経済を救った豪州初のコイン「オーストラリア アデレード 1ポンド金貨」、その価値と時代背景を徹底解説

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨は1852年にオーストラリアで初めて発行されたコインです。発行枚数も少なく手に入る確率も低いことから希少価値が高くなっています。
どのような特徴を持ったコインなのか、またなぜ発行枚数が少なかったのか、コインのデザイン、発行にいたるまでの時代背景、そして現存する2つのタイプのオーストラリア アデレード 1ポンド金貨について詳しく解説します。

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨

アデレードポンド金貨 表裏

基本データ

コイン名 オーストラリア アデレード 1ポンド
通称 アデレードポンド
発行年 1852年
オーストラリア
額面 1ポンド
種類 金貨
素材
発行枚数 24,818枚
品位 Gold (.917)
直径 22.0mm
重さ 8.75 g
統治者 ヴィクトリア女王
デザイナー James Payne
カタログ番号 KM# 1, Fr# 1
表面のデザイン ビーズの輪の中に年号、王冠
表面の刻印 GOVERNMENT ASSAY OFFICE ,1 852 , ADELAIDE
裏面のデザイン ビーズの輪の中に額面、重量と純度
裏面の刻印 WEIGHT , 5 DWT: 15 GRS: , VALUE ONE POUND , 22 CARATS.
エッジのタイプ -
エッジの刻印 -

 オーストラリア アデレード 1ポンド金貨とは?

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨の表面・裏面のデザインなどこのコインの特徴をみていきましょう。

表面のデザイン

表面

「オーストラリア アデレード 1ポンド金貨」は1852年にオーストラリアで初めて発行されたコインです。アデレードは南オーストラリア州の州都で、この金貨が製造された場所です。

表面の中央には王冠が描かれ、その下に発行年の「1852」が刻まれています。その王冠と年数を囲っているのが波の模様とビーズ模様で構成されたサークルです。
そして外枠の上部には「
GOVERNMENT ASSAY OFFICE」の文字が刻まれ、下部には発行都市ADELAIDEの文字が刻印されています。政府試験局を意味するGOVERNMENT ASSAY OFFICEは、オーストラリア アデレード 1ポンド金貨を製造した政府機関です。

裏面のデザイン

裏面のデザインはシンプルで、中央に額面「VALUE ONE POUND」の文字が刻印され、それらの文字を囲む内輪の外側に、コインの重量と金の純度(カラット)が刻まれています。
重量を示す「5 DWT: 15 GRS」は、当時使われていた単位DWT(ペニーウェイト)とGRS(グレイン)のことで、現在の単位に換算すると8.75gになります。金の純度は刻印の通り22カラット(Au917)です。

2つのタイプがある

1852年に発行されたこの金貨、実は2つのタイプがあります。どちらも表面は同じデザインですが、裏面に微妙な違いがあります。これらをタイプ1、タイプ2と呼ぶことにすると、タイプ2の発行数は24,768枚ですが、タイプ1の発行数はわずか50枚にとどまっています。そのため、タイプ1のオーストラリア アデレード 1ポンド金貨は希少価値がより高く、価格もタイプ2の5倍ほどになります。(タイプ1$100,000以上、タイプ2$20,000以上)

タイプ1とタイプ2の違いについては「オーストラリア アデレード ポンドの種類・その他のコイン」ところで詳しく解説します。

 

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨が作られた当時の時代背景

では、オーストラリア アデレード 1ポンド金貨はどのような時代背景の下に作られたのでしょうか。

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨発行のいきさつ

▲ヴィクトリア州のアレクサンダー山での金採掘の様子(1852)

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨が作られた1852年は、オーストラリアで金が発見された年の翌年になります。当時、アメリカのゴールドラッシュを受け、オーストラリアにも金発見の可能性を求めて人がやってくるようになりました。
初めて発見されたのはシドニー近郊の渓谷で、砂金として発見されました。これをきっかけに金の採掘が一大ブームとなり、ゴールドラッシュが始まりました。特にシドニーの隣の州であるヴィビクトリア州ではメルボルンの近郊で大量の金が採掘されました。

ここで一つの疑問があります。オーストラリアで初めて作られたオーストラリア アデレード 1ポンド金貨は、なぜ金の採掘が盛んだったメルボルンやシドニーで作られず、アデレードで作られたのでしょうか。

アデレードは南オーストラリア州の州都でメルボルンから西に約700km行ったところにあります。
当時南オーストラリア州では、苦しい経済状態が続いていました。なぜなら、隣の州で始まったゴールドラッシュのせいで、多くの州民が金の採掘のために流出し、その時に自分たちの財産を持って出てしまったからです。そこで南オーストラリア州政府は、採掘された金を使ってコインを作り、経済を立て直そうとしたのです。
これが功を奏し、南オーストラリア州の経済はなんとか破綻を免れました。

