アン女王の5ギニー金貨|初代グレートブリテン王国女君主の希少なコイン
アン女王は最初のグレートブリテン王国君主であり、そしてステュアート朝最後の君主でした。
怒涛の時代を生きたアン女王と希少なこの金貨。その背景には一体どんなヒストリーが隠されているのでしょうか?
本記事では、アン女王の5ギニー金貨が作られた時代背景と、アン女王の生涯についてお話いたします。
アン女王 5ギニー金貨
基本データ
コイン名 | アン王女 5ギニー金貨 |
---|---|
通称 | 5ギニー金貨 |
発行年 | 1711-1714 |
国 | イギリス |
額面 | 5 Guineas |
種類 | 金貨 |
素材 | 金 |
発行枚数 | - |
品位 | Gold (.9167) |
直径 | 37 mm |
重さ | 41.9 g |
統治者 | アン王女 |
デザイナー | - |
KM | KM # 535、Sp # 3568 |
表面のデザイン | 左向きのアン王女の胸像 |
表面の刻印 | ANNA • DEI • GRATIA(神の恵みによるアン) |
裏面のデザイン | 中央にガーター勲章、十字に並んだ王冠をつけた盾、斜めに国章をあしらった王笏 |
裏面の刻印 | MAG - BRI • FR ET • HIB - REG • 17 13(イギリス女王、フランスおよびアイルランド) |
エッジのタイプ | レタリング |
エッジの刻印 | DVODECIMO |
アン女王 5ギニー金貨とは?
コレクターの注目をいつも浴び続けている希少価値の高い、アン女王の5ギニー金貨。
こちらでは、アン女王の5ギニー金貨について詳しくご紹介します。
イギリス5ギニー金貨とは?
▲さまざまなギニー金貨
ギニー金貨はチャールズ2世が発行したイギリスの時価通用金貨でした。発行された当時は、ソヴリン金貨やクラウン銀貨、ユナイト金貨やリアル銀貨、エンゼル金貨などさまざまな貨幣があり、混乱を招いていたため、通貨用金貨を統一する目的でギニーコインが発行されたのです。
5ギニー金貨は重量約40gの金貨で、1660年〜1685年に発行されたチャールズ2世に始まり、1760〜1820年のジョージ3世まで、王や女王が即位する度に発行されました。
アン女王が国王に君臨した1702〜-1714年の間発行されたこの金貨は、ギニー金貨自体の希少さに加え、女性君主だったことや、細部まで優美に描かれているデザイン性の高さが際立ちます。
近年では、その稀少価値の高さと資産性、なにより美しさに魅入られるコレクターが多く、価格が上昇し続けています。
髪型やドレスに至るまでとても優美に描かれたコイン
アン女王の5ギニー金貨は、細かな美しい刻印にも注目が集まります。
こちらのコインは、表面にアン女王の横顔の肖像が描かれています。髪の緩やかなうねりやリボン、ショールの柔らかさまで表現されているとても優美なデザインが特徴。女性君主だからこその威厳と美しさを放っています。
そして裏面には十字型の有冠の紋章4つの楯が、誇り高きグレートブリテン国王の証として描かれています。
イングランドを始めとする、4か国の国章をバランスよく配置し、4種の盾の紋章を一つに組み合わせ十字を形成。その中央には14世紀以来、イギリス王室が授与する栄典の最高位「ガーター勲章」の徽章が刻まれているのです。
VIGO刻印のある5ギニー金貨
アン女王の5ギニー金貨の中でも「VIGO(ヴィーゴ)」の刻印があるものは、レアなコインとして世界中のコレクターから注目を浴びます。
VIGOコインが発行された時代背景には、アン女王即位の前年1701年に勃発したスペイン継承戦争があります。
その戦争中の1702年ヴィーゴ湾の会戦で勝利を納め、スペインの船から約2,000㎏以上の銀と3㎏の金が回収されました。この貴重な貴金属を利用して発行されたコインには「VIGO」の刻印が彫られています。
戦利品という歴史的な意味に加え、人気の高さの理由にはその希少さにあります。特にVIGO5ギニー金貨は20枚だけ発行され、現在の残存枚数が約15枚程度と言われています。
このようにVIGOの刻印のあるコインは、アン女王を描いたコインの中でも特に人気の逸品です。
アン女王 5ギニー金貨が作られた当時の時代背景
▲アン女王とジョージ王配
グレートブリテン王国は、1707年からイングランド王国とスコットランド王国が合同して、グレートブリテン島全体を支配した歴史上最初の国家です。両国のこの合同法は、現代のイギリスの基盤となりました。
アン女王はグレートブリテン王国、そしてアイルランド王国の王として1707年〜1714年の間、その頂点に君臨します。
こちらでは、グレートブリテン王国の成り立ちをみながら、アン女王の生涯について紹介します。
