ドイツニュルンベルクの都市景観コインと歴史について解説

欧州の古い街並みが刻まれた都市景観コインは、アンティークコインの中でも人気のテーマです。とくに、ドイツのニュルンベルクの都市景観コインは、独特の美しさが刻まれていることで注目されています。

ニュルンベルクとはどんな都市?どんなコインがあるの?と興味を持つ方も多いでしょう。

今回はドイツニュルンベルクの概要やコインの歴史、そして、おすすめのニュルンベルク都市景観コインをご紹介していきます。今後の素敵なコレクションの1枚に検討してみて下さい。

 

ニュルンベルクとは

ニュルンベルク(Nuremberg/Nürnberg)はドイツで最大の州、バイエルン州でミュンヘンの次に大きな都市です。2つの塔が高くそびえる聖ローレンