安土桃山時代から作られた世界最大の金貨幣「天正大判」について徹底解説!

▲安土桃山時代の風景

日本を代表する大型の金の貨幣、天正大判(てんしょうおおばん)。流通用の貨幣ではなく、主に武勲を挙げた武将などへの恩賞の目的で製造されました。

何万枚も発行されている歴史がありますが、今回は発行枚数が極端に少ない「菱大判」や、世界最大級の金貨幣といわれる「長大判」をご紹介します。

 

天正大判

天正大判 表裏

基本データ

コイン名 日本 天正菱大判金|天正大判金
通称 菱大判|長大判
発行年 天正16年(1588年)〜
日本
額面 拾両(じゅうりょう)
種類 金貨
素材
発行枚数 菱大判:不明|長大判:約55,000枚
品位 Au 730
直径 菱大判:14.3×8.5×0.1cm|長大判:17.0×11.0cm
重さ 菱大判・長大判ともに十両(166.0g)
統治者 豊臣家
製造者 後藤家
カタログ番号 -
表面のデザイン 菱大判:天正十六 拾両 後藤と花押
表面の刻印 菱に囲われた桐刻印
裏面のデザイン 墨書きがあるものもある
裏面の刻印 -
エッジのタイプ -
エッジの刻印 -

世界最大級の金貨幣が作られるようになった歴史的背景とは?

16世紀までの日本では、商人の大きな取引の際や武功を挙げた武士への褒賞などには砂金が用いられてきました。本格的に金貨や銀貨が製造されるようになったのは、西日本で銀鉱山、東日本では金鉱山が相次いで発見・開発されるようになった16世紀のことです。地方大名たちは鉱山の争奪戦を繰り広げるとともに、採掘や精錬の技術の改良や普及が進み、それぞれの領地で金貨や銀貨を造り始めました。

そして、全国の金山と銀山の収益を独占した豊臣秀吉は1587年から、通貨単位の統一を図るとともに貨幣の製造に尽力しました。そいて、中国との貿易の際の支払い用として使用されたとも言われています。いわゆる南米や北米の大型金貨などと同じ役割でした。

豊臣秀吉の肖像

▲豊臣秀吉

豊臣秀吉は、金の魅力にとり憑かれた人間でした。佐渡の金山を直轄にするなど、各地の金山を支配下に置いた秀吉は、黄金で大坂城や聚楽第、伏見城などの居城を金箔で覆い、人々を圧倒しました。

また、金の茶室や風呂場、さらにはトイレまで金で造りました。自身も金の蒔絵を施した武具や金の刺繍を入れた陣羽織など、身の回りも金で固めました。これは黄金によって権力そのものを示そうとしたといわれています。

 

2種類の天正大判とは?

天正大判には主に2種類あります。刻印や歴史的背景の違いを比べてみましょう。

天正菱大判

1つ目は、天下統一目前の豊臣秀吉が贈答用や儀礼用として製造させたといわれる、天正菱大判(てんしょうひしおおばん)です。天正16年(1588年)に製造され、表に菱形の桐の極印が打たれているため、そう呼ばれています。

京都で足利幕府の時代からのお抱え職人として装剣金具の製作を生業としてきた後藤家の祖、本家・四郎兵衛家の4代当主・光乗の末弟にあたる祐徳(ゆうとく)に、豊臣秀吉が作らせたものです。秀吉の側近に数枚配られただけという、とても希少なものです。

世界で存在が確認されているものはわずか6枚です。「日本銀行貨幣博物館」や「東京国立博物館」、大阪の「造幣博物館」などの博物館に収蔵されています。

▲わずか2mmですが、ほぼ平坦に鍛造されています

厚さわずか2ミリの金の薄い板の表面に、たがね(鏨:金属を加工するための工具)を横向きに打ち、3か所に菱型枠に五三の桐の極印(きょくいん:刻印のこと)が打ってあります。

その上から「拾両 後藤(じゅりょう ごとう)」、当時の手書きのサインこと「花押(かおう)」が墨書きされています。これはいわゆるミントマスター、現代でいう造幣局長の直筆のサインのようなものです。

金の品位は六十一匁(もんめ)の72.1%といわれますが、金と銀の割合がおおよそ8:2です。18金(金75%)、もしくはそれより高い純度といわれています。墨書きの「拾両」は四十四匁の165.0gをあらわす量目の単位ですが、小判の十両分とは異なるので注意が必要です。

表裏に折り曲げて圧着しているのは「埋め金(うめきん)」と呼ばれる量目調整のための金属です。うら面の墨書きは、贈答や献上にあたり相手の名前が記されています。

後の天正長大判に比べるとやや小ぶりですが、その分厚みがあります。

 

天正長大判

2つ目は天正16年(1588年)、後藤徳乗(とくじょう)に命じて大判を作らせた、天正大判の中でも縦に長い「天正長大判」のご紹介です。

これが幕府が公的に製造した金貨幣の始まりです。特にこの大判は縦17.3cmと長く、金貨としては世界最大級であるといわれています。

 

