古代リディアで発行された世界初のコイン「エレクトラム貨」が生まれた歴史的背景とは?
コインの歴史は遥か紀元前の古代にまでさかのぼります。世界最初のコインが出現したのは紀元前670年のリディア王国だといわれています。
古代リディアで発見されたコインは「エレクトラム貨」と呼ばれるもので、特殊な「エレクトラム」と呼ばれる合金が使われています。
そもそもリディア王国とはどこにあるのか、エレクトラムとはどのような金属なのでしょうか。
今回は遥か悠久の古代に思いを馳せながら、リディア王国やエレクトラム金貨の歴史とロマンに浸っていきましょう
エレクトラム貨
基本データ
コイン名 |
リディア エレクトラム貨
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通称 |
エレクトラム
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発行年 | 紀元前610年〜560年 |
国 | 古代リディア王国 |
額面 | スターテル |
種類 | エレクトラム貨 |
素材 | 金 |
発行枚数 | - |
品位 | Au73%・Sv27%・その他の金属の合金「エレクトラム」 |
直径 | - |
重さ | 約4.7g |
統治者 | アリアッテス |
デザイナー | - |
KM | - |
表面のデザイン | - |
表面の刻印 | 四角い打刻 |
裏面のデザイン | - |
裏面の刻印 | - |
エッジのタイプ | - |
エッジの刻印 | - |
世界最古のコインは紀元前670年
世界史上、最初のコインが出現したのは紀元前670年のリディア王国だといわれています。
古代リディア王国にてコインが使われるようになった経緯や、世界最古のコイン「エレクトラム貨」とはどのようなコインなのか紐解いていきます。
貴金属が貨幣がわり
コイン(貨幣)が出現する以前、現在のエジプト・中近東を中心とする地域では金や銀などの貴金属が物々交換に使われていました。
棒状にした貴金属を取引のたびに重量を量り、必要な分だけがカットし、使用していました。
しかし、この方法は手間や時間がかかることから、次第に輪切り状の貴金属が取引に使われるようになりました。そして、当時最も商取引が栄えていた古代リディアにて、高額決済や貿易などの取引を進めていくために、偽造が難しく持ち運び可能な、政府が製造するコインが登場したのです。
古代リディア王国とは
古代リディア王国とは、現在のトルコ西部にあった王国のことをいいます。紀元前1200年~546年に渡って、古代オリエント文明の中心となった国の1つです。
古代ギリシアの歴史家ヘロドトスは、「我々の知る限りでは、(古代リディア王国の人々は)金銀の貨幣を鋳造して使用した最初の人々であり、また最初の小売り商人でもあった」と記述しています。
リディア王国の商工業が最も栄えたのが紀元前7世紀あたり、アリアッテス・アリアッテス2世・クロイソス国王が古代オリエントを支配しました。
最初のコインとなる「エレクトラム貨」を製造したのはアリアッテスだといわれ、国王を象徴するライオンや雄牛などがコインの図柄に使われています。
紀元前546年にリディア王国はペルシア帝国に統一され、その後もエレクトラム金貨は広く流通し、古代ギリシア・ローマの貨幣制度へと発展していきます。
エレクトラムとは
リディア王国のエレクトラム金貨は純金ではなく、金と銀、その他の金属が混同した「エレクトラム」と呼ばれる合金によって製造されています。
ギリシア語で琥珀をエレクトロン(Elektron)といい、この合金は淡い黄色が琥珀を連想させるものであることから、琥珀金すなわちエレクトラム(Electrum)と呼ばれるようになりました。
紀元前6世紀中ごろ、貨幣改革を行った王クロイソスが金を見つけたのは、触れる物をすべて黄金に変えたという伝説のミダス王の所有する川だったといいます。
金と銀を完全に分離することは当時の技術では難しく、リディア人は鉱山から採取した金の塊を、ハンマーでごく薄いシート状に延ばし、それを塩化ナトリウムと一緒にるつぼに入れ、摂氏800度ほどの炉で熱することで純度の高い金をとりだしたものと思われています。
エレクトラムは、金73%・銀27%、その他に銅・鉄・パラジウム、時にはプラチナなどが混在する金属です。当時のオリエント文明では、このエレクトラムが現代の金にかわる高価な貴金属として扱われていました。
後にギリシア時代に入ってから、純金や純度の高い銀がエレクトラムの変わりにコインの素材として使われるようになります。リディア王国時代には数種の銀貨が製造されています。
スターテルとは
リディア王国で普及が始まったエレクトラム貨は、別名スターテル金貨とも呼ばれています。
スターテルとは当時の通貨単位のことで、1スターテル・ハーフスターテル・1/3スターテル・1/12スターテルなど重さによってコインの種類・価値が区分されています。初期の頃は1スターテルは10~14グラム、後期では8~10グラムです。1スターテルのエレクトラム貨は、兵士1ヶ月分の給与に相当し、羊が10頭買えたとこのことです。
考古学者サルディスによると、このコインは商店や市場などで日常的に使用される、一般的な通貨ではなかった可能性があると考えています。王と上流階級の人間によって蓄えられ、税金の徴収のために使用され、リディアと近隣諸国との間の長距離で、なおかつ貿易の高額決済用の通貨として使用された可能性があります。
