アンティークコイン収集のストラテジー: 絶えず変化する趣味の世界
実は一般的ではなかったコイン収集
現在のコレクターの多くは、異なる造幣局で作られた硬貨の収集が20世紀初頭まで一般的ではなかったことに驚きを隠せません。コレクターが支局で造幣された硬貨の収集に注目するようになったのは、1893年にジョージ・ヒートン が合衆国造幣局支局の硬貨鋳造についての論文を発表してからです。
1927年銘 デンバー造幣局鋳造のダブルイーグル(20ドル金貨)には150万ドル(約1億7千万円)、同じく1927年銘のものでも、ミントマークなしのダブルイーグルに、近代のコレクターが1,500ドル(約17万円)を支払うなどということはまずありえないでしょう。
ミントマークが意味する価値
あの小さなミントマークにひと財産の価値があるのだ。造幣局の支局が鋳造した硬貨を収集するという価値観に、初期のコレクター達が理解を示さなかったであろうということは、スミソニアン博物館のナショナル貨幣コレクション(NNC)から知ることができます。
NNCの主なコレクションは、合衆国造幣局コレクションからのもので、1838年ころから同造幣局の貨幣鋳造師長を務めていたアダム・エックフェルトによって集められました。
プルーフ貨幣に関しては、初期のものから、その後に発行されたものまで、極めてよく揃っています。だが、造幣局支局で鋳造された硬貨はほとんどありません。
のちの1960年代に加えられたリリー・コレクション によって、NNCの金貨コレクションは多くの穴を埋めることができたと言えます。 時の流れと共に、アメリカでの貨幣収集において大きな流れが生まれています。
金ののべ棒からスタートして派生したコインコレクション
1960年代に、流通貨幣への銀の使用が控えられるようになると、コレクター達は棒金やプルーフ貨幣の収集に夢中になりました。これは、1960年代にかなりの人気を博しており、貨幣雑誌のCoin World(コイン・ワールド)や、Numismatist(ヌミスマティスト)を見てみると、そういったアイテムの販売広告が数多く掲載されています。
当時のコレクターの多くは、完全未使用の棒金やプルーフ貨幣の投機家としてスタートしています。1960年代に貨幣収集の趣味が人気となり、多くの刊行物の発行部数や団体の会員数が最多に達していることは興味深い。
その頃のANA 会員数も最多に達しており、現在の2万5千名に対し、5万名ほどもいたといいます。 1970年代は貨幣業界の中心にあったのは銀や金の延べ棒だ。また、1980年代中頃までは通常発行金貨が取引の大半を占めていました。
1984年なら、通常発行のインディアン5ドル金貨がミントステイト に近い場合、1,000ドル(現在の約2,500ドル:約28万円)以上で取引されていたでしょう。
当時は事実上、大多数のコレクターは希少硬貨の存在を気に留めていなかったのです。プロの硬貨ディーラーが現在所有している貨幣財産は、もともとコレクターや投資家に普通金貨を売却して得てきたものです。
鑑定機関によるアンティーク・モダンコイン収集業界の劇的な変化
1980年代中頃の第三者機関による鑑定の発展は、貨幣収集業界を劇的に変えました。おかげで現在、希少硬貨にはある程度の流動性(取引の活発さ)があります。以前なら夢にも思わなかったことです。
また、硬貨の総数に関する記録などを調べることで、コレクター達が硬貨の希少性を知ることも可能な時代になっています。 1990年代にはいますと、新たな投資金が市場に流れ込み、取引価格は急激に上がることとなりました。
主に投資金で満たされた市場はどこも同じように、バブル景気に沸き、そして劇的に価格は下がってしまった。その後市場は回復しましたが、希少硬貨の価格は主にコレクターからの需要によって決まっているというのが現状です。
インターネットの登場で、投機的な価格感に
インターネットが誕生してからは、数えきれないほどの本格的なコレクターが世界中で生まれています。現在、希少硬貨市場はかつてないほど透明性が高く、流動的(取引が活発)です。
第三者機関鑑定やインターネットが重要要素となり、アメリカでは新たな収集トレンドが数多く進んでいます。コレクターは、様々な硬貨シリーズのセットを揃えることに、これまでにない注目を見せています。
極端に走り、最高価値の品を入手するために「なりふり構わない」額を支払う者も少なくありません。硬貨オークションでの実勢価格は、極めて驚異的な額になっています。
硬貨はかつて、紙製のホルダーにはめ込んで収集するような程度だったにも関わらずです。セットレジストリ を利用した収集方法により、貨幣業界の見え方が根本から変わってしまったのです。
現代硬貨(1965年頃以降に鋳造されたもの)については、その魅力に首をかしげる者も多いです。貨幣収集において、現代硬貨を下層に位置づけ少し馬鹿にして見ていたのです。
このパイオニア、今は亡き貨幣収集界の偉人、ボブ・レッチェがディスプレイした現代コインでいっぱいのショーケースを見てとても楽しかったことを思い出します。当時、彼はそのわずか数年前までアメリカ随一の重要金貨ディーラーをしていました。
所有していたビンテージ硬貨をおおむね売り払い、現代硬貨市場に飛び込んだのだ。ここにきて、彼が聡明で、先見の明があったことは明らかとなりました。
この10年ほどで現代硬貨市場が急成長しています。 現代硬貨の人気の高さをより一層実感したのは、現代硬貨セットを集めてほしいというコレクターが現れたことだ。
1965年以降に鋳造された硬貨にも興味深く、価値の高いものはたくさん存在するということです。そういった硬貨の多くにはそれぞれ物語があり、それら以前の時代の硬貨にも引けを取りません。そして、最も魅力的な点は、価値のある現代硬貨の多くが手ごろな価格で手に入れられるというところ。
数百万ドル(数億円)とまではいかなくても、数十万ドル(数千万円)の価値はあると言われています。だが現代硬貨については、一般的なコレクターにとってもかなり入手しやすい価格がついています。
手を出しやすいシルバーイーグルの台頭
おそらく最近は、イーグル硬貨の中でも特にシルバーイーグル(イーグル銀貨)を収集するコレクターが増えています。アメリカ国内の大規模希少硬貨市場の多くでは、シルバーイーグルの現行硬貨を数えきれないほど売りに出されています。
シルバーイーグルは、初心者コレクターが貨幣収集に入門するにあたって理想的な「入り口」とされています。大きさもあり、高品位でありながら、それほど硬貨ではないからです。
毎月数千人という初心者コレクターがシルバーイーグルを購入し、収集の趣味にはまっていっています。2019年版も、年明けに市場に入り次第、多くのコレクターがこぞって入手を試みるでしょう。
趣味としてのアンティークコインを楽しむために
好みの貨幣が何であれ、この貨幣収集という魅力的な趣味の世界の歴史を理解しておくことは重要です。
この次に現代硬貨と見事なビンテージ硬貨のショーケースが隣り合わせになっているのを目にする時、コレクターの関心の対象が幅広い訳がわかりますね。希少硬貨市場の進化は続くでしょう。だが、通のコレクターなら過熱市場は避けて、新たなトレンドやチャンスを探すべきです。
一番のアドバイスは自分が楽しいと思える貨幣シリーズを見つけ、それについてできるだけ知識を深めること。収集の対象がセイント・ゴーデンズ ダブルイーグル だろうが、50州25セント硬貨 だろうが、このアドバイスが役に立つことを願っています。