ルイ16世1ルイドール金貨とは?フランス革命前夜の財宝の魅力とフランス王朝の終焉について

▲ルイ16世の肖像

フランス革命前夜まで発行されていた、フランス・ブルボン王朝の繁栄を象徴する「ルイドール金貨」。ルイドールは、フランス王家の権威と経済力を象徴する重要な通貨でした。

特に、最後の王であるルイ16世が存命中に発行された金貨は、現存数の少なさからも「奇跡のルイドール」とも称されています。

ルイ16世は妻マリー・アントワネットとともに、フランス革命により民衆の手でギロチンにかけられました。その彼が発行したルイドール金貨は、旧時代と新時代が交差する時代に生まれた金貨です

本記事では、ルイ16世の1ルイドール金貨について、その時代背景や歴史を紐解きながら、その魅力を詳しくご紹介していきます。

フランス ルイ16世 1ルイドール金貨

 基本データ

コイン名 フランス ルイ16世 1ルイドール金貨 (Louis d'or à la tête nue)
通称 ルイ16世 ルイドール金貨
発行年 1785年〜1792年
フランス
額面 1 Louis d'Or
種類 金貨
素材
発行枚数 1,730万枚以上
品位 Gold (.917)
直径 24.0mm
重さ 7.649g
統治者 ルイ16世
デザイナー Pierre-Benjamin Duvivier
カタログ番号 Dy royales# 1707, GadR2# 361, KM# 591, Ciani# 2183uvivier
表面のデザイン 左向きのルイ16世の肖像
表面の刻印 LUD·XVI·D·G·FR·ET NAV·REX DUVIV (ルイ16世、神の恩寵によるフランスとナバラの王)
裏面のデザイン フランスとナバラの紋章入りの盾、王冠
裏面の刻印 CHRS·REGN·VINC·IMPER ,年号 (キリストは支配し、勝利し、命じる)
エッジのタイプ Chain
エッジの刻印 -


フランス ルイ16世 1ルイドール金貨とは?

ここでは、ルイ16世の1ルイドール金貨の特徴についてご案内します。
フランス革命前夜の財宝といわれるルイ16世のルイドール金貨は、一体どのようなコインなのでしょう?

ルイ16世 1ルイドール金貨 ルイ・ドール・オ・パルム(Louis d'or au aux palmes)の特徴

こちらのルイ16世の1ルイドール金貨「ルイ・ドール・オ・パルム(Louis d'or au aux palmes)」は、重さ約8.2 g、直径24 mmの純度約92%の金貨です。

表面には習服を着て、聖霊勲章の飾り板と紐を付けた左向きの胸像。円形の銘文が刻まれています。裏面には、ヤシの枝がデザインされています。この「パルム(椰子の木)」は金貨の名称に由来しており、勝利や栄光を象徴しています。

縁の「LUD.XVI.D.G.FR.ET NAV.REX」には、神の恩寵によるフランスとナバラの王ルイ16世」という意味があり、周囲の「CHRS REGN VINC IMP」は、「キリストは統治し、勝利し、命じる」と書かれています。

フランス ブルボン王朝発行のルイドール金貨とは?

フランス・ブルボン王朝が発行したルイドール金貨は、フランスが絶対王政のもとで強力な中央集権国家へと成長していった、17世紀から18世紀にかけて使用された金貨です。

ルイドール(Louis d'or)は、「ルイの金貨」という意味で、「ルイ」は歴代のフランス王の名前、「ドール(d'or)」はフランス語で金を指します。初めて発行されたのはルイ13世の治世中の1640年で、当時の財務大臣が経済の安定を図るために導入しました。

ルイドール金貨はフランス王権の象徴でもあり、王の権威やフランスの繁栄を表すものでした。それぞれの時代の王の治世の特徴を反映しています。

ルイドール金貨は金の価値が高く安定していたため、フランス国内だけではなく、ヨーロッパや他の地域でも高く評価されていました外交的な支払い、貿易の決済、財政政策など多岐に渡り利用され、フランスの影響力を強める手段となったのです。

歴史的変遷を物語る象徴的な存在、ルイ16世のルイドール金貨

▲バスティーユ襲撃

ルイドール金貨はブルボン王朝の時代、王家の権威と経済力を象徴する重要な通貨として世界中で流通していきました。

しかしルイ16世が統治していた1789年フランス革命によりフランス・ブルボン王朝は崩壊します。王政とともにルイドールの発行も終了し、革命後、新しい共和国政府は異なる通貨制度を導入していきます。

