フランスに君臨した太陽王ルイ14世の時代に、イギリスの王であったのがチャールズ2世。チャールズ1世の次男として生を受けたチャールズ2世は非常に多くの王として即位しており、王政復古期ステュアート朝のイングランド・スコットランド・アイルランドの王として君臨していました。

奔放な私生活にもかかわらず、イギリスの君主の中では国民に愛されたチャールズ2世。カトリックとプロテスタントという、キリスト教会の二大勢力のはざまで生きた王でもあります。ルイ14世は自らの神格化に熱心でしたが、チャールズ2世の魅力は茶目っ気のある人間性にあるといえるかもしれません。

チャールズ2世はどんな君主であったのでしょうか？

チャールズ2世 5ギニー金貨

基本データ

コイン名	イギリス　チャールズ2世　5ギニー金貨
通称	チャールズ2世　5ギニー
発行年	1668年〜1684年
国	イギリス
額面	5ギニー＝100シリング
種類	金貨
素材	金
発行枚数	-
品位	Au 917｜K22
直径	37 mm
重さ	41.94 g
統治者	チャールズ2世
デザイナー	-
KM	# 430｜# 444
表面のデザイン	右向きのチャールズ2世の肖像とレジェンド
表面の刻印	CAROLVS·II· DEI·GRATIA（神の庇護を受けしチャールズ2世）
裏面のデザイン	4つの王冠と紋章の盾と交叉する笏杖、レジェンド
裏面の刻印	MAG· BR·FRA· ET·HIB· REX·16 72·（ブリテン、フランスそしてアイルランドの王）
エッジのタイプ	レタリング
エッジの刻印	年号がラテン語で表記されている

メディチ家の血もひくチャールズ2世とその家族関係

▲チャールズ２世

亡きエリザベス2世女王の長男であり、現在のイギリスの王であるチャールズ3世。長いイギリス王室の歴史において、”チャールズ”という名前を持つ王はチャールズ3世の他にこれまで2人しかいません。

チャールズ２世の生い立ち

▲幼少のころのチャールズ

チャールズ2世は今から400年近く前の1630年、チャールズ1世とヘンリエッタ・マリア王妃の次男として、セントジェームズ宮殿にて生まれました。

チャールズ1世と王妃の間には、長女メアリー・ヘンリエッタ、次女エリザベス、三女のアン、四女キャサリン、五女ヘンリエッタ・アン、三男のジェームズ、四男ヘンリーがいます。

チャールズ2世は、スチュアート朝の3代目（在位1660年から1685年）です。日本の皇室と違い女性にも継承権があったイギリスでは、女性が即位したり王女の夫が王になるたびに王朝名が変わります。

チャールズ2世のフランス王室とメディチ家との家族関係

父王チャールズ1世は、放埓な王が多かったイギリスの王の中では非常に生真面目な人でした。しかし宗教弾圧や反乱に巻き込まれ、1649年に処刑されてしまいます。当時二十歳そこそこであった息子のチャールズも、フランスやオランダに亡命することを余儀なくされました。

母のヘンリエッタ・マリアは、フランスの王女です。すなわち、チャールズ2世は英国王であるだけではなく、フランス王家とも血の繋がった親戚でした。太陽王ルイ14世とは従兄弟同士になります。また、ヘンリエッタ・マリアはメディチ家のマリーを母としているため、チャールズ2世はイタリアのメディチ家の血もひいていることになります。まさに、ヨーロッパにおけるとても高貴な血を引く者として生を受けたのです。

政略結婚としてはまれなほど両親の夫婦仲はよく、父王チャールズ1世は王妃以外の女性と関係を持つこともなかったといわれています。しかし息子のチャールズ2世は、残念ながら王妃との間に嫡子を持つことができませんでした。そのため、チャールズ2世の弟が後を継ぎます。この弟がジェームス2世で、まさに華麗なる一族といった趣です。

きらびやかな家系に生まれながら父のチャールズ1世が処刑されたことでもわかるように、当時のヨーロッパはカトリックとプロテスタントが勢力が拮抗し、紛争が絶えない時代でした。しかし、チャールズ2世は、陽気で人間的な王様としてイギリス国民に愛され続けました。

チャールズ2世の王政復古を実現

父王が処刑され、その後を引き継いだクロムウェルはイングランドを共和制の流れを重んじた国として治めていきました。しかし、多くの国民はそれを受け入れることなく反発しました。そしてチャールズはスコットランドの信頼と支持を得た後、新しいイングランド王チャールズ2世として戴冠式を行うこととなりました。

▲チャールズ2世の凱旋

そしてクロムウェルは、戴冠式の当日に国王殺しのお咎として、その遺体を公衆の面前に晒されてしまいます。その後、ペストの大流行や大火などにも見舞われましたが、チャールズ2世の在位期間中、高い支持を受けたままだったと言われています。このような高い人気と絶対的な王権として、後世に語り継がれるコインのマスターピースが生み出されました。

 

