オーストリア帝国の実質的な女帝マリア・テレジアの1ターラー銀貨とは?レジェンド・コインであり繁栄のお守りと崇めれた歴史的背景について

1740年から1780年の間、オーストリア帝国を治世していた実質的な女帝、マリアテレジア。

彼女の肖像が施されている1ターラー銀貨は、貿易が盛んな時代のヨーロッパとオリエント諸国の間において、無くてはならない大きな存在でした。

本記事では、貿易時代に世界を駆け巡ると同時に、お守りとしても愛され続けていた「マリア・テレジアの1ターラー銀貨」の歴史と由来についてご紹介します。

マリア・テレジアの1ターラー銀貨の歴史を紐解きながら、浮かび上がるその魅力をぜひご堪能ください。

マリアテレジアの肖像

ジーン・エティエン・リオタール作 1743-5年頃のマリア・テレジア

18世紀オーストリア帝国の実質的な女帝マリア・テレジアは、女性として異例な統治者として、国を繁栄させ秩序をもたらし近代化を推し進めました。

そして、彼女は当時の王族の間では珍しい恋愛結婚を叶え、16人もの子宝に恵まれた女性としても歴史に名を刻まれています。

人気の高いマリア・テレジアの肖像が施されているコイン。その中でも、最も多く発行されながら、今なお人気の衰えないマリア・テレジアの1ターラー銀貨とは、どのような硬貨なのでしょうか?

マリア・テレジアが統治していた当時のオーストリア帝国の時代背景とともに、マリアテレジラの1ターラー銀貨の歴史を紐解くようにご案内します。

マリアテレジア ターラー銀貨

マリアテレジアターラー銀貨 表裏

基本データ

コイン名 オーストリア マリアテレジア 1ターラー銀貨
通称 マリアテレジア 1ターラー
発行年 1780(1780-2022:リストライク含む)
オーストリア
額面 1ターラー
種類 銀貨
素材
発行枚数 -
品位 Sv 833
直径 40.0mm
重さ 28.06 g
統治者 マリアテレジア
デザイナー -
KM # T1
表面のデザイン 右向きのマリア・テレジアの肖像と
表面の刻印 M · THERESIA · D · G · R · IMP · HU · BO · REG ·S · F ·(Maria Theresia, by the grace of God, empress of the Romans, queen of Hungary and Bohemia. Schöbel Tobias. Faby Josef.|マリア・テレジア、神の恩寵によるローマ帝国の女帝、ハンガリーおよびボヘミアの女王。造幣局のシェーベル・トビアス、ファビー・ヨーゼフ)
裏面のデザイン 王冠をかぶった双頭のワシに支えられているハンガリー、ボヘミア、ブルゴーニュ、ブルガウ (ギュンツブルク) を表す 4つに分割されたシールドにオーストリアの紋章付きの冠とマリア・テレジアの紋章。
裏面の刻印 ARCHID · AVST · DUX · BURG · CO · TYR · 1780 · ☓(Archduchess of Austria, duchess of Burgundy, countess of Tyrol|オーストリア大公妃、ブルゴーニュ公爵妃、チロル伯爵妃)
エッジのタイプ レタリング
エッジの刻印 IUSTITIA ET CLEMENTIA(Justice and mercy|正義と慈悲)

マリアテレジア ターラー銀貨とは?

マリア・テレジアの1ターラー銀貨はどのようなコインなのでしょう?

ここではこの銀貨について、特徴と銀貨にまつわるお話をご紹介します。

マリア・テレジアの1ターラー銀貨のデザイン

マリア・テレジアの1ターラー銀貨は、直径約40ミリ、重さ28グラムの大型の銀貨で、存在感のあるコインです。

表面に「マリア・テレジアの横向きの肖像」が刻印されています。この硬貨の肖像の頭部に喪中の女性が被るベールが描かれているのは、彼女は夫であるフランツ1世が崩御した後、一生涯喪服で過ごしたからなのです。

裏面には、オーストリア皇室ハプスブルク家のシンボル「紋章を胸に掲げた双頭の鷲」の紋章。そしてコインの縁には、彼女の治世のモットーである「Justitia et Clementia」(正義と潔白)の文字が刻まれており、その凹凸はコインに特別な印象を与えてくれます。
大型のコインだからこそ味わえる、細部まで繊細で細やかなレリーフ造形をじっくりと堪能することができるのも、このコインの魅力の一つといえるでしょう。

オリエンタル貿易の商人の間で最も信用されていた貨幣

マリア・テレジア・ターラーは、当時中近東の商人たちの間で、銀の価値だけでなく硬貨そのものが大変好まれていました。マリア・テレジア・ターラーでの支払いなら交渉が優先されるほど、ビジネスにも影響を与える硬貨として中近東全域に広まってゆき、後に正式な中東貿易の通貨「レジェンドト・コイン」として認められるほどの地位を得ていきます。

マリア・テレジアの1ターラーは彼女の崩御後にも生産・流通され続け、その歴史は200年以上に及びました。現在でも「リストライク」と呼ばれる、当時のデザインそのままのものが市場で取引されています。