日本独自の特殊な製造方法

天正大判は「鍛造(たんぞう)」と呼ばれる製法で作られました。この製法は後の時代に発行される小判などにも応用されました。

鍛造とは、金属を叩いて圧力を加えることで強度を高めて成形する技術です。 この叩く作業を「鍛える」と表現するので、「鍛えて造る」ことから「鍛造」と呼ぶようになりました。刀剣の製造も同じような方法で製作されています。

ヨーロッパや諸外国のコインは「打刻」で製造されてきましたが、日本は鍛造や鋳造で貨幣を作ってきた歴史があります。

 

天正大判にまつわるお話

細かな違いがある天正大判ですが、その中でも特に印象的なストーリーがあるものをご紹介します。

大仏大判と大坂冬の陣

▲大坂冬の陣図屏風デジタル想定復元(出典:徳川博物館 / 制作:凸版印刷株式会社)

豊臣秀吉亡きあとの秀頼の代、慶長13年(1608年)に京都の方広寺の大仏建立にあたって製造されました。次の時代の長大判とくらべると小型ですが、量目は変わらず44匁1分(約165グラム)であります。長大判より表面の上下左右の桐の刻印が若干大きめになっています。

デザインは拾両後藤と花押、そして五代後藤徳乗(とくじょう)の墨書と、右上に「大」と墨書されています。(稀に無いものもあります)上下左右にやや大きめの丸枠の桐の極印がそれぞれ一箇所ずつ、計四箇所打たれています。裏面中央には丸枠桐紋、亀甲桐紋、花押の極印がある。形状はやや角ばった楕円形となり長大判より縦のサイズが短いのが特徴です。現存数は天正大判の中で最も多くなっています。

これは徳川家康が秀頼の蓄財を消費させる目的で方広寺の再建を指示したとされれています。製造時期は慶長大判と重なりますが、豊臣家によるものであることから天正大判の種類の一つに数えられています。

発行枚数は39,763枚。サイズは縦約16cmで、重さは約165.0gです。

この方広寺は、のちの「方広寺鐘銘事件」で有名になりました。

慶長19年(1614年)、豊臣秀頼が亡き父の弔いのために京都の方広寺の東山大仏殿の再建に着手しました。その際に鋳造したの銘文に「国家安康」「君臣豊楽」という2つの句がありました。

「安の一字で家康を分断した上、豊臣を君として楽しむ」という意味が隠されているとして家康が秀頼を論難したという事件です。これはのちの大坂冬の陣のきっかけとなりました。

 この事件の原因となった巨大な鐘は、明治17年(1884年)建立の方広寺の鐘楼に納められて現存しています。

突如オークションに姿を現す天正菱大判

 

2015年、スイスの老舗オークションハウスHess Divo(ヘス・ディーヴォ)で1枚の天正菱大判がオークションにかけられました。

豊臣秀吉は天正菱大判を側近の5人に配りました。この5人の大名の中に、その後天下統一を成し遂げる徳川家康が含まれていました。家康が天下を取ったとき、残りの大名の4人は家康への忠誠の印にこの天正菱大判を渡しました。ところが明治維新の混乱期に、徳川家に代々伝わったこれら計5枚の天正菱大判を、一族の誰かが京都のどこかに隠したという話がありました。

その隠された天正菱大判が出てきたのが、第二次世界大戦後の混乱期です。そして徳川家の末裔がこれを売りに出しました。しかし、そのうち3枚は「本来、日本の権力者の所有物であり、国の所有物ではないか」ということで、東京国立博物館や大阪の造幣博物館に寄贈されました。

そして残る2枚は「個人の古銭収集家に売られた」とされていました。その後、ある1枚が2000年頃に韓国を代表する総合電子製品メーカー「サムスン(Samsung:三星)」のプライベート美術館に買い取られました。

残るもう1枚が、2015年5月22日にオークションにかけられることになったというわけです。

オークションは約1億320万円でのスタートで、落札価格は約1億4,190万円でした。

そして2000年ごろにサムスンが手に入れた天正菱大判が、2021年4月6日に老舗のオークションハウス「スタックス&バウワーズ」社から「ピナクル(頂点)コレクション」として香港で開催されたオークションにかけられました。

PCGSの鑑定済みで、グレードはMS60です。

落札価格は約2億1,312万円でした。

 

天正大判の価格推移

天正菱大判

ほとんど取引履歴のない「天正菱大判」ですが、2021年にもオークションにかけられました。

「収集不可能」といわれている貨幣のなかのひとつなので、もしオークションの下見などで実際に手に取る機会があれば、ぜひ後世に残る貴重な文化遺物の美しさを堪能してください。

2021年4月4日に約2億1,312万円円(手数料含む)で落札。

天正長大判

菱大判の後の時代に製造されたため、台や刻印のクオリティも格段に上がり、のし目も美しい仕上がりです

 

日本国内のオークションにて6千640万5千円(手数料含む)で落札。

 

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