恋に生きた「陽気な王様」チャールズ2世と女神ブリタニア

紆余曲折を経て、チャールズ2世がイギリスの王位を継いだのは1660年です。ちょうど、30才を迎えるころのことでした。根っからの女性好きであったチャールズ2世は、政変や亡命といった境遇の中でも女性たちとの恋に事欠きませんでした。そのため、即位したときにはすでに数人の庶子の父でもあったのです。

▲王妃キャサリン

生涯の妻王妃キャサリンと14人もの愛妾との良好な関係

即位の翌年である1661年、許婚者であった8歳年下のキャサリンと結婚します。キャサリンは、ポルトガル王家の娘でした。

当時東洋との交易で潤っていたポルトガルからキャサリン妃がもたらしたのが、紅茶です。彼女によって、イギリスのティータイムという文化が生まれています。

▲1700年代のティータイムの様子

公式の愛妾の数が14人という、とんでもない夫であったチャールズ2世。しかし女性を泣かすことは決してしない、優しい男性であったようです。イギリス国教会の典礼による戴冠式を拒否するという頑固なキャサリン妃を、生涯かばい続けました。

14人という愛妾たちに対しても、チャールズ2世は非常にマメな恋人でした。チャールズ2世は女性たちに強権をふるうこともなく、逆に女性たちのほうが嫉妬や独占欲から騒ぎを起こすという状況が起こったようです。それぞれから生まれた子供たちにも分け隔てなくかわいがり、叙爵から結婚まで父親らしいおせっかいを発揮しました。

チャールズ2世とフランセス・スチュアート

チャールズ2世と同じくスチュアート家の分家の家柄出身のフランセス・スチュアートは、10代からチャールズ2世の妹の女官としてフランスの宮廷で恋の手管を磨いたようです。

チャールズ2世が即位して3年後にイギリスの宮廷に戻ったフランセスは、彼女に執心するチャールズ2世とはつかず離れずという関係を続けて、彼をやきもきさせました。家柄も問題がなかったため、チャールズ2世の側近たちは、子どもができない王妃を離婚させてフランセス・スチュアートを王妃にすることも進言したと伝えらえています。

しかし、王妃としてのキャサリンを大事にしていたチャールズ2世が、これを受け入れることはありませんでした。

▲フランセス・スチュアート

フランセス・スチュアートは、王族の血を引くリッチモンド公爵と恋中になります。しかし、結婚に関してチャールズ2世の許可を得ることは不可能と察したフランセスは、なんと王妃キャサリンの袖にすがるのです。キャサリンは、2人が駆け落ちすることを勧め、恋する2人は王妃のお墨付きを貰い、駆け落ちをするにいたります。

現在もコインに続デザインされる「女神ブリタニア像」のモデルとは？

チャールズ2世はフランセス・スチュアートの駆け落ちを知って激怒したものの、よほど彼女の美貌に未練があったのか、1672年に発行されたハーフ・ペニー銀貨に彼女の姿を模したイギリスを護る女神「ブリタニア像」を刻みました。また、即位後に王政復古を記念して発行した「ブレダ記念メダル」にも女神ブリタニアが刻まれています。現在も、イギリスの50ペンス貨には鉾と盾を持った「ブリタニア」が刻印されており、フランセスの姿を見ることができます。

▲2023年発行の100ポンド金貨にも刻まれるブリタニア（右）

「ブリタニア」とは、イギリスという国を擬人化した像です。フランセスをモデルにしたブリタニア像のコインは、チャールズ2世以後の国王たちによって発行され続けて、イギリスでは最も長くデザインされているモチーフの1つです。

フランセスはその後、駆け落ちまでした夫を早く失い、イギリスの宮廷に戻りました。1702年に亡くなるまで、宮廷に仕えていたようです。

故ダイアナ妃へと受け継がれたチャールズ2世の血筋

ヨーロッパの高名な貴族や王族の血を引いていたチャールズ2世は、王妃との間に子どもがいませんでした。そのため、王位は弟に譲っています。一方で、チャールズ2世と愛妾たちとの間に生まれた子供は14人。それぞれの子どもが将来困らぬよう、持参金付きの嫁を迎えたり爵位を与えたりと心を配りました。

美しいプリンセスとして今も絶大な人気を誇る故ダイアナ妃は、このチャールズ2世の嫡子たちの血を色濃く継いでいます。独占欲が強かったバーバラ・ヴィリアーズ所生のグラーフトン公爵、権勢欲の強かったルイーズ・ドゥ・ケロワール所生のリッチモンド公爵、また一番最初の愛妾ルーシー・ウォルター所生のメアリーの子孫に当たるのが、故ダイアナ妃なのです。

そしてもちろん、故ダイアナ妃を通じてチャールズ2世のDNAはウィリアムとハリー両王子にも伝わったというわけです。爵位を子供たちのために気前よくふるまったために、現在の英国王室にもチャールズ2世の血を引く人々がひしめいています。

 

