硬貨を購入する前に知るべき5つのこと
アンティーク・モダンコインを購入する際に理想的なのは、そのアンティーク・モダンコインについて知っておくべき知識をコレクターがすべて身につけていることです。「レッドブック」にあるような鋳造年、造幣局、ミントマーク、評価額などの一般的な知識も含め、評価済みアンティーク・モダンコインの数やマーケットの動向なども含めてです。本気で理想のコレクターについて語るなら、経済学者の言うところの「完全知識」をそれぞれのコレクターが持つことでしょう。
それぞれに完全知識があれば、取引に関するすべての関連情報もそれぞれの頭に入っていることになり、他の誰かを犠牲にして、自分に取引が有利になるように情報を悪用することができないということになります。
けれども残念ながら、現実はそれほど単純ではありません。経済学という最高に抽象的な世界は、例えるなら伝記というよりはおとぎ話のようだと、私は日々の体験から身につまされて感じています。ただ、決して恐ろしい類の話ではありません。
アンティーク・モダンコインコレクターは格言を好みます。そして現在まで生き残った格言は、残酷な社会進化論 者の進化の過程で、実際に繰り返し使われていきました。その進化のおかげで、夢見がちな人間ばかりのアンティーク・モダンコインコレクターが最も現実的な人間になりうるのです。そして、コレクター達の中で繰り返し言われ続けている重要な言葉の一つは、「デュー・デリジェンス 」です。
実務的な作業のわりに抽象的なネーミングですが、デュー・デリジェンスはシンプルに下調べや予習を行うことです。アンティーク・モダンコインについて学び、どの市場で人気があるかなどを調べます。ただし、「デュー・デリジェンス」の概念は、他の格言と同様に何度も何度も繰り返し掲げて良いものと言えるでしょう。私にはこの「アドバイス」が、2つの単語が並んでいるだけなのに、なぜか急激に奥深い言葉のように聞こえていました。
そこで今回は、アンティーク・モダンコインを購入する前に知っておくべき5つのことを手短にお伝えしたいと思います。面倒な内容ではありません。他の誰かが違った言葉で、もっとうまく同じことを言ってくれるかもしれません。ただ、私も二足の草鞋を履きながら15歳からこの業界にいる者として、皆さんを感心させられるようなお話をお届けできるかもしれません。
1.最初は真面目に。真剣にやっているか?
まずは、最も漠然としていて、ちょっと恥ずかしいですが、まじめな話から始めましょう。アンティーク・モダンコインを買う際に目的が伴っているかについてです。例えば自身の目的・目標は何でしょうか?そのアンティーク・モダンコインを買うことでどのように目標の向上につながるでしょうか?
ただ、そうは言ったものの、目的について考えることがいつも重要というわけでもありません。むしろ時には思い切ってお金を使ったって良いでしょう。ランダムアンティーク・モダンコイン(変形アンティーク・モダンコイン)が目に留まったのなら買っても良いのです。将来的にきちんと責任が取れるなら、ちょっとした買い物をたまにする分には何も悪いことはありませんし、アンティーク・モダンコインを買うとき常に目標を掲げているより、アンティーク・モダンコイン収集のためになるかもしれません。
混乱させてしまったかもしれませんが、次のことを考えてみてください。どうしてそのアンティーク・モダンコインが目に留まったのか?そのアンティーク・モダンコインの何かに引き寄せられたからでしょう。その何かが欲しいと思わせるのかもしれません。または、現在のコレクションに飽きてきていてそのことにすら気づいていないのかもしれません。そういった「漠然とした」気持ちで買い物をすることでも収集の目的が分かることもあるでしょう。そして、あらたな目標を設定するきっかけになるかもしれません。心に任せてみたら、もっとさらに高い目標設定ができる可能性もあります。
というわけで、気持ちに素直に買い物をしてみましょう。ただし、適度にです。目標はまだ持ったままで、決して予算を越えないようにしましょう。空腹のときに食品の買い物をするなと言いますよね?もちろん、ウィンドウショッピングをするのと、実際にクレジットカードを出してしまうのは別物です。カードの16桁の数字を入力するときは、自分が何を求めているのか、お値打ち品とはどんなものか、本来どういうところで入手できるものなのか頭に思い浮かべましょう。
2.自分が求めているもの、惹かれるコインは何か?
