数々の歴史的モニュメントを残しています。

テトラドラクマとは?

テトラは「4」という数字を表し、ドラクマは通貨の単位を表します。イスラムの貨幣では「ディルハム」が、このドラクマに相当します。

1ドラクマは4.3g、2ドラクマは8.6g、テトラ(4)ドラクマは17.2gです。

ドラクマは「つかむ」という意味のギリシア語が由来です。

テトラドラクマ銀貨発行の背景とは?

テトラドラクマが普及し始めたのは紀元前6世紀後半~紀元前5世紀あたりの古代ギリシャ・アテネ。時代はちょうど古代オリエントのリディア王国、そしてペルシア帝国からギリシャ・アテネへと移り替わろうとしていた時でした。

アテネには国有の銀鉱山があり、そこから地金が豊富に供給されました。最も有名なのは、田園地帯にあるラウリウムの銀鉱山です。

様々なテトラドラクマが発行されましたが、一番ポピュラーな「アテネの”フクロウ”テトラドラクマ銀貨」の17.2gを基準とした「アッティカ基準」が一般的になりました。

テトラドラクマはその大きさのため、国家や統治者が自らの顔を刻印することで、広い領土へのプロパガンダ的な意味もありました。

3世紀頃まで地中海で広く流通し続けましたが、時代とともに品質は劣化してしまいます。しかし、インドと中央アジアで中世初期まで使用されました。

 

アテネの「フクロウ」テトラドラクマ銀貨

紀元前440~404年に発行されました。表面には女神アテネの頭像、裏面にはアテネのポリスのシンボルであるフクロウとオリーブの小枝と三日月が刻印されています。

女神アテネは知恵・芸術・工芸・戦略をつかさどる女神で、アルテミスとヘスティアーと並ぶ三大処女神としてもよく知られています。また、主要都市アテネのシンボルとして刻まれています。

目はアーモンド形。微笑むアテネ像は古典期の芸術様式がそのまま反映されています。頭にはオリーブの紋様が施されたアッティカ式の兜を被り、大きな耳飾りと首飾りを身につけています。

裏面には女神アテナの聖鳥フクロウが刻印されています。左側にはオリーブと三日月、右側にはアテネを示す「ΑΘΕ」がギリシア語で刻まれています。コインに刻まれたフクロウは、「コキンメフクロウ(英名:Little Owl)」です。

フクロウとオリーブは勝利のシンボルで、約100年近くに渡って製造され続けました。

このアテネのテトラドラクマ銀貨は、アクロポリスの再建やパルテノン神殿の建設、ペロポネソス戦争をはじめとする多くの戦争の軍資金となりました。

「正面を向いたフクロウ」のアテネのテトラドラクマ銀貨

初期のアテネのテトラドラクマ銀貨は、デザインの印象が違います。

表面のアテネは見慣れたものよりもシンプルなデザインです。裏面は羽根を閉じたフクロウと垂れ下がったオリーブと果実がデザインされています。

Asyut Hoardコレクションより。
Choice XF★ 4/5 - 4/5の評価が、2023年8月18日に$10,200で落札。

 

コインに切れ込みが見られるものがあります。これは「テストカット(test cuts)」という、流通先で銀の含有量と真贋を見極めるためにカットしたものです。貴重な古代の歴史の記録です。

AU 5/5 - 2/5 test cutsという評価で、2023年6月28日に$432で落札。

 

「アテネのフクロウ」テトラドラクマ銀貨の価格推移

テトラドラクマ銀貨の中でも最もポピュラーな”アテネのフクロウ”テトラドラクマの価格推移をみてみましょう。

出土の量が他の古代コインに比べると非常に多いため、市場に数多く存在します。古代コインの中でも比較的手に入れやすい価格帯のものもありますので、「初めての古代コイン」として選ばれています。

MS 5/5 - 4/5

2023年8月23日に$1,440で落札。

MS★ 5/5 - 5/5

2023年8月18日に$5,160で落札。

MS ★ 5/5 - 5/5 Full Crest

Full Crest(フル・クレスト)とは、刻印が全てコインの中に収まっていることを指します。
古代コインは製造技術上刻印をプランシェ(平金)内に収めることはとても難しく、フル・クレストのものは大変貴重です。

2019年1月7日に$16,200で落札。

Choice MS★ 5/5 - 5/5.

Choice評価が付くだけで、価格がかなり変わってきます。

Ulisses Vaz Pardal Collectionより。
2023年5月3日に$20,400で落札。

 

その他のテトラドラクマ銀貨

テトラドラクマ銀貨は「通貨」としてアレキサンダー3世の進軍とともにアジアの他の地域にも広がり、多様なデザインを生みました。

「アテネのフクロウ」以外のデザインのテトラドラクマ銀貨をご紹介します。

アレキサンダー3世

紀元前305~281年。アレキサンダー3世のテトラドラクマ銀貨も、人気の古代コインです。これは皇帝リュシマコスの時代に発行されたものです。神格化されたアレキサンダー3世が刻印されています。

アレキサンダー3世は紀元前336年に即位し、華々しく帝国を築いた後、紀元前326年に32歳の若さで熱病に冒され急死しました。

死後もなお業績を称え、100年以上に渡ってアレキサンダー3世のデザインのコインが発行され続けました。

Choice AU★ 5/5 - 4/5, Fine Styleが、2023年5月3日に$21,600で落札。

クレオパトラ7世とマルクス・アントニウス

歴史上最も有名な悲劇のカップルのコインです。
エジプトのプトレマイオス朝最後の統治者、クレオパトラ7世とマルクス・アントニウスがデザインされた希少なテトラドラクマ銀貨です。

WTR Collectionより。
NGC XF 4/5 - 3/5が2022年1月10日に$156,000で落札。

シラクサで発行されたテトラドラクマ

現在のイタリアのシチリア島で発行された、水の精アレトゥーサを囲むイルカが特徴的なテトラドラクマ銀貨です。裏面には空飛ぶ女神ニケとクァドリガが描かれており、トーンが美しく出ています。

AU ★ 5/5 - 5/5 FineStyleが2023 年 5 月 3 日に販売: $45,600で落札。

セレウコス1世

セレウコス1世の最期のコインです。
表面はセレウコス1世、裏面は座する女神アテナが絶妙な立体感で表現されています。

Choice AU 5/5 - 3/5 Fine Styleが2023年5月3日に販売: $28,800。

ディメトリオス1世(バクトリア王国)

紀元前200~185年頃。表面は牙がついた象の頭飾りとドレープを身につけたディメトリウス1世、そして裏面には右手に持った花冠をつけ、左手にはライオンの皮と棍棒を持った裸のヘラクレスが丁寧に表現されています。

この象の頭飾りは、アレクサンダー大王がかぶっていた同様の頭飾りを思い出させます。インド北部などを征服し、父王から王位を継承した後はギリシアの支配を現在のパキスタンまで拡大しました。古代の歴史家ストラボは「アレクサンダー大王よりも多くの部族を征服した」と記しています。

MS★ 5/5 - 5/5 Fine Styleが2023年1月9日に$26,400で落札。

 

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