グレートブリテン王国の初代女君主であり、ステュアート朝最後の女王となったアン女王とイギリス王位継承法
アン女王について知るために、今のイギリス連合国の基盤となるグレートブリデン王国の成り立ちを見ていきましょう。
1603年にステュアート朝のジェームズ1世(であり、同時にジェームズ6世であった)は、イングランド国とスコットランド国の王を兼ね、両国は同君連合の関係でした。その後、息子のジェームズ2世(スコットランド国王としてはジェームズ7世)が後を継ぎますか、娘夫婦によるクーデターが勃発。ジェームス2世は名誉革命(別名:無血革命)によって王位から追放されます。
その後、ジェームズ2世の娘メアリー2世の夫、オランダ総督ウィリアム3世がイングランド国王に即位します。しかしこの2人には後継である子供がいなかったため、妹のアンに王位継承権が受け継がれていきました。
ウィリアム3世とメアリー2世の死後に即位したアン女王時代の1707年合同法により、両国の議会は統一され一つのグレートブリテン王国が誕生します。
アン女王は同時にアイルランド国の王として即位し、グレートブリテン王国と初代君主アン女王が誕生したのです。
しかしアン女王の後、アン女王の子供は成人することができなかったので、ステュアート朝の血を受け継ぐ後継者がいませんでした。1371年来、300年以上続いたスチュアート朝は、アン女王の死後断絶します。しかし、アン女王は生前1701年に王位継承法を決定していました。
この法律によって、イギリス王はステュアート家の中、唯一のプロテスタントだったソフィアの血を継ぐ者だけが王位を継承するという法律で、これは現在のイギリス王室にも続くとても重要な法律になっています。
アン女王と親友サラ=ジェニングス
▲マールバラ公爵夫人 サラ=ジェニングス
幼少の頃からお転婆で、読書や芸術よりも馬を乗りこなすことに長けていたと言われるアン女王。
ですが、当時黒死病やペストの大流行で、幼少期から母親や兄弟を立て続けに失います。そんな背景もあり、とても愛情に飢えていた女王だったとも言われています。
16歳の時、アンはデンマーク・ノルウェーの皇太子ジョージと結婚します。政略結婚でしたが夫とは仲睦まじく結婚生活は安定していたそうです。
しかし彼女には大きな悲劇が再び訪れます。生涯17回の妊娠をしますが、流産や死産、そして病により1人も成人することがなく、子を失い続ける深い悲しみを多く体験します。
生涯、身近にある大切な人の死があまりにも多かったこともあり、夫が亡くなった後の晩年は、さらにお酒をたくさん飲むようになります。ブランデー好きだったことから「ブランデー・アン」と呼ばれていました。肥満のため、宮廷内は車椅子で移動していました。
しかしアンには幼い頃からの親友、サラ=ジェニングスがいました。晩年に決別するまで、アンにとってサラはかけがえのない存在として、長く長くそばに寄り添い続けます。
父ジョージ2世を追放した姉夫婦のクーデター名誉革命の際にも、軟禁状態だった2人は力を合わせて共にロンドンから逃亡し、姉夫婦に投降しました。サラも宮廷に入り王位継承者のアンの寝室付き女官として再びアンの側付きになります。
サラはジェームス2世の寵臣、軍人ジョン=チャーチルと結婚。しかし、寵臣だった彼を姉夫婦は「ジェームズ二世と通じている」との疑惑からロンドン塔へ投獄します。
この事件によって、姉夫婦とアン女王は対立し、王位継承者なのに宮廷から遠ざかって生活するようになるのです。
姉の死後宮廷に戻り、義兄の死により王位を継承したアン女王は、その後もサラの意見を重要視し政治の世界にも取り入れていきます。アン女王の背後でアンを動かしたと言われ、宮廷内での権力を蓄えていくサラでしたが、スペイン継承戦争の際、晩年はアンと仲違いをしていきます。
「スペイン継承戦争」や「アン女王戦争」、そして後の大英帝国の文化の繁栄
▲スペイン継承戦争
アン女王の即位していた時代は、列国の戦争の絶えない怒涛の時代でした。
1701年〜1715年までフランス・スペイン連合軍対イギリス・オランダ・オーストリア・プロイセンの連合国との戦争、いわゆる「スペイン継承戦争」がありました。これは、ヨーロッパ全土を巻き込んだ大戦の時代でした。アン女王は1702年〜1707年に在位し、この戦争の影響を強く受けます。
同時に1702年、イギリスとフランスがアメリカでの植民地を巡り、戦争が勃発。「アン女王戦争」に突入します。両国の間で植民地をめぐる戦争は以前からありましたが、フランスがスペイン植民地領を継承することにイギリスが反対したことが、戦争のきっかけになりました。
どちらの戦いも、グレートブリデン王国はフランスに対し勝利を勝ち取ります。そしてアン女王は政治的混乱を収め、イギリスの発展を継承していきます。