多くの人が、アンティークコインを集めているうちに興味が薄れるときがあります。より良いアイテムに行き着く人がいる一方で、中には収集活動を中断してしまう人もるのです。これについては、興味が薄れた経験がある人ならどんな感じか分かるかもしれません。
多くの人がアンティーク・モダンコイン収集を、生涯をかけて成し遂げることのように考えるのには訳があります。収集の対象となるアイテムも、その手段も数えきれません。知識と経験が増えていくと、その繊細さと可能性にますます取り込まれていくものです。そして幸運なコレクターは、多くを知り洗練されていくことが大きな楽しみに繋がっていきます。知るほどに自分の無知を知り、探求心と驚きの感覚が磨かれていくのでしょう。
長く趣味に没頭していると、子どもの頃に戻ったような気分になるかもしれません。この過程についてもよく使う言い方があり、スペシャライゼーション(特殊化)と言います。1922年から1926年の間に発行されたハイレリーフ ピースダラー の、MS68ランクのショートセット から集めるような珍しいコレクターが当てはまるでしょう。
たいていのコレクターはお釣りに珍しいアンティーク・モダンコインが混じっているのを見つけたり、空っぽのアンティーク・モダンコインフォルダーを見つけたり(、クリスマスプレゼントでアンティーク・モダンコインのミントセットをもらったり)がきっかけです。どの場合もだいたいそのようなものでしょう。鋳造年やミントマークもよくあるきっかけです。
最終的に、そして一度興味が薄れる体験をした人もその後、あるミントセットを見たときに他と比べて「より洗練された」ものと感じるようになるかもしれません。あるいは、ある一枚のアンティーク・モダンコインが同じタイプの別バージョンのものより魅力的に感じることも。そこで、「そのアンティーク・モダンコインを買う前にアンティーク・モダンコインに関する本を買い」、その興味をそそるアイテムについて学ぶようになるのです。
そうなれば占めたもの!ほんのひとときでも、自分の目に留まったアンティーク・モダンコインについて学ぶことに費やしたなら、もう(まだアマチュア?)貨幣収集家(ヌミスマティスト)の仲間入りです。(汚いものを表す言葉ではありません 。辞書にも載っています。)
そうなれば、アンティーク・モダンコイン販売店や販売サイトを訪れたときに、収集対象のアイテムがずいぶん絞られてきます。どれ良さそうには見えますが、ターゲットがきれいなバーバー50セントアンティーク・モダンコイン に決まっていれば、MS62ランクのモーガンアンティーク・モダンコイン が詰まったショーケースで立ち止まらずに行くことができるでしょう。
自分が求めているものは何か?専門を作り、それを追求していきましょう。
3.コインは需要を映す鏡。価値のある品とはどんなものか?
アンティーク・モダンコインのガイド本やウェブサイトには、アンティーク・モダンコインについての具体的な事柄が記載されています。鋳造年、ミントマーク、表面(おもてめん)・裏面の特徴、デザイナー、品位、純度、仕上げ加工などなど。鑑定済みの(「スラブ付き」)アンティーク・モダンコインを買う際は、グレードや状態、所有歴、発行数の記録などについて尋ねるでしょう。それらはみんな役に立つ情報であることに間違いはありません。すべての条件が同じであれば、コレクターのほとんどは、数が少なく、重要な鋳造年に発行された、貴金属純度99.9%のものを所有していれば満足するはずです。
そして、こういった情報は明らかに売り手のディーラーにとって有益です。では、なぜディーラーはこういった情報を買い手に伝えないのでしょう?それは、そういった情報は、買い手の知的好奇心をくすぐるからです。
アンティーク・モダンコインの本当の価値を知りたいと思うのが当然だと考えるかもしれませんが、それは違うでしょう。アンティーク・モダンコインの「価値」というものは単なる鏡であり、暗号なのです。需要を映す鏡とでも言いましょう。ただ、気をつけないと、現実ではなく、自分の見たいと思うものを映す魔法の鏡でしかありません。
ディーラーは一般的なコレクターよりアンティーク・モダンコインや市場についてよく知っています。けれどもそういった知識も常に変化しますし、完全ではありません。たとえレッドブックでも、デイビッド・バウアー(ごめん、デイビッド)も私自身も含め、アンティーク・モダンコインの「真の」価値をピンポイントで示すために必要となる、膨大な量のデータを蓄積、分析することはできません。そして、そのために費やす時間とエネルギーがあったとしても、些細なものであれ、新たな情報が日々入ってくるたびに、その価値は変わってしまうのです。
皮肉なことに、アンティーク・モダンコインの「真の」価値を知ることができないからこそ、熟練のアンティーク・モダンコインディーラーはコレクターにとって価値があるのです。熟練ディーラーは仕事柄、コレクターよりも多くのアンティーク・モダンコインを目にし、学んでいます。コレクターは、自分の好きなものを、好きなタイミングで、自分のしたい範囲で学ぶなりします。さらに言うと、人間の脳はよくできたもので、空白を補完し、パターンをみつけることができます。熟練の、さらに有能なディーラーのアンティーク・モダンコインに関する直感はかなり磨かれていると言えるでしょう。