民衆により王政が討伐されたという前代未聞のフランス革命の後、王家とかかわりのあるものは民衆によってことごとく破壊されていきました。

ルイドール金貨は、フランス王権の象徴としても重要であり、王の権威やフランスの繁栄を表すものでした。民衆にとって浪費、贅沢の象徴であった金貨は、新しい共和国政府や民衆によって溶解されるなど、革命後は新政府の政治的なメッセージやプロパガンダの一環としても使用されました。

このような時代背景があり、ルイ16世のルイドール金貨は、絶対王政の崩壊と革命の激動の時代を象徴するものとして、歴史的にも非常に貴重な硬貨といえるでしょう。

 

ルイ16世の1ルイドール金貨が作られた時代背景

▲胸に金羊毛騎士団の記章をつけたルイ16世

ルイ13世の時代から発行されてきたルイドールですが、特に歴史的な価値や希少さなどで注目を集めるルイ16世の1ルイドール金貨
こちらでは、ルイ16世の1ルイドール金貨が発行された当時の時代背景についてご紹介します。

フランス・ブルボン王朝最後の王、ルイ16世

フランス革命によって絶対君主制の終焉を迎えたブルボン朝最後の王、ルイ16世

彼は父ルイ15世の死後、わずか19歳で王位につき1774年から1792年までフランスを統治しましたが、父から受け継いだフランスは順風満帆ではなく、すでに苦労の塊でした。

即位した翌年、天候不良による不作のため重税に苦しむ第三身分の民が、各地で食糧危機に対する暴動(小麦粉戦争)を起こします。ヴェルサイユ宮殿にも8千人あまりの民衆が押し寄せ、ルイ16世は自らベランダに立ち、民衆の不満に答えたと言われています。

▲マリー・アントワネットの肖像

妻はオーストリアの女帝マリア・テレジアの娘、マリー・アントワネット。長年敵対してきたフランス・ブルボン家と、オーストリア・ハプスブルク家の間の和議を結ぶための政略結婚でした。

二人が1763年に婚約した時点では、マリー・アントワネットは7歳、ルイ16世は9歳という幼さでした。その後の1770年に結婚し正式に夫婦となりました。不仲説も多いのですが、一説によるとコミュニケーション不足だったが、お互いを慕っていたとも言われています。

王は自ら冶をして鍵や錠を作ることを趣味として、ヴェルサイユ宮殿の敷地に作られたルイ16世の鍛治作業場にこもっていました。ルイ16世は他の貴族たちとの時間をあまり過ごさず、人脈を作るのが苦手だったと言われています。

フランス革命での民衆の反乱の際には王を裏切る貴族が多く、王家への忠誠心が薄れていたことも王政の崩壊に繋がりました。

ルイ16世の統治するフランスの状況

ルイ14世の時代に始まった貴族たちの贅沢なヴェルサイユ宮殿での生活は、ルイ15世が統治する時代にはピークを迎えていました。しかし、ルイ15世の晩年には、膨らむ借金や財政難など、水面下では大きな苦労を抱えていたのです。

この瀕死状態のフランスを19歳で引き継いだルイ16世は、戦争への莫大な出費と貴族たちの100年以上続く優雅な生活の代償をすべて受けなければなりませんでした

当時のフランスの国家財政赤字の60%が、ルイ14世とルイ15世の時代に借りた元金返済ではなく利子の返済に当てられていたと言われています。その上、過去の利子を返済しながら、すでに習慣化しているヴェルサイユ宮殿の贅を尽くした貴族たちの生活を支え続けていたため、フランスの財政は極めて厳しい状態にありました。

 

戦争への出費も大きな問題でした。ルイ16世が即位する直前に行われた七年戦争でフランスはイギリスに敗れ、多くの植民地を失いました。この戦争はフランス財政にさらに壊滅的な打撃を与えたのです。

さらにイギリスの対抗策としてアメリカ独立戦争への軍事支援に多額の費用を投じたため、国家の債務は膨らんでいきました。アメリカの独立は最終的にフランスにとっても政治的には成功をもたらしましたが、残念なことにフランスは貿易ルートや植民地での利益を回復することはできませんでした

ブルボン王朝の終焉とフランス革命、ルイ16世の死

 

▲1789年5月5日ベルサイユ宮殿での三部会

ルイ16世はこの財政危機に対して、テュルゴーやネッケルといった有能な財政官と共に大規模な財政改革を試みました。しかし、節約や増税を提案すると特権階級や貴族は大反発。途中で貴族たちの画策により2人の有能な人材は失脚させられ、財政改革は失敗に終わりました。

そこでルイ16世は175年ぶりに聖職者、貴族、民衆の代表が集まる会議である三部会を召集します。

三部会では特権階級の税の支払いを求めましたが、特権階級の貴族や聖職者が猛反発し三部会は混乱を極め、解散します。その後第三身分の民衆代表者たちによって国民議会が行われていったのです。

