バイエルン選帝侯マキシミリアン1世の希少な5ダカット金貨の歴史的背景と人物像
常に世界中のコレクターの羨望が集まる、神聖ローマ帝国バイエルン選帝侯マキシミリアン1世の5ダカット金貨(通称 ババリア5ダカット金貨)。
マキシミリアン1世は1623年〜1651年の間、バイエルン公国解体後に発足した神聖ローマ帝国のバイエルン選帝侯として君臨しました。
その彼の統治時代、1640年の1年の間だけ発行された5ダカット金貨は、現在なかなかお目にかかることのないレアな貨幣としても有名です。
本記事では、経済復興王として現在も名高いマキシミリアン1世にまつわる歴史的背景を紐解きながら、5ダカット金貨についての魅力についてご案内します。
▲バイエルン選帝侯 マキシミリアン1世の肖像
現在のドイツ・ミュンヘン地方一体を統治していた、神聖ローマ帝国のバイエルン選帝侯マキシミリアン1世。経済的にも成功を納めたと言われる人物の金貨はやはり世界中のコレクターに人気があります。
その中でも1640年に製造された5ダカット金貨は、デザイン性の高さと大型の金貨ということもあり、オークションを賑わせてくれるコインの一つです。
今回は、歴史的価値も高い神聖ローマ帝国のバイエルン選帝侯マキシミリアン1世の5ダカット金貨について、マキシミリアン1世の人物像とともに歴史的背景を紐解きながら、ご案内します。
ドイツ バイエルン マキシミリアン1世 5ダカット金貨
基本データ
コイン名 | ドイツ バイエルン マキシミリアン1世 5ダカット金貨 |
---|---|
通称 | ババリア 5ダカット金貨 |
発行年 | 1640年 |
国 | バイエルン選帝侯国(ドイツ) |
額面 | 5ダカット(5 Dukaten) |
種類 | 金貨 |
素材 | 金 |
発行枚数 | - |
品位 | - |
直径 | 38.0mm |
重さ | 17.45 g |
統治者 | 選帝侯マクシミリアン1世 (1623年〜1651年) |
デザイナー | - |
カタログ番号 | KM# 269, Fr# 196, Hahn# 125 |
表面のデザイン | 笏とインペリアルオーブを持ち、右の祭壇に腕を置く鎧姿の立像 |
表面の刻印 | MAXIMIL:COM:PAL:RH:VT:BA:DVX:S:R:I:ARCHIDAP:ET·ELECT· |
裏面のデザイン | 雲の上に幼子を連れた聖母、両脇に2人の天使、その下に城砦のある街の風景、年号 |
裏面の刻印 | NISI·DOM:CVSTODIERIT·CIVIT·FRVST:VIGIL:QVI·CVSTODIT 16 40 |
エッジのタイプ | - |
エッジの刻印 | - |
ドイツ バイエルン マキシミリアン1世 5ダカット金貨とは?
▲ミュンヘンのマリア像
ドイツの金貨の中でも最も有名な一枚であり、世界中のコレクターの憧れの一枚といわれているマキシミリアン1世の5ダカット金貨。
こちらでは、神聖ローマ帝国バイエルン選帝侯マキシミリアン1世によって発行されていた、非常に希少価値の高い5ダカット金貨の特徴についてご紹介します。
マキシミリアン1世 5ダカット金貨のデザイン
マキシミリアン1世の5ダカット金貨は、ドイツのバイエルンで1640年の1年間のみ発行された発行枚数がとても少ない金貨幣です。
表面は、三十年戦争での戦果をたたえるように、王宮の中に佇む鎧装束に身を包んだマキシミリアン1世の全身の肖像。全身像が施されているコインはとても珍しくそれだけでも人気があります。
裏面には、ミュンヘンの都市景観と要塞そしてイザール川が、広がるような視点で描かれています。天空には雲の上の聖母マリアの母子像の姿がまるでミュンヘンの都を神が祝福するかのように見守っています。
表裏面に描かれているデザインがそれぞれ表現しているのは「武勇と平和」と言われ、対照的なコントラストがこの金貨の魅力とも言われています。
マキシミリアン1世の5ダカット金貨に刻まれた「DATE ABOVE」と「DATE DIVIDED」の違い
マクシミリアン1世の5ダカット金貨は、DATE ABOVE(デイト・アボーブ)とDATE DIVIDED(デイト・ディバイデッド:日付が分かれているタイプ)」の2種類に分けることができます。これは、発行年の刻印によっての違いになり、コレクションをする重要なチェックポイントです。
こちらのダカット金貨の「DATE ABOVE」タイプは、裏面、都市景観のコインの上部の縁に「1640」と刻印が。そして「DATE DIVIDED」では、都市景観の中、中央部の縁に「16 」と「40」が左右に分かれて刻印されています。