古代エレクトラム貨の種類
それでは古代リディア王国の代表的なエレクトラム貨とその金貨にまつわる歴史を見ていきましょう。リディア王国の影響から、その他の国で製造されたエレクトラム貨も合わせてご紹介していきます。
リディア王国 ライオンコイン(BC610~546年)
リディア王国のエレクトラム貨で最も有名なのが、この「ライオンコイン」です。威圧的に吠えるライオンの頭部に昇る太陽が刻印されたエレクトラム貨で、ライオンはリディアの国王を象徴するモチーフです。
年代や当時の国王によってライオンの図柄が若干異なり、上記のコインはアリアッテス(またはウォルウェット)の時代のものです。紀元前619年ごろにリディア王国を創設したアリアッテスは、コインの製造方法を大規模に標準化しました。
エレクトラム貨にはライオン・雄牛・太陽などが権力を象徴するものとして当時のコインに使われています。コインの裏側のへこみは、表面が盛り上がるように工夫されたもので、裏面には図柄がないのが大きな特徴です。
国家の信用において最初の通貨を世界に提供したクロイソスですが、金本位制の始まりでもありました。その結果クロイソスは巨万の富を築き、世間では「クロイソスのように金持ちだ」ということわざが生まれました。
価格相場:NGCの鑑定付きでグレードが高いものは100万円~1,000万円以上の値がつきます。摩耗などの状態が良くないものは数十万円で売買されています。
大英博物館にも状態のよいエレクトラム貨が所蔵されており、グレードによっては値が付けられない程の重要文化財として取り扱われています。
アケメネス朝 ペルシア王 (BC5~4世紀)
リディア王国は紀元前546年にペルシアに滅ぼされますが、普及し始めたエレクトラム貨は、紀元前5世紀~4世紀にかけてペルシア帝国で製造されるようになります。6世紀の終わりごろには、上記の膝をあげて走る姿の射手のデザインに変わります。
この、ダリウス1世の金貨などは「ダリック」と呼ばれ、アレキサンダー大王がペルシャ帝国を滅ぼすまでのほぼ2世紀の間、少しずつ修正されながら発行されました。
ミュシア王国 グリフォン (紀元前500~450年)
リディア王国の上部に位置していたミュシア王国でも、リディアの流れを継いで数種類のエレクトラム貨が製造され、普及しました。
ミュシア王国はリディア王国時代にはリディアの支配下、ペルシア帝国時代にはペルシア帝国の支配下にありながらも、ギリシアとリディアに隣接する主要都市であったことから、戦争や貿易などで独自の流通が発達したと思われます。
上記のエレクトラム貨は上半身は鷲、下半身はライオンとなる古代ギリシア神話のグリフォンが刻まれています。他にもミュシアのコインにはアテネなどが登場し、次の古代であるギリシア時代の足がかりとなるエレクトラム貨だといえます。
ミュシアのエレクトラム貨は製造期間が短いため、入手が難しく高い値がつきやすいのが特徴です。
グレードによる価格推移
LYDIAN KINGDOM. Alyattes or Walwet (ca. 610-561 BC). EL third stater or trite.
12mm, 4.72 gm
2017年8月3日
$16,450
LYDIAN KINGDOM. Alyattes or Walwet (ca. 610-546 BC). EL third-stater or trite
NGC Choice AU★ 5/5 - 5/5, edge taps
12mm, 4.72 gm 金製
2022年5月5日に$13,200で落札。
上記のコインと同じグレードですが、「edge taps」という状態のため、少し価格が下がります。
LYDIAN KINGDOM. Alyattes or Walwet (ca. 610-561 BC). EL third stater or trite
12mm, 4.73 gm 金製
2018年4月20日に$10,200で落札。
その他の種類
LYDIAN KINGDOM. Croesus (ca. 561-546 BC). Stater.
19mm, 10.79 gm 金製
2018年8月17日
$144,000
PERSIA. Achaemenid Empire. Darius I - Xerxes I (ca. 505-480 BC). Daric
Exquisite 'Shooting' Daric
15mm, 8.34 gm 金製
2015年1月5日
$23,500
リディアのエレクトラム貨まとめ
リディア王国をはじめとする古代の金貨は、製造されて2千年以上経っています。そのため流通の跡などもみられるため、摩耗などがひどく安値で売買されるコインも存在しますが、グレードが高いものは数百万~1,000万円以上の値がつくこともあります。
古代の金貨は現存するコインの数が極めて少ないため、年月とともに希少価値はますます高くなる傾向にあります。今後の値上がりを期待してコインを選ぶなら、古代エレクトラム金貨はぜひ購入しておきたい1枚だといえるでしょう。
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