第三身分である民衆は長い間、経済的な苦境と自由のない不平等な税負担に苦しんでいました。彼らが国民議会で発言力を手に入れたことで不満は大爆発し、国民議会はフランス革命の口火となっていきました。


バスティーユ監獄襲撃によりフランス革命が始まると、王は
政治的手腕に欠け適切な対処ができず、王の家族共々も逃亡中にとらえられてしまいます。彼は1791年には王権を失い、立憲君主制のもとで形式的な国王となりましたが、1792年には王制そのものが廃止されます。

1793年ルイ16世は裁かれ、彼はパリの革命広場にてギロチンによって公開処刑されました。ルイ16世の最後の言葉は、「私は無実のうちに死ぬ。私は私の死を作り出した者を許す。私の血が二度とフランスに落ちることのないように神に祈りたい」という、フランスへの思いが込められた一言でしたが、涙するものはなかったといわれています。

ルイ16世の死は絶対君主制から共和制への転換を象徴する出来事として現在まで記憶されています。

 

ルイ16世1ルイドール金貨の種類・その他のコイン

ルイドール金貨には歴代の王の数だけ多くの種類があり、その中でもルイ16世のルイドール金貨は歴史的価値や現存数の少なさから、希少といわれています。

では、ルイ16世のルイドール金貨にはどのような種類があるのでしょうか?

1ルイドール金貨「ア・ラ・テット・ヌー(Louis d'or à la tête nue)無帽の肖像」

「テット・ヌー」とは、フランス語で「無冠(無帽)の頭部」を意味します。このタイプのルイドール金貨は、ルイ16世が王冠や帽子をかぶらずに描かれています。通常の王の肖像に比べて、シンプルで飾り気のないデザインが特徴です。

裏面はフランス王国とナバラ王国の支配を象徴している2つの紋章が描かれ、それらが1つの王冠の下に位置しています。

刻印文字には「LUD•XVI•D•G•FR•ET•NAV•REX」と刻まれ、これは「ルイ16世、神の恩寵によるフランスとナバラの王」という意味を表します。

1ルイドール金貨「オ・ビュスト・アビエ(Louis d'or au buste habillé)」

「ビュスト・アビエ」のデザインは、ルイ16世のフランス王としての威厳を示すものであり、特に王の力と権威を象徴しています。

金貨の表面には、ルイ16世が豪華な服装をした姿が描かれています。裏面はフランスとナバラの2つの楕円形の紋章王冠の下にあります。

「ビュスト・アビエ」の細かいデザインは、当時の彫刻技術の高さを反映しています。王の髪型や服装のディテールが非常に精密に表現されている点が特徴です。

1ルイドール金貨「コンスティテュショネル(Louis d'Or constitutionnel)憲法のルイドール」

「憲法のルイドール」は、フランス革命期の憲法君主制(1791-1792年)時代に発行された、特別な1ルイドール金貨です。

こちらの金貨ではルイ16世が「フランスの王」ではなく「フランス人の王」として描かれています。

表にはルイ16世の左向きの肖像が描かれ、裏面には天使が石板に憲法(Constitution)を刻む姿が描かれています。銘文に「REGNE DE LA LOI(法の支配)」と書かれ、王の絶対的な権威ではなく、法が最も重要な統治原則であることを強調しています。

「憲法のルイドール」は、伝統的な王の権威と新しい革命体制を結びつける象徴として発行されました。特に、天使が「憲法」を刻むデザインは、新しい法の支配と市民の権利を強調しています。

 

フランス ルイ16世 1ルイドール金貨の価格推移

 長く発行されているフランスのルイドール金貨ですが、年号とグレードにより価格に幅があります。ご予算にあったお手頃なものから、プルーフライクのハイグレードのものまでご紹介します。

MS62 1787年

2023年8月18日に$1,320で落札。

 

MS64 1786年

2023年8月18日に$2,400で落札。

 

MS66 1786年

2023年5月4日$7,200で落札。

 

MS67 Prooflike 1786年

2020年10月11日に$20,400ドルで落札。

 

ルイ16世のルイドール金貨が物語る、栄華の崩壊と新時代の幕開け

ルイ16世のルイドール金貨の時代背景は、絶対王政は倒れ王政から共和制へと変革し、新世界の幕開けが始まりました。

フランス革命は世界史の大きな分岐点となり、多くの血が流れましたが、民主主義の理念市民権の拡大に大きく貢献しました。革命は自由、平等、友愛といった価値観を広め、現在も世界中の他の国々にも影響を与えています。

ルイ16世のルイドール金貨は、永遠に続くと思われるような繁栄の絶頂を謳歌したブルボン王朝の崩壊のシンボルであり、革命前夜を物語る財宝とも言えるでしょう。

 

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