▲1911年、即位間もないころのジョージ5世 

世界中から敬愛されたエリザベス2世の祖父が、ジョージ5世です。

1935年、ジョージ5世の即位25周年を記念して発行されたジュビリークラウン銀貨は、イギリス王室にとってもロイヤルミントにとっても大きな意味を持っています。

20世紀初頭に在位し、人間性豊かな王として評価が高いジョージ5世。ジョージ5世の功績とともに、ジュビリークラウン銀貨の魅力の魅力を解説します。

ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨

基本データ

コイン名	ジョージ5世 戴冠25周年 1クラウン銀貨
通称	ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨
発行年	1935年
国	イギリス
額面	1クラウン
種類	銀貨
素材	銀
発行枚数	プルーフ：2,500枚、通常貨幣：714 ,769枚
品位	プルーフ：Silver (.925)　、通常貨：Silver (.500)
直径	38.61 mm
重さ	28.28 g
統治者	ジョージ5世
デザイナー	Edgar Bertram MacKennal、Percy Metcalfe
KM	プルーフ：KM# 842a, Sp# 4050、通常貨：KM#842,Sp#4048,SP#4049
表面のデザイン	左を向いた無冠のジョージ5世の肖像とレジェンド
表面の刻印	GEORGIVS V. DG. BRITT: OMN: REX. FD. IND: IMP:BM（ジョージ5世 神のご加護により 全英国の王 信仰の擁護者 インドの皇帝、Bertram MacKennalの頭文字）
裏面のデザイン	アール・デコ調に描かれた、竜を退治するジョージ5世の上に額面と年号、Percy Metcalfeの頭文字
裏面の刻印	CROWN 1935 PM
エッジのタイプ	プレーン
エッジの刻印	-

 ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨とは？

▲オーストラリアに残るジョージ5世の騎馬像

ジョージ5世の治世に発行されたジュビリークラウン銀貨とは、どのようなコインなのでしょうか。

発行された意義やコインのデザインについて見ていきましょう。

王の即位25周年記念！

ジョージ5世ジュビリークラウン銀貨は、歴史において大きな意味を持っています。

それは「ジュビリー」という言葉に含まれています。

ジュビリーとは、25周年あるいは50周年の節目に行われる記念イベントを指します。

つまりジュビリークラウン銀貨は、ジョージ5世の即位25周年を記念した単年号の発行のコインなのです。

通常貨とプルーフ、そしてSv500で発行された試鋳貨も存在します。

イギリスロイヤルミント（王立造幣局）はジョージ5世ジュビリークラウン銀貨を皮切りに、王室やイベントにちなんだ記念コイン（Commemorative Coin）の発行に弾みをつけたといわれています。1937年のジョージ6世即位記念、1953年のエリザベス2世即位記念などの記念コインの発行も、ジョージ5世のジュビリークラウン銀貨の例に倣ったとされているのです。

イギリスの君主を描いたクラウン硬貨は、20世紀に入って記念コインが主流となったため発行枚数は限定されていて、希少性の高さでも定評があります。

端正なジョージ5世の肖像

1935年にジュビリークラウン銀貨が発行された当時、ジョージ5世はすでに70歳でした。

銀貨に刻まれたジョージ5世の横顔には、端正な顔立ちに熟年の魅力が漂っています。

ヴィクトリア女王の孫という輝かしい血筋によるものでしょうか、高い鼻筋が貴族的です。

ジョージ5世の肖像を囲むようにして彫られているのはラテン語です。

GEORGIVS V. DG. BRITT: OMN: REX. FD. IND: IMP:
（神の恩寵を受けた全イギリスの王ジョージ5世、信仰の守護者にしてインド皇帝）

そしてジョージ5世の首のあたりに「BM」の文字があります。王の横顔をデザインしたバートラム・マッケナルのイニシャルです。

イギリスの守護聖人ジョージとドラゴン

コインの裏面には、イギリスを守る聖ジョージ（聖ゲオルギウス）が描かれています。

ドラゴンを退治する勇ましい聖ジョージは、イギリスのガーター勲章の装飾にもなっている由緒ある聖人。

王の名前に「ジョージ」が多いことからも、イギリス王室との縁の深さがわかります。

ジョージ5世のジュビリークラウン銀貨の聖ジョージは、静的でモダンな佇まい。

デザインしたパーシー・メットカルフはロイヤルミントで数多くのコインのデザインを手掛けていて、古典的な雰囲気とは一線を画した美しさで人気があります。

ジョージ5世ジュビリークラウン銀貨は歴史的価値としてだけではなく、アートとして堪能できる要素を有しているのです。

 

ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨が作られた当時の時代背景

▲ジョージ5世と王妃メアリー・オブ・テック

故エリザベス2世女王の祖父に当たるジョージ5世は、20世紀の初めにイギリス王となりました。

当時の王室や世界の情勢はどのようなものだったのでしょうか。

王としてのジョージ5世の功績とともに、ジュビリークラウン銀貨が作られた時代背景を説明します。

大国としてのイギリスが輝いた最後の時代

ジョージ5世は1865年に生まれ、1910年に王として即位しました。

▲ジョージ5世の戴冠時の様子

この時代のイギリスは、大国として最後の輝きを見せた時代です。

18世紀の終わりに世界で初の産業革命に突入し、イギリスは経済大国に躍り出ます。19世紀のヴィクトリア女王の時代には、地球の陸地の4分の1はイギリスの植民地であったといわれるほどの繁栄を謳歌しました。