自分の仕事に置き換えると分かりやすいかもしれません。ただし、これはそういったディーラーとクライアントの関係がすでにあれば、の話です。もし、アンティーク・モダンコイン販売店に入ったことがなければどうでしょう?買い物はいつもオンラインでという場合は?必ずしも信用できるディーラーが身近にいるとは限りません。
そこで、私が先ほどアンティーク・モダンコインの価値について述べた話を思うと、お粗末に聞こえるかもしれませんが、手始めにレッドブックを頼りにすると良いと考えています。専門知識が増えていけば、短い遺書ほどの働きもしないかもしれません。けれども、レッドブックは「誰もが」見るガイドブックです。レッドブックにある数字は、誰もが最初に信じるものなのです。参考にする程度なら問題はありません。
レッドブックよりもあてになるものを利用している人もいます。それはeBayです。eBayは日々チェックしておきましょう。購入を検討しているアイテムの検索をすることをおすすめします。「アドバンス検索」をクリックして、様々な条件で探してみましょう。皆さんは、私が自分の商売を後回しにしているとお思いになるかもしれませんが、次の事を念頭に置いておいてください。たとえ誰かが破格の値段でアンティーク・モダンコインを手に入れたとしても、他の誰かが法外な価格でアンティーク・モダンコインを買うのです。誰がどちらの道を行くかは誰にもコントロールできません。
ただし、パターンを見つけることはできます。簡単ながら継続的に様子をうかがっていたのですが、私の見たところeBayでは、ほとんどのシリーズがおおよその平均価格で取引されているようです。ところで、私がeBayの名前を挙げた理由ですが、これはレッドブックの名前を挙げた理由と同じで、「誰もが」利用するからです。eBayはライブオークションサイトで、頻繁に内容が更新されますし、発信する情報の多さでは他を大きく凌駕しています。
もう一つ覚えておいてほしいことは需要についてです。造幣局が深夜に発売したコイン・オブ・ザ・イヤー(その年のアンティーク・モダンコイン)はお昼時までには完売したでしょうか。私の店にもありますし、多くのディーラーが持っているアンティーク・モダンコインです。需要が高く、供給がほとんどない状態になれば、価格はその逆の状態の時よりも高くなるものです。皆さんは、私が「お安く提供します」と申し出るべきだとお考えかもしれませんね。
けれども、ここでお伝えしたいのは、価値のあるものを見つけるための方法は、もう皆さんの頭の中にあるはずだということです。多くを学び、収集活動を長く続けるほど、アンティーク・モダンコインに関する直感は磨かれていくのです。
4.どこで買うかは、コインディーラーとの良好な関係を作ることが大切
さて、ここまでは、自分の専門を作り、誠実なコレクターになりましょうというお話でした。アンティーク・モダンコインの価値は幻想であること、そして「完全知識」についてもお伝えしました。デュー・デリジェンス。需要。市場についてもお分かりいただけたと思います。ではここでは、我慢すること、お金の使い方についてお話します。これは、鍛錬を重ね、実行し、意識することが必要です。実は、私の収集リストの4番目にあったアイテムは、他人の手に渡ってしまいました。アンティーク・モダンコインを売ったことも売りたいと考えることもないような人にです。コレクターとディーラーの関係をしっかり作るよう私が勧める訳を知っている方もいるかもしれませんが、私の言葉の中に活かせる知恵があるとしたら、まさにそれでしょう(少なくともしばらくは収集の世界にいることが前提ですが)。
というわけで、「どこでお値打ち品を見つけられるか」の質問の答えは、コレクターとディーラーの関係がうまくいっていればどこでも、ということになるでしょう。この関係は他の言葉で例えるなら、「カスタマーサービス」です。ですから、私からオンラインで買い物をする人は、他のディーラーたちをはるかに上回るカスタマーサービスをご期待ください。
コムキャストのカスタマーサービスについてのひどい話を耳にしているでしょうか。アンティーク・モダンコインを買う時は、オンラインでもなんでもコムキャストで買い物をするのはやめておきましょう。アンティーク・モダンコイン販売店に助けを求めて、無力感に襲われたことはありませんか?明らかに裕福で、よそからのビジネスを必要としていないような輩です。そんな時はもっと良くしてくれるところが他にあるはずなので、そちらに行きましょう。
5.楽しむことを忘れない!
では、最後のお話です。私は皆さんに楽しむことを常に忘れずにいてほしいと考えています。あれも、これも、楽しいから買うというスタンスでいてください。そうできるものだし、皆さんもそうしたいはずです。楽しくないなら買わないでください。楽しくないならアンティーク・モダンコイン収集はやめましょう。
確かに「味わいつくした」と感じることもこの先あるでしょう。まるで、自分の応援しているアメフトのチームがワールドシリーズで買ったり、最後のフォースダウンで失敗したりしたときに感じるような、気持ちの上がり下がりはあるものです。ただ、何でもそうであるように、情熱は下火になるときも、高まるときもあります。
それを知っていれば、長くアンティーク・モダンコイン収集を続けることができるでしょう。