ドイツ中世の街をモチーフにしたレーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨、「人民皇帝」と呼ばれた統治者ヨーゼフ2世の素顔とは?
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨は、18世紀中頃に神聖ローマ帝国で発行されたコインです。ドナウ川の川岸に作られた中世の街レーゲンスブルクの美しい景観がコインにどのように描かれているのかお伝えし、当時の皇帝ヨーゼフ2世がどのような人生を送りどのように国家を統制していったのか歴史的な側面を解説します。
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨
基本データ
コイン名 | ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨 |
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通称 | レーゲンスブルク 8ダカット金貨 |
発行年 | 1765年〜1790年 |
国 | ドイツ |
額面 | 8ダカット |
種類 | 金貨 |
素材 | 金 |
発行枚数 | – |
品位 | Gold (.986) |
直径 | - |
重さ | 28g |
統治者 | Joseph II (1765-1790) |
デザイナー | Johann Leonhard Oexlein |
カタログ番号 | KM# 395, Fr# 2558 |
表面のデザイン | 北側から見た石橋と川の風景のある市街の上に、三位一体のマークと笏と珠を持つ鷲 |
月桂樹と椰子の枝の間に市の紋章とICB | |
表面の刻印 | TALI SUB CUSTODIA |
裏面のデザイン | 剣とオーブを手にした冠と無紋の双頭の鷲の上に、イヌフリース勲章で縁取られたオーストリア・ロレーヌの戴冠紋章 |
裏面の刻印 | IOSEPHVS II . D . G . ROM . IMP . SEMP . AVG . |
エッジのタイプ | - |
エッジの刻印 | - |
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨とは?
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨はドイツのバイエルン州にある美しい中世の街の景観をモチーフにした金貨です。この時代は写真技術も無く、当時の街並みを今の世に伝える貴重な手段としても人気の「都市景観」コインです。どのような金貨なのかそのデザインを詳しく見ていきましょう。
表面のデザイン
表面に描かれているのはレーゲンスブルクの街の風景です。前景にあるのはドナウ川、その川の向こうに見えるのが中世のレーゲンスブルクの町並みです。
エッジに沿って刻まれているのはラテン語の「TALI SUB CUSTODIA」の文字。上方に描かれている三角形は「神の目」です。その中に3つの小さな帯が描かれていますが、これはキリスト教における三位一体のことで父(神)・子(キリスト)・聖霊を意味します。その下にはハプスブルグ家の家紋である鷲が王冠を乗せたモチーフが見えます。
表面下方には月桂樹とヤシの枝で飾られたレーゲンスブルクの紋章が刻印されています。紋章の周りに刻まれた「ICB」という文字は、造幣局長 Johann Christoph Buschの頭文字を取ったものです。当時はJをIとして表現することもありました。この金貨には発行年数が示されていないのですが、当時の皇帝ヨーゼフ2世の在位期間1741年〜1766年と、この彫刻家の在職期間1765年〜1790年を照らし合わせてみると、接点として出てくるのが1765年という年です。そのためこの年がドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨の発行年数と考えられています。
裏面のデザイン
裏面には神聖ローマ帝国の国旗や国章に使われている「双頭の鷲」がモチーフとして描かれています。頭には王冠を乗せ、胸部にはこれまた王冠を乗せた盾と勲章が描かれています。鷲は、向かって右手には宝珠を左手には剣を持っています。
エッジに沿って刻まれているのはラテン語の「IOSEPHVS II . D . G . ROM . IMP . SEMP . AVG 」の文字です。
ドイツ レーゲンスブルクとはどんな都市?
レーゲンスブルクは、「ドナウ川湖畔で最も美しい中世の街」と言われている場所です。ローマ帝国時代に見張りの砦として建設され、ドナウ川とレーゲンスブルク川の交流地点にあることから中世には交易都市として富を築きました。後に交易都市としては衰退しましたが、古い建物は取り壊さず修理され美しい景観が維持されてきました。そして、2006年には街全体が世界遺産に登録されました。
コイン表面の中央に見えるのは「レーゲンスブルクの石橋」で、旧市街地とシュタットアムホークを結んでいます。1135年着工、1146年完成のドイツ最古の石橋です。幅は8m、長さは309mもあります。
レーゲンスブルクはその歴史的景観だけでなく、気候が穏やかなため夏の保養地としても多くの人が訪れる人気スポットとなっています。
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨が作られた当時の時代背景
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨が発行されたのは神聖ローマ帝国時代の末期です。当時どのような時代背景があったのか見ていきましょう。
皇帝ヨーゼフ2世の生涯
▲ヨーゼフ2世の肖像
この金貨が発行された当時、皇帝の位についていたのはヨーゼフ2世です。ヨーゼフ2世は神聖ローマ帝国の皇帝でしたがハンガリー王国、ボヘミア王国の王も兼ねていました。妹にはフランス革命で処刑されたあの有名なマリー・アントワネットがいます。1765年、父フランツ1世が亡くなったため皇位・王位に就きましたが、実際の執務は母親のマリア・テレジアと共同で行われていました。ヨーゼフ2世の政策は急進的また革命的であったため、しばしば母と意見が合わず衝突することが多かったと伝えられています。
私生活では最愛の女性マリア・イザベラと結婚しますが、イザベラは結婚後わずか3年で天然痘にかかり他界してしまいます。その後再婚しますが、うまくいかず離婚。以降、独身で一生を終えました。