正式な許可なしで発行された金貨

上述のように、南オーストラリア州はなんとか金貨を発行することができましたが、当時イギリスの管轄下に置かれていたオーストラリアでは、貨幣の製造にはイギリス本国の許可が必要でした。
ところが、
船便しかないため許可をもらうには時間がかかり、しかも許可がおりない可能性が高かったのです。

そこで州政府は、一度製造許可願をイギリス本国に送ったものの、返事を待たずに金貨の製造を着手・発行し、イギリスからの許可の返事が来るまでにその製造を終了してしまいました。つまり製造期間が短かったために、この金貨の発行枚数も少なくなっているのです。

さて、イギリスからはどのような返事がきたのでしょうか。想像にかたくないと思いますが、「不許可」でした。つまり南オーストラリア州政府の行ったことは違法だったということになります。

ところが、後に、経済を救ったということから「得策だった」と受け止められました。なお、この金貨の価値は実際の金の価値より高かったため、そのほとんどがイギリスに送られ溶解されました。これもオーストラリア アデレード 1ポンド金貨の流通枚数が少ない理由の一つです。

オーストラリアとイギリスの関係

イギリス人によるオーストラリアの始まり

オーストラリアの歴史は長くもあり短くもあります。
先住民の立場からみれば65,000年という長い歴史になりますが、現在のオーストラリアの観点からみると、イギリス人が初めて足を踏み入れ入植地を築いた1788年1月26日がその始まりとされています。(現在、この1月26日はオーストラリアの建国記念日になっています。)その後は100年以上イギリスの支配下に置かれていました。

1901年、オーストラリアの正式な政府が樹立し、主権国家になりました。ところが、現在でもオーストラリア連邦と呼ばれ、国の首長はイギリスのチャールズ国王であり、オーストラリアの国旗には、向かって左上部にイギリスの国旗が組み込まれています。そして1999年に行われた共和国への移行を問う国民投票も否決され現在に至っています。

 

オーストラリア アデレード ポンドの種類・その他のコイン

前述したタイプ1とタイプ2の金貨の違いについて解説し、5ポンド金貨を紹介します。

タイプ1とタイプ2、その違い

▲オーストラリア アデレード 1ポンド金貨 タイプ1

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨 タイプ2

オーストラリア アデレード 1ポンド金貨のタイプ1は最初の型で製造された金貨です。表面はどちらのタイプも同じデザインになっていますが、裏面の内輪のデザインが異なっています。タイプ1では、内輪はビーズ模様だけになっていますが、タイプ2ではビーズ模様に併せて波模様が付け加えられています。

その他、タイプ1では製造時に強い圧力がかけられたために、表面の王冠がタイプ2よりも平らになり、一方、その圧力のおかげで、エッジの仕上がりがタイプ2よりもはっきりしています。

なぜ2つのタイプがあるのか

ではなぜこのように2つのタイプがあるのでしょうか。
理由は簡単です。最初に用意した裏面用の型が、製造時の圧力に耐えきれず破損してしまったため、型を新しく作り直したからです。その時に内輪のデザインが上述のように変更されました。

オーストラリア アデレード 5ポンド金貨

アデレード 5ポンド金貨 表裏

オーストラリア アデレード 5ポンド金貨も同様に1852年にアデレードで発行された金貨です。
表面のデザインは1ポンド金貨と同じですが、裏面に刻まれた額面の文字と重量の明記が異なります。額面の刻印は「VALUE FIVE POUNDS」、重量は「1 OZ: 8 DWT: 4 GRS」、現在の単位に換算すると44.102gになります。

 

オーストラリア アデレード`ポンドの価格推移

裏のデザインに2種類あり、それぞれ価格が異なります。デザインの違いを見ながら、発行がわずか50枚程度という希少な金貨の価格推移をみてみましょう。

AU55

AU55

2023年1月9日に$10,500で落札。

MS62+

MS62+

2023年1月9日に$20,400で落札。

MS64

 MS64

 

2022年8月25日に$33,600で落札。

MS61 希少な裏側のサークルがドットのもの

MS61 希少な裏側のサークルがドットのもの

2023年1月9日に$168,000で落札。

MS62 希少な裏側のサークルがドットのもの

MS62 希少な裏側のサークルがドットのもの

2023年1月9日に$228,000で落札。

 

経済危機を救ったオーストラリア アデレード 1ポンド金貨

オーストラリアで初めて金が発見されゴールドラッシュが始まった1851年。
金鉱のなかった南オーストラリア州は、隣のビクトリア州で起きたゴールドラッシュのために人口が流出し、経済危機に見舞われました。

1852年、まだまだイギリスの支配下に置かれていたオーストラリアでしたが、その危機を救おうとイギリス本国の許可なしに作られたのがこの金貨です。結果的に南オーストラリア州の経済を救うことになり、大きな貢献を果たしました。
発行枚数が少なく、後に多くが溶解
されたために希少価値が高くなっています。

 

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