ラムダカットとは?自由都市ニュルンベルグで発行された金貨の歴史とその背景を解説

アンティークコインといえば、自国の王や女王、その他の王族など時の支配者をモチーフにしたものがほとんどです。しかしラムダカットは中央にキリストを象徴する羊が描かれ、平和をテーマにしたデザインで発行されました。

発行された時代の歴史を辿って行くと、「三十年戦争」という長く悲惨な戦争で疲弊した神聖ローマ帝国において、平和を願望する当時の人々の気持ちが伝わってきます。

「ラムダカット」がどのようなものなのか、そしてニュルンベルクがどのような場所だったのか、その歴史にも触れてみたいと思います。

 

ラムダカット

ラムダカット

基本データ

コイン名 ドイツ ニュルンベルグ ダカット
通称 ラムダカット
発行年 1701年|1703年
自由都市ニュルンベルグ(ドイツ)
額面 ダカット
種類 金貨
素材
発行枚数 -
品位 Au986
直径 -
重さ 3.5g
統治者 -
デザイナー -
KM # 257
表面のデザイン 地球の上に旗を持って立つ羊
表面の刻印 TEMPORA NOSTRA PATER DONATA PACE CORONA(父(キリスト)が我々の時代を平和という贈り物で仕上げてくれる)
裏面のデザイン 3つの盾と紋章
裏面の刻印

1700年|RESP. NORIMBERGENSIS SECVLVM NOVVM CELEBRAT(ニュルンベルクの新世紀を祝福する)

1703年|MONETA AVREA REIP NORIMB(貨幣 女神 ニュルンベルク)

エッジのタイプ -
エッジの刻印 -

 

ラムダカット=羊の金貨?

ラムダカットは17~19世紀にかけて神聖ローマ帝国(現在のドイツ)のニュルンベルクで発行された、羊をモチーフにした金貨の愛称です

ラムダカットの発行は、17世紀の終わりから18世紀の初頭のことです。「ラム(Lamb)」は羊を意味し、「ダカット(Ducat)」は貨幣の単位のことをいいます。

最初にダカットが発行されたのは1140年。イタリアのシシリアで銀貨として発行されました。その後ベネチアに広まり、そこで金貨も発行されるようになりました。そしてこの金貨が中世後期から20世紀にかけて、現在のドイツである神聖ローマ帝国やオランダ・デンマーク・スペイン、そしてフランスなどヨーロッパ各地に広まりました。

ラムダカット発行の背景

ラムダカットのデザインには、羊や鳩、またレジェンド(文字)など、平和に対する強い願望が強く表されていることがよくわかります。

なぜ、それほどまでに平和への願望を強く表現したのでしょうか。

ラムダカットが最初に発行されたのは1632年です。1618年から始まり1648年まで続いた「三十年戦争」の真っただ中の時期でした。プロテスタントとカトリックの亀裂から始まったこの戦争は、その後ヨーロッパ全体に広がって行きました。30年にも及ぶ長く悲惨な戦争を嘆き、平和を望む気持ちが強くなるのは当然です。そして、その平和を望む気持ちは18世紀という新しい世紀を迎えたことによってさらに強まり、1700年にラムダカットが誕生したのです。

羊のモチーフがかわいいというだけではないラムダカット。平和を祈る金貨であるラムダカットが、戦争で大きな被害を受けた自由都市ニュルンベルクで発行されたということもとても意味があります。

ニュルンベルクの街並み▲ニュルンベルクの街並み 

ラムダカットを発行した自由都市ニュルンベルクとは

ラムダカットを発行したニュルンベルクは、神聖ローマ帝国の中でも自由都市(または帝国自由都市)に指定されていました。自由都市とは皇帝が直接統治した都市のことで、これらの都市では、ある規制内で自治を行うことが許されていました。ニュルンベルクが自由都市に指定されたのは、この都市が当時の交易の重要な地点に位置していたことが大きな理由と言われています。

交易の重要地点であったニュルンベルクは、三十年戦争においてその周辺が戦場と化し、それによりニュルンベルクの交易や経済は大打撃を受けました。ドイツの人口の20%が死亡したと言われるこの破壊的な戦争を悲しみ、平和を願うラムダカットがニュルンベルクで発行されました。

また、自由都市として皇帝からも目をかけられたニュルンベルクは、製造業、特に金属・ガラス工業を中心にも発展していました。このことが、コイン製造の町としてラムダカットを生み出した要素にもなっています。

ラムダカット クリッペ

ラムダカットの種類

現在残っているラムダカットには1700年に発行されたものと1703年に発行されたものがあります。使われているモチーフは同じですが、デザインが微妙に異なっています。(デザインについては次の項で詳しくお伝えします。)