イギリス「初」が多いチャールズ2世のコインのご紹介

イギリスで最初に発行された5ギニー金貨は、チャールズ2世でした。発行されたのは、チャールズ2世が戴冠した1660年から3年経った1663年です。

『ギニー金貨』とは何なのでしょうか？

ギニー金貨とは、アフリカのギニアによって採掘された金から製造された金貨のことを指します。

このギニー金貨はチャールズ2世の時代から始まり、最終的に1817年の貨幣法によって『ソブリン金貨』に移り変わるまで続きました。今回ご紹介している5ギニー金貨は、当時の金貨の中でも最も高い額面であり、その重さは約40gもあります。

この5ギニー金貨から、コインの製造方法がそれまでの手打ちから機械式に変わりました。当時は精度にばらつきがあり、クオリティが高く状態の良いコインは少なかったそうです。さらに、一般流通していた貨幣でもあったので、現在でも良い状態を保って残っている5ギニー金貨は少なく、その貴重さから、コレクターにとっても希少性が高いコインのひとつです。

年号が刻印された5ギニー金貨の登場

チャールズ2世の治世である1663年から発行が始まった5ギニー金貨ですが、1668年に発行されたチャールズ2世の5ギニー金貨までは年号が記されていませんでした。年号が記されるようになってからは、国王が亡くなる1685年の前年である1684年まで、毎年刻印されるようになりました。この年号が記されている5ギニー金貨は、17の異なる年代と6種類のデザインが存在しています。

プルーフ仕上げのコインの登場

チャールズ2世の時代から、「プルーフ仕上げ（鏡面仕上げ）」のコインが初めて登場しました。これは流通ではなくコレクションを目的としました。

1662年に発行されたプルーフコインは、当時のヨーロッパでも屈指の技術力をもったイギリスの王立造幣局（ロイヤルミント）によって発行されました。しかし、発行枚数は極端に少なく、チャールズ2世によって発行されたプルーフコインは、存在が認められているのはごくわずかです。

そのうちの1枚は、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵しています。

オークションでの取引履歴ではおよそ1億円です。

 

チャールズ2世5ギニー金貨のデザイン

1680年のチャールズ2世の5ギニー金貨の表には、『月桂冠を身に着けたチャールズ2世』が「右向き」で描かれています。実はチャールズ2世のデザインには右向きと左向きがあり、国王が変わる度に交互に描くようにとチャールズ2世自身が希望したと言われているのです。これは先王だったクロムウェルと同じ向きになるのを拒否したためとされています。

周りの文字は『CAROLVS II DEI GRATIA』と記されており、日本語訳すると「神の庇護を受けしチャールズ2世」という意味です。

裏面には、4つの王冠と紋章の盾と交叉する笏杖が描かれています。紋章それぞれの意味は以下のようになります(12時の方向から時計回り)。

【スリーライオン】リチャード1世(獅子心王)が1198年に定められたイングランドの紋章

【レッドライオン】前脚を上げた赤いライオンでスコットランド議会の紋章

【フルール・ド・リス】アヤメ(アイリス)の花を様式化したもので、スコットランド王家の紋章の中でも重要な意味を持つ

【アイリッシュハープ】金色に輝くハープに鋼の弦。d12世紀頃からアイルランドで実在していたハープであり、ケルト人のハープという意味から「ケルティックハープ」とも呼ばれる。

これらのデザインはその後のギニー金貨の基礎となっており、多少のデザイン変更とともに、引き継がれました。

 

イギリス チャールズ2世 5ギニー金貨の価格推移

チャールズ2世の金貨は「パラマウントコレクション」からのものが多く、市場での希少性が伺えます。コレクターの手元に収まってしまうと更に希少性が高くなるのがアンティークコイン。もしマーケットでご希望の価格に合ったものがあれば、手に入れることをおすすめします。

AU55

パラマウントコレクションより

2021年3月26日に$84,000で落札。

AU58 "Elephant"

肖像の下の小さなゾウの刻印は、王室経営の「ロイヤルアフリカンカンパニー」から調達された金地金を使用した印です。

パラマウントコレクションより

2021年3月26日に$90,000で落札。

MS61

MS61と聞くと「そこそこの状態」と思いがちですが、この年代のコインのほとんどは「Detail評価」が多く、60UP↑の鑑定評価がつくことは稀です。

「ほぼ完全な状態の打刻」ということです。

パラマウントコレクションより

2022年5月5日に$120,000で落札。

PR63 Cameo

ピットマン、ファルーク、マードックなど、世紀に名を残すコレクターたちの手に収まっていたのも同じくこのプルーフです。

発行枚数は10枚程度だそうです。

来歴も華々しく、1785年に最初のオークションにかけられました。この当時はトーマス・リー・ダマーという方の遺産から、1832年にトラトル公爵のコレクションへ。そしてデヴォンシャー公爵コレクションから、シンプソンコレクションへ。そしてマードックコレクションからエジプト最後の王ファルーク、そしてピットマンの手へと渡りました。

パラマウントコレクションより

2021年3月26日に$780,000で落札。

 

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