最先進国としてイギリスが世界に君臨した時代が、ジョージ5世の治世に終わりに近づくのです。

アメリカとドイツの台頭

イギリスが植民地を拡大させるのと並行して、アメリカやドイツがイギリスに倣うように工業化を進めました。

19世紀後半、鋼鉄の生産量においてイギリスはこの2国に追い越され、「世界の工場」としての面子を失墜してしまうのです。

農業においてはアメリカ産の安価な小麦が出回り始めたことでイギリスの地主階級は大きな影響を受け、イギリス社会の中で労働者階級の地位向上が顕著でした。

こうしたことから、ジョージ5世が即位する頃にはイギリスも民主主義への道を歩み始めます。

1914年に勃発した第1次世界大戦によってイギリスの国力は大きく後退し、深刻な社会不安が蔓延していきます。ジョージ5世はこのさなかにあって慰問活動にも力を入れ、国民に寄り添い続けました。

ジョージ3世は激動の時代の中で、心から真面目に国王としての務めを果たした王と言えます。

1936年、即位25周年記念を祝ったジョージ5世は翌年に死去。

まさにイギリスの過渡期を生きた王であったといえるでしょう。

ジョージ5世の功績と私生活

ジョージ5世は、王としてどんな功績を残したのでしょうか。

エドワード7世の次男として生まれたジョージ5世は、兄の死により王を継ぐことになりました。外交面では父王に劣っていたものの、イギリス帝国の各地にはよく足を運び、人望を勝ち得ていました。とくに1911年のインド訪問は、帝国をあげての祝賀行事として記録されています。

ジョージ5世はまた人種差別問題に関しては開放的な精神の持ち主であり、世界大戦によって大きく変化していったイギリスの政治問題にも敏感でした。非公式な形ながら政治に関わり、国の支えとなったのです。

1932年のクリスマスからは国民に直接呼びかけるラジオ放送を開始、王室と国民の距離を縮めるという功績も残しました。私生活では節度のある生活を送り、家族を大切にしました。切手収集や園芸に興味を持ち、国民と共通の趣味を持つことで、より身近な存在として愛されました。

特に切手収集に関しては、ロンドン王立切手協会の名誉副会長に任命されるほど熱心なものでした。ジョージ5世が継承し、収集した切手は現在でも「王室切手コレクション（Royal Philatelic Collection）」として大切に保管されています。

父王の派手な女性関係が反面教師となったのか、王妃のメアリー・オブ・テックともうまく調和し、エドワード8世、ジョージ6世を含め5男1女に恵まれています。

長男のエドワード8世はシンプソン夫人との恋によって退位しますが、ジョージ6世は真面目に国王を務め、国民の尊崇を得た王として名を残しました。

また世界大戦中の国民感情を考慮して、王朝名をサクス=コーバーグ=ゴータ家からウィンザー家へ変更した国王でもあります。

 

ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨パターンとその他のコイン

格調高いジョージ5世ジュビリークラウン銀貨。

王位25周年に相応しい気品がありますが、このコインには類似のコインも存在します。

そのコインについて見ていきましょう。

希少性の高さでは随一！パターンプルーフ金貨

ジョージ5世のジュビリークラウンコインには、ゴールドのパターンプルーフの金貨版が存在します。

パターンコインとは試鋳貨と訳されますが、それとは別に贈答を目的として作られるものをとくにパターンプルーフコインと呼びます。

ジョージ5世のジュビリークランのパターンコインは発行数が30枚とされ、なかなかお目にかかれない貴重なコインです。

 

PR65 Deep Cameo

2019年8月15日に$126,000で落札。

ジョージ5世ソブリン金貨

ジョージ5世と聖ジョージの組み合わせのコインには、ソブリン金貨があります。

ジュビリークラウン銀貨と比べると、ジョージ5世の顔のラインが柔らかく、聖ジョージは古典的なスタイルで描かれています。

シャープなイメージのジュビリークラウン銀貨とは異なる、豪華なソブリン金貨です。イギリス本国の他、カナダやオーストラリア、南アフリカでも発行されています。

 MS65

2019年4月26日に$50,400で落札。

 

ジョージ5世 ジュビリークラウン銀貨の価格推移

通常貨幣とプルーフ貨幣、そして試鋳貨が発行されています。どれも色々な価格帯がありますので、ご予算にあったものを選んでコレクションに加えてみてはいかがでしょうか。

通常貨

MS64

通常貨です。

2022年1月7日に$113で落札。

MS65+

2022年5月5日に$384で落札。

プルーフ

PF63

2022年4月7日に$1,560で落札。

PF64 Ultra Cameo

プルーフ。

2022年8月28日に$2,640で落札。

SP66

2022年10月20日に$1,080で落札。

 

コインの歴史にもイギリス王室史にも大きな意味を持つジョージ5世ジュビリークラウン銀貨！

第1次世界大戦という苦難の時代を国民とともに生きたイギリス王ジョージ5世。

イギリスが大国として最後の輝きを見せた時代の象徴として、国民の敬愛を得てきました。

ジョージ5世の即位25周年を記念して発行されたジュビリークラウン銀貨は、のちに続くロイヤルミントの記念コイン発行の先例となったものです。

イギリスや王室の歴史、コインの歴史の中でも記念碑的なこのコイン、モダンなデザインも魅力的。

ぜひお手元に置きたいという方は、アンティークコインギャラリアにご相談ください。

 

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