夫婦円満・安産祈願のお守りとしても人気の高いコイン

マリア・テレジアと家族たち

▲マリア・テレジアと家族たち

マリア・テレジアは女帝として国を繁栄させた女帝としてだけではなく、夫婦円満で16人の子供たちに恵まれた女性としても歴史に名を刻んでいます。

彼女とフランツ1世の結婚は王族には珍しく、若きマリア・テレジアについて「夜は彼のことを夢見、昼は女官たちに彼のことを話している」と当時のイギリス大使の記述が残るほど、大恋愛の末の結婚でした。愛する夫が亡くなった後は生涯喪服姿で過ごしたと言われ、このコインの肖像にも、頭上に喪中女性が身につけるヴェールをつけた姿で表現されているのです。

また、彼女はフランツ1世との間に、マリー・アントワネットを含む16人の子供に恵まれました。このような背景から、マリア・テレジアの1ターラー銀貨は子孫繁栄、夫婦円満、安産祈願のお守りとして人気が高く大変縁起の良い物とされ、当時の中近東の花嫁衣装には、このコインに穴を開けたものをヴェールの飾りやネックレスにして、お守りとして身につけ、新しい家族の幸せを願いました。

現在でも結婚祝いや出産祝いの贈り物にも選ばれるという、大変珍しい側面を持ったアンティークコインとも言えるでしょう。

 

マリア・テレジアの1ターラー銀貨が作られた当時の時代背景

では、マリア・テレジアの1ターラー銀貨が作られた時代背景は、どのような世界だったのでしょう?マリア・テレジアが実質的な女帝になった経緯と、どのようにして「レヴァント・ターレル」と呼ばれるようになったのかを中心にご紹介します。

オーストリア継承戦争と若き女性君主の誕生

少女時代のマリア・テレジア少女時代のマリア・テレジア

ハプスブルク家の神聖ローマ皇帝カール6世皇后エリーザベト・クリスティーネは幼い長男を亡くし、その後男児に恵まれませんでした。よって生前から長女として誕生したマリア・テレジアに後継を譲るため、近隣諸国の王族貴族を説得しながら「ハプスブルク家の家督継承法」調印を獲得します。

しかし、カール6世が崩御するとやはり、後継者問題が持ち上がりオーストリア継承戦争が勃発してしまいました。

開戦するとプロイセン軍がオーストリア領内に進撃し、シュレジェンを占領。窮地に立たされたマリア・テレジアは、ハンガリー貴族に援助を求めるためハンガリー国会に赴きます。

その最中、まだ23歳で妊娠中だったマリアテレジアは、乳飲み子(後のヨーゼフ2世)を抱えながら喪服姿に身を包み、流暢なラテン語で貴族たちに援助を願う演説をし、ハンガリー議会と貴族たちを動かしました。

この動きにより、マリア・テレジアは6万以上の兵に武器など、戦況に大きく影響する力を手に入れます。そしてこのオーストリア継承戦争を、列強と互角の戦いで乗り越え、無事家督の相続を認められたのです。

マリア・テレジアによるオーストリア帝国の発展と繁栄の時代

マリア・テレジアは40年にわたってオーストリア帝国を納め、その間、帝国は発展と繁栄の時期でした。そして同時に七年戦争や対トルコ戦争など多くの戦争を経験した時代でもあり、その都度オーストリアの領土を拡大したのです。

継承戦争の後、夫フランツ1世が家督しましたが、彼女が実質的なオーストリア帝国の女帝となり、夫の死後は、家督を継いだ息子ヨーゼフ2世と共同統治を行いますしかし、この次期も実質的な帝王はマリア・テレジアだったと言われています。

マリア・テレジアは、教育・宗教・農業・商業、そして軍事など、様々な分野で改革を行い、帝国の近代化に取り組みます。16人の母であり彼女自身も非常に教育熱心であったことから、最初の普通学校を設立し、貧しい人々のための救済施設を創設し、産業の育成にも注力しました。

マリア・テレジアはこのような功績の多さと女性の異例な統治者として、ヨーロッパ史上重要な存在となっています。

ヨーロッパ諸国と中近東の深まる貿易関係

アブラハム・ストルク作 南の港の風景と商人の絵

アブラハム・ストルク作 南の港の風景と商人の絵

18世紀後半のヨーロッパ諸国は、中近東との貿易に大きな関心が集まりました。

産業革命が進むヨーロッパでは製品需要が高まり、東方からの輸入品が必要となります。中近東は綿花、香辛料、宝石、織物、茶、コーヒーなどを輸出し、オーストリア帝国も中近東との貿易が栄えていきました。この中で、銀の含量が安定していたマリア・テレジア・ターラー銀貨は信頼が募り、特に中近東の商人たちに好まれたとされます。特にエチオピアでは200年間、コーヒー取引に使用された唯一のコインでした。