ラムダカットには「円形」と「クリッペ(Klippe)」と呼ばれる正方形の金貨の2種類があります。コインの額面は、最も大きいのが5ダカット。そこから4・3・2・1と1ダカットずつ小さくなり、更に1/2・1/4と単位が小さくなり、最小単位は1/32ダカットです。これらの金貨すべてに、円形とクリッペ(Klippe)と呼ばれる正方形の2種類が発行されています。

 

ラムダカットのデザイン

ラムダカットの表面には、中央に地球の上に立つ羊の絵がデザインされています。この羊のモチーフは1700年と1703年のラムダカット両方において使われていますが、1703年のラムダカットでは羊が一回り大きく描かれています。

羊のモチーフ

ゼウスの神話、黄金の羊伝説「地球上に立つ羊」のモチーフとも言われ、羊が地球の大きさに比べて極端に大きく表現されています。そして羊は「平和」を意味する「PAX」と書かれた旗を持っています。

キリスト教では子羊は「神の子羊」。つまりキリストそのものを象徴するものであり、聖書やキリストを描いた絵画にはいつも登場する存在です。つまりキリストを象徴する羊のモチーフを使うことによって、世の中を平和にしてくれる、または平和にして欲しいという願いを込めたデザインになっていることがわかります。

このことがさらに良く分かるのがレタリングに刻まれた「TEMPORA NOSTRA PATER DONATA PACE CORONA」の文字です。これを訳すと、「父(キリスト)が我々の時代を平和という贈り物で仕上げてくれる」という意味です。

年号の読み解き方

表面のデザインでもう一つ注目したいのが、刻まれた文字に隠された年号です。一般的なコインには、一目でわかるようにローマ数字やギリシア数字を使って発行年が刻まれていますが、ラムダカットでは円周に刻まれた文字を使い、発行年数を表現しています。

先ほど紹介した「TEMPORA NOSTRA PATER DONATA PACE CORONA」の中には、他の文字より一回り大きく刻まれた文字があります。これらの文字を抜き出してみると、ローマ数字でMDCCとなります。これはローマ数字でM=1000・D=500・C=100・C=100を意味します。その数を合わせると1700になり、このラムダカットが1700年に発行されたことが分かります。同様に、1703年のラムダカットでは円周に刻まれた「PACEM DA NOBIS CHRISTE BENIGNE」 の文字から大きな文字を順番に抜き出すとMDCCIIIとなり、合計が発行年の1703になります。

ラムダカットの裏に刻まれた紋章と文字

ラムダカットの裏面には、中央に3つの紋章が彫られています。一番左と中央の紋章は神聖ローマ帝国の皇帝に関係したもので、一番右側にあるのが、ニュルンベルクの紋章です。これらの紋章は1700年発行のものと1703年のものに共通しているのですが、配置が少し異なっています。

また、1700年発行のラムダカットではこれらの紋章の上に平和の象徴である鳩の絵がデザインされているのですが、1703年のラムダカットではこの鳩の絵がなくなっています。更には円周上に刻まれた文字も1700年発行のラムダカットとは異なっています。

1700年のものは「RESP. NORIMBERGENSIS SECVLVM NOVVM CELEBRAT」という文字が刻まれ、「ニュルンベルクの新世紀を祝福する」という内容になりますが、1703年発行のものは「MONETA AVREA REIP NORIMB」と書かれています。最初の単語「MONETA」は「貨幣」、「AVREA REIP」は出産を司る女神、そして最後の「NORIMB」は「ニュルンベルク」を意味しています。

 

ラムダカットの価格推移

額面が大きい方が人気なため、オークションでは高値で落札されています。状態も「UNC Details」などが多いため、MS評価のものが希少です。

1700年 2ダカット UNC Details (Surface Hairlines)

1700年 2ダカット

2021年5月7日に$1,800で落札。

1700年 1ダカット MS62

1700年 1ダカット MS62

2020年1月21日に$1,260で落札。 

1700年 1/2ダカット(クリッペ/Klippe) MS62

1700年 1/2ダカット(クリッペ)

2022年6月23日に$3,120で落札。

1700年 1/8ダカット(クリッペ/Klippe) AU58

1700年 1/8ダカット(クリッペ/Klippe) 

2022年4月7日に$630で落札。

1701年、1703年の他に、1806年に単年号で「ラムダカット」が発行されています。これは後ろが「都市景観(City VIew)」のデザインになっています。発行枚数も不明であるため、オークションなどで見かけることは稀です。

MS62 Prooflike

MS62 Prooflike

2020年1月13日に$5,400で落札。

 

ラムダカット(まとめ)

1700年代のコインの中でも比較的手に入りやすい「ラムダカット」は、中世のコインが気になる方や、動物のコインをコレクションされている方におすすめです。いつの時代も平和を願う思いが込められた金貨を、是非あなたのコレクションの1枚に加えてみてはいかがでしょうか。

 

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