現存数の少なさから「DATE DIVIDED」の方が「DATE ABOVE」よりも希少価値がより高くなります。
コインにみるマキシミリアン1世の深いマリア信仰
マキシミリアン1世の5ダカット金貨がレアなコインとして、非常に人気を集めている理由には、天空に浮かぶマリア像と広大なミュンヘンの景観という、デザインの繊細さも魅力の一つで、都市景観(City View)と呼ばれるデザインが人気の理由です。
マキシミリアン1世は個人的にも宗教性が強かった人物と言われ、非常に熱心なマリア信仰者でした。
彼のマリアへの個人的な献身に呼応して、バイエルン国内でのマリア信仰を促進することになります。ミュンヘンの至る所にマリア像を建設し、現在もその姿を見ることができます。
ドイツ バイエルン マキシミリアン1世 5ダカット金貨が作られた当時の時代背景
▲カール・テオドール・フォン・ピロティが1870年に描いた歴史画「カトリック同盟の設立」(1609年、ミュンヘン)
こちらでは、バイエルン選帝侯マキシミリアン1世の人物像と5ダカット金貨が作られた当時の時代背景についてご紹介します。
神聖ローマ帝国バイエルン選帝侯マキシミリアン1世
マキシミリアン1世はバイエルン公ヴィルヘルム5世とロレーヌ公フランソワ1世の娘レナータの長男として生誕します。幼少の頃はイエズス会によるカトリック宗派の教育を受け、後も熱心なカトリック教徒として成長。1597年の父の退位でバイエルン公に即位します。
その時代、神聖ローマ帝国バイエルンで勃発したプロテスタントとカトリックの人類史上最悪の宗教戦争といわれる、三十年戦争の時代の真っ最中でした。必然的に彼も時代の荒波に飲み込まれていったのです。
マキシミリアン1世は、厳格なカトリック教徒であったフェルディナンド2世への忠誠を誓い、カトリック軍を率いて大活躍をします。戦乱の末、1623年にフリードリヒ5世が有していたプファルツ選帝侯領と選帝侯位を与えられ、神聖ローマ帝国バイエルン選帝侯マキシミリアン1世となります。
彼の治世では、財政の再建と三十年戦争という時の大きなながれの中、常備軍をより強固なものとして確立し、身分制議会の統制、ミュンヘンの宮殿拡張やホーフガルデンの建設も計画しました。
また、深い芸術への敬愛から、デューラーやルーベンスの作品も集め、ヴィッテルスバッハ家のコレクションを拡張させてゆき、芸術文化にも大きく貢献していきます。
経済復興の王によるバイエルンの強化と発展
マキシミリアン1世の統治はバイエルンを強化し大きく発展させ、その名声は現代にも残っていますが、父から譲り受けたバイエルンの領地は多くの負債に溢れたものでした。
父からバイエルン領を引き継いだマキシミリアン1世に課された任務は、まず多額の負債を抱えた国を回復させることでした。
改革政策は、絶対主義的に公爵権力の強化に重点をおき「国家」と「経済・社会」の双方を包含します。
国家の分野では、国家公務員と会計制度の統制を強化すると同時に、いままで委託事業だった都市計画を中央政府によって直接行うように改革していきます。
経済・社会の分野では時代に先駆けて、初期重商主義のモデルとなる重商主義的な対策貿易などを行い外貨の蓄積に成功していきます。
そしてビジネスに独占権を付与することで、収入がもたらされるようにも変革しました。例えば、バイエルンの特産である白ビールの独占が確立され、塩の生産、関税、物品税からも多くの収入を産みだしたのです。
このような経済改革により貿易と商業が大きく促進され、戴冠後の数年のうちには、彼は国の財政をより強固なものにすることに成功しました。
その結果、軍事強化など幅広い対外政策を行う余裕が生まれ、三十年戦争でカトリック軍を率いて大きな戦果を上げることに繋がったのです。
マキシミリアン1世と三十年戦争の激化の発端
マキシミリアン1世バイエルン選帝侯といえば、30年戦争を激化させた原因の一つとしても知られています。
当時の神聖ローマ皇帝のバイエルン選帝侯で、厳格なカトリック教徒であったフェルディナンド2世は、自分の領地全体にカトリック信仰の統一を押し付けようとしました。
フェルディナンド2世はハプスブルク家の神聖ローマ皇帝として君臨していましたが、実際にはドイツでの支配力はとても弱く、それぞれの領邦国の独立性が強かったのです。
領邦の中で一貫して皇帝を支持した州は少なく、カトリック領邦でもハプスブルク家の神聖ローマ帝国に賛同しない州も多くあり、北ドイツのプロテスタント諸国は自分たちの利益を守るためにプロテスタント連合を結成します。
カトリックを推し進めていく、フェルディナント2世に忠誠を誓っていたバイエルン公マキシミリアン1世が、カトリック軍の主力として戦い戦果を上げていきます。その結果カトリック軍は勝利します。