このような背景が続き、通常の王族のように崩御の後は新しい貨幣に作り替えられるのとは異なり、彼女の死後もオーストリア造幣局で生産が続けられました。これは中東からの需要に応えた判断でしたが、結局このコインは200年以上に渡って没年である1780年の金型で鋳造を続け流通していきます。

後の1857年、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフはマリア・テレジア・ターラーを公式の貿易貨幣と宣言しました。こうして1780年刻印のマリア・テレジアの1ターラー銀貨は、アラブ諸国、アフリカ諸国から、さらにインド、東南アジア、初期のアメリカにまで広がったのです。

このようにして「レヴァント・ターレル」と呼ばれるようになったこのコインは、オスマントルコを中心とした東方(レヴァント)世界に、そして新世界へと広がりを見せていったのです。

マリアテレジアの コインの種類・その他のコイン

アンティークコインの中でも、マリア・テレジアのコインは人気が高く、コレクターの数も多くみられます。では、ターラー銀貨以外のマリア・テレジアの肖像コインには、どのようなものがあるのでしょうか?

神聖ローマ帝国 マリア・テレジア 2ダカット金貨 1778年

神聖ローマ帝国 マリア・テレジア 2ダカット金貨 1778年

1778年にオーストリアで発行されたマリア・テレジア2ダカット金貨。

表面には、マリア・テレジアの肖像と名前が刻まれ、裏面には二頭鷲が描かれ、コインは金地金で製造されており、直径は約25mm、重量は約6.98gです。

非常に美しいデザインと、マリア・テレジアが崩御する2年前に発行されたため発行部数も少なく、貴重な歴史的価値を持っている金貨といわれています。

ハンガリー 1765KB マリア・テレジア 2ダカット金貨 聖母子像

ハンガリー 1765KB マリア・テレジア 2ダカット金貨 聖母子像

ハンガリーで1765年に製造されたマリア・テレジア 2ダカット金貨は、神聖ローマ皇后として最後に発行されました。コインは金地金で製造されており、直径は約36mm、重量は約33.9gです。

美しさや時代背景に加え、表面は立ち姿のマリア・テレジアの肖像裏面の聖母子像と、マリア・テレジアの人柄を連想するデザインからも、人気が高く希少価値があるコインとして知られている金貨です。

ハプスブルク帝国 マリア・テレジア 1/4ダカット金貨 1749年 

ハプスブルク帝国 マリア・テレジア 1/4ダカット金貨 1749年

マリア・テレジアの治世中の1749年に鋳造された、彼女の肖像が描かれた1/4ダカット金貨。

このコインはバロック期の貨幣学の傑作とされ、表面にはマリア・テレジアの詳細な描写が、裏面にはハプスブルク家の紋章が描かれています。
現在では、コイン収集家の間で価値が高く入手困難なアイテムとなっています。

 

マリアテレジア ターラー銀貨の価格推移

マリア・テレジアの1ターラー銀貨は1780年に発行されたオリジナルが人気のため、1800年代に発行された「リストライク(Restrike)」と近年発行された「モダンリストライク(Modern Restrike)」があります。

モダンリストライクはプルーフも発行されており、ハイグレードでも比較的手に入れやすい金額のため、コレクションの1枚に加えてみてはいかがでしょうか。

広い帝国内で発行されていたため、ウィーンをはじめドイツやイタリアなどでも発行されています。

AU58 1780年 オリジナル

AU評価ですが、プルーフライクのような見た目のため、通常のAU評価よりも高値のお取引です。

AU58 1780年 オリジナル

ウィーンミント。

2021年11月4日に$576で落札。

MS61

1780年銘ですが1817年〜33年に発行されたリストライクです。

MS61

ヴェニスミント。

2021年1月17日に$552で落札。

MS62+ 1780年 オリジナル

MS62+ 1780年 オリジナル

ギュンツブルツミント。

2021年1月7日に$720で落札。

MS64 Restrike

リストライクは全て1780年銘です。オリジナルに比べるとマリアテレジアの表情などのデザインが少し違って見えます。

MS64 Restrike

2023年1月19日に$104で落札。

PF70 Ultra Cameo Restrike

PF70 Ultra Cameo Restrike

2023年2月16日に$552で落札。

 

まとめ

 18世紀、世界は貿易が盛んになり、西洋諸国とオリエンタル世界の流通が生まれました。

長い人類史の中200年以上世界を駆け回り、血液のように世界を循環していたマリアテレジアの1ターラー銀貨。世界中に広く長期に渡り使用されていたので、発行部数は億を超えることから、アンティークコインとしての希少さは決して高くはありません。

しかし、世界史の中で重要な役割を担い、歴史への情景感を溢れさせてくれるコインであり、大切な人へのお守りとしての贈り物としても愛されているコインとして、なぜかとても魅了されてしまいますよね。

貿易時代を駆け巡った繁栄のお守りとしても魅力的な、マリアテレジアの1ターラー銀貨。一つ一つにそれぞれの物語を辿ってきたことでしょう。ご興味のある方は、是非一度、アンティークコインギャラリアにご相談くださいませ。

 

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