アン女王の即位の間は、とても血生臭い戦争の時代でしたが、アン女王は王室の財産を解放し、教会の十分の一の税金と王室収入の一部を貧民救済として民に分け与えていきます。歴代の王は決して行わなかったことを実行し「アン女王の贈り物」として民からの人気を集めます。
また、著作権の施行にも大きく関わり、近代著作権法の基となりました。この制度によって、イギリスは優れた文学を生み出す社会環境が整います。「ガリバー旅行記」のジョナサン・スウィフトや 「ロビンソンクルーソー」のダニエル・デフォーなどのすぐれた作家を輩出し、イギリス文学の黄金期と言われる時代を迎えました。
そして著作権以外のイギリス文化の中にもアン女王は息づいています。
当時高級品だった紅茶を、美食家のアン女王は惜しみなく愛飲します。お茶会だけではなく、朝から夜まで楽しむ紅茶の時間は10種類以上あるといわれ、これが現在のイングリッシュ・ティーの文化へと繋がります。これは、アン女王により紅茶を飲むという習慣が貴族の間で流行し、現在のイギリスの紅茶を飲む文化につながっています。これは、ティーポットなどのヨーロッパの陶磁器の発達にも大きく関係しました。
このように現在のイギリス文化の基盤を整えたアン女王の功績は、現在も続いているのです。
▲現代のイギリスに根付く紅茶の文化
アン女王 5ギニー金貨の コインの種類・その他のコイン
ヴィーゴ海戦勝利記念 アン女王 VIGO クラウン銀貨
アン女王のコインの中でも一際人気が高いコインといえば、ヴィーゴ海戦勝利記念に発行されたVIGOの刻印があるクラウン銀貨。
1702年ヴィーゴ湾にてイギリスとオランダの連合艦隊とスペインとの海戦が繰り広げられ、イギリスがスペインに勝利しました。
イギリスが戦利品として地金を押収。翌年、その地金で勝利を記念してアン女王像の下に「VIGO」と刻印をしたコインが発行されます。ちなみに当時の王立イギリス貨幣局長官は万有引力を発見した科学者のニュートンでした。
この銀貨は、海戦に勝利した記念に発行されたということもあり、多くのコレクターから羨望を集めています。
アン王女とジョージ王配 銅メダル
アン女王の偉大なる功績を讃え1702年に発行されたこちらの銅メダルは、アン女王と夫ジョージ王が描かれている珍しいコインです。
表面の女王の肖像の秀逸さはもちろんのことですが、このメダル最大の特徴はなんといっても裏面のジョージ王配の肖像。髪のウェーブや服の細部まで細かな細工がみごとです。
コイン、メダルを問わず、表裏に国王とその配偶者それぞれの肖像が描かれている例は非常に珍しく、人気の集まるコインです。
アン女王 1シリング銀貨
アン女王の左向きの肖像が刻まれているこちらの1シリング銀貨。
肖像画の周りには「神の恩寵によるアン」とラテン語が刻まれ、裏面には「グレートブリテン、フランスおよびアイルランドの女王」と書かれています。
裏面は十字型の有冠の紋章が厳かに刻まれ、新グレートブリテン王国の国家の威厳が漂うコインです。
アン女王 5ギニー金貨の価格推移
発行枚数が不明ということもあり、人気のアン女王の大型金貨です。オークションでも
中には「VIGO」の刻印があるものは歴史的な価値も相まって高額で取引されています。
AU55 1709年
2023年8月17日に$78,000で落札。
AU58 1706年
2023年8月17日に$96,000で落札
AU58+ 1709年
2023年8月17日に$132,000に落札
MS61 1713年
2023年8月17日に$144,000で落札。
"Vigo" 1703年 UNC Details (Damaged)
ヴィーゴ(VIGO)湾での海戦に勝利した際の地金で製造されたのがこちらの「VIGO」の刻印があるものです。
貴重なアン女王のコインですが、さらに貴重な「VIGO」の刻印があるものはほとんど手に入りません。
2021年3月26日に$324,000で落札。
パラマウントコレクションより。
アン女王による12年の治世はイギリス国の繁栄の始まり
アン女王は僅か12年間の比較的短い治世ではあったものの、その間のイギリスは未曾有の繁栄の基盤を構築します。
私生活では幼少期、流行病によって失った家族、肉親による父へのクーデターや、そして母親として子供を失うというもっとも深い悲しみを17回も味わいました。
夫と共に波乱の時代を納め、心許せる親友に恵まれた若き時代。同時に時代の荒波。運命の過酷さを日々乗り越えた女王の強さに、悠久の時を超えてただただ感服してしまいます。
アン女王の5ギニー金貨は、そんな彼女が駆け抜けた時代の輝きを、今の私たちへと運んでくれるのです。
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