その功績をフェルディナント2世に認められたマキシミリアン1世は、1623年にフリードリヒ5世が有していたプファルツ選帝侯領と選帝侯位を与えられました。しかし、これは明らかに金印勅書に反していました。この金印勅書とは、カール4世の時に出された神聖ローマ皇帝位の選出の原則を定めた法のことをいいます。一度おさまったかの様に見えた三十年戦争を、さらに激化させてしまいます。
このことを発端にして、一旦終了したように見えた三十年戦争はハプスブルク家とブルボン家を始め、フランスやオーストリアなどヨーロッパ列強国全体をさらに巻き込んだ本格的な三十年戦争へと激化させていきました。
ヨーロッパ各国を巻き込んで続いたこの戦争は、発端のドイツの都市と農村を荒廃させました。人類史上最悪の宗教戦争になっていき、当時ドイツの人口は1600万人から約3分の1が減少し、1000万人になりました。
ババリア 5ダカット金貨の種類・その他のコイン
同時代に発行された魅力的な他の美しいコインもご紹介します。
1642年 マキシミリアン1世 2ダカット金貨
1642年に発行されたマキシミリアン1世2ダカット金貨は、発行枚数不明の貴重なコインです。
表面には、甲冑姿の全身像のマキシミリアン1世が、聖母マリアにひざまずき、祈りを捧げ「マリアよ、どうぞ我らに慈悲を」という意味の「PRO ME・MARIA・ORA」の文字の刻印。
裏面は、ヴィッテルスバッハ家の紋章が雄々しく全面にほどこされ、「MAX・CO・P・R・V・BA・D・S・R・I・ARCHID・ET・EL(帝国において最も成功したバイエルン公)」の文字が施されています。
全身像の即位記念コインはとても珍しく、それだけでもかなりの希少さがありますが、発行枚数自体も少量なので、大変レアな金貨としてコレクターからの羨望を集めるコインです。
1616年 ドイツ ザクセン ダカット金貨 フリーメイソン プロビデンスの目
こちらのコインは、マキシミリアン1世に深い繋がりのある、イエズス会の紋章が入ったコインです。別名「トリニティダカット」などと呼ばれています。
1616年のヨハン・ジョージI世の時代に、選帝侯ソフィー・フォン・ブランデンブルク王女によってクリスマスに発行されました。人気のコインであったため、1873年までリストライクされていました。
2本の交差した剣と帽子、そしてもう片面には三位一体を表す神の目としてのプロビデンスの目(全能の目)とイエスキリストを意味する「IHS」、そしてキリスト教のモチーフである鳩が羽根を広げています。
プロビデンスはフリーメイソンのシンボルとも言われ、このコインもフリーメイソンコインとも言われており、一部のコレクターにとても人気があります。
神聖ローマ帝国 ボヘミア フェルディナント2世 ターレル銀貨 1624年
こちらは、マキシミリアン1世をバイエルン選帝侯に抜擢した、1624年に発行されたフェルディナント2世のターレル銀貨です。
マキシミリアン1世と繋がりがとても強いフェルディナント2世は、神聖ローマ皇帝、オーストリア大公、ボヘミア王、ハンガリー王として君臨しました。
表面は凛々しいフェルディナンド2世の肖像、裏面には鷲の紋章が施された、大変うつくしい銀貨となっています。
ババリア 5ダカット金貨の価格推移
発行枚数は不明ですが、年に1枚〜2枚程度見かけるコインです。裏側は美しい都市景観のデザインのため、人気のコインです。
オークションでもあまり見かけませんが、ハイグレードになればなるほど高値で取引されています。
MS61
2021年3月25日に$28,800で落札。
パラマウントコレクションより。
MS62
2023年5月3日に$60,000で落札。
MS63+
2023年1月9日に$108,000で落札。
経済復興の王が聖母マリアの祝福に込めた繁栄の5ダカット金貨
経済復興王として時代の中に名を残すバイエルン選帝侯マキシミリアン1世は、傾きかけた国を見事な采配によって復活に導きました。その後の経済を繁栄させ、より大きなチャンスを掴み、後の三十年戦争へ大きく貢献していきます。
コインに刻まれるのは、そんな彼を見守るかのように領土を見下ろす天空の聖母マリア。怒涛の時の中にあった彼の深い信仰と祈りを見ることができます。
ヨーロッパ全体で繰り広げられた三十年戦争という時代、この金貨が発行されたのは、経済復興の王と呼ばれた1人の男の信仰心と忠誠心が導いた運命の中だったのです。
「武勇と平和」、際立つ両極の対称さがこの金貨の魅力と言えるのではないでしょうか?
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