「人民皇帝」と呼ばれたヨーゼフ2世
▲自ら農耕に従事するヨーゼフ2世を描いたもの
ヨーゼフ2世は前述の通り、急進的・改革的な政策を行ったため「人民皇帝」や「民衆王」と呼ばれました。いったいどのような政策を行ったのでしょう。
1781年、ヨーゼフ2世は農奴解放令を発布し、それまで領主貴族に属していた農民を開放し直接君主支配下に置きました。ヨーゼフ2世は自ら農作業に参加することもあり、その時の様子を描いた絵が残っています。
またルター派や正教会などいくつかの宗派に分かれていたキリスト教に対し、宗教寛容令を公布。この法律により、どの宗派の宗徒であっても平等な公民権を持つことが認められました。
その他、プラーター公園という皇室の領地を一般市民に開放したり、教育に力を入れて多くの小学校を立てたり、ウィーン総合病院を開設したりするなど思い切った政策を実施しました。
友愛結社フリーメイソンへの対応
▲ フリーメイソンリーのシンボルマークの一つ
寛容かつ急進的な政策を実施したヨーゼフ2世でしたが、実際には、言論の自由を認めながら裏では監視の目を光らせるという手法を用いていました。その一つがGマークで知られる友愛結社「フリーメイソン」への対応です。フリーメイソンは16世にスコットランドで始まったとされ、その後ヨーロッパだけでなく世界各地にも広まっていきました。
神聖ローマ帝国では、イエズス会とカトリック教会がプロテスタント教会と対立していましたが、フリーメイソンはこうした対立において、啓蒙主義者に自由な言論の場を提供しようと活動していました。当初、ヨーゼフ2世はそうした動きに寛容で、1784年にはウィーンに「大ロッジ」と呼ばれるフリーメイソンの組織を作りました。
ところが同時にフリーメイソンの存在を陰謀者のようにも考えていたのです。そのため、1785年、「フリーメイソン勅令」を発しました。この法令により、帝国内に広がっていたフリーメイソンの活動は国家の監視下に置かれるようになったのです。
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨の種類・その他のコイン
レーゲンスブルクの景観をモチーフにしたコインには8ダカット金貨の他に1/4, ½, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 10, 12, 20ダカットと数多くあります。その中から、特徴のあるものを複数紹介します。
レーゲンスブルク都市景観が同じデザインの 8ダカット金貨
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨にはこれまですでに紹介した1765年発行のコインの他に、同じ都市景観を描いた金貨が3種類あります。ここではレーゲンスブルクの都市景観を同じ角度から描いた金貨2種を紹介します。
8ダカット金貨 1784-1790年
ヨーゼフ2世統治時代の後半(1784-1790)に発行された 8ダカット金貨です。裏面のデザインは同じですが、表面の上部にあった鷲のモチーフがなくなり、下部の彫刻家のイニシャルも「B」に変わっています。
8ダカット金貨 1745-1765年
ヨーゼフ2世の父フランツ1世の時代に発行された8ダカット金貨です。裏面にはフランツ1世の肖像が彫られています。
異なる角度から描かれたドイツレーゲンスブルク都市景観金貨
レーゲンスブルクの都市景観を別の角度から描いた金貨を2つ紹介します。
1ダカット金貨 1745-1765年
フランツ1世の統治下で発行された1ダカット金貨です。この金貨の景観ではレーゲンスブルクの石橋が右端に見え、橋の手前が船着き場になっていることがわかります。このデザインが施されているのはこの1ダカット金貨のみです。
8ダカット金貨 1745-1765年
フランツ1世の統治下で発行された8ダカット金貨です。レーゲンスブルクの都市景観が川側から都市を見渡した風景になっています。そのため、旧市街地が向かって右側に見え、対岸が左に見えます。さらに、神の目の下にあるモチーフは鷲ではなく2人の天使がレーゲンスブルクの紋章と盾を持ったデザインに変わっています。また、エッジに沿って刻まれているのはラテン語の「DOMINUS PROVIDEBIT I. L. Œ」の文字。表面一番下には、「RATISBONA B」の文字があります。Ratistonaはレーゲンスブルクのラテン語名、Bは彫刻家Georg Christoph Busch名字のイニシャルです。
最も大きなレーゲンスブルク都市景観20ダカット金貨
レーゲンスブルク都市景観ダカット金貨の中で最も額面が高くサイズが大きいのが1705~1711年に発行された20ダカット金貨です。当時の皇帝はヨーゼフ1世。重量が68.05gあるかなり重たい金貨です。8ダカット金貨の重量が27.75gですから約2倍の重さがあることがわかります。表面の都市景観は川側から全体を見渡す角度から描かれていますが、他の都市景観金貨と比べるとその描き方がシンプルです。このシンプルさは、裏面の紋章のデザインにも見られます。
ドイツ レーゲンスブルク 都市景観 8ダカット金貨の価格推移
発行枚数と現存枚数が不明なことが多いこの時代のコイン。大手オークションサイトでも数十年に1度程度の出品のため、大変希少なことが伺えます。
MS63 PL
脅威のPL(プルーフライク)鑑定。10年以上前の履歴しか出てこないほど、希少なコインです。次の機会に市場に出てくるのはいつになるかわかりません。
2012年1月2日に$69,000で落札。
ミレニアコレクションより。
鑑定枚数は2枚。どちらもTop Pop(世界最高鑑定)。
レーゲンスブルク都市景観ダカット金貨で中世のドイツにタイムトリップ!
ドイツ中世の美しい街レーゲンスブルクの景観を描いたレーゲンスブルク都市景観ダカット金貨。街そのものが美しいのはもとより、金貨自体も美しいデザインに仕上がっています。そして当時の統治者たちがどのような政策を行っていたのかを知ることにより、中世のドイツである神聖ローマ帝国にタイムトリップしたような気持になるのではないでしょうか。
今回取り上げた8ダカット金貨だけでなく、1/4ダカットから20ダカットまで数多くあるレーゲンスブルク都市景観ダカット金貨、ぜひ楽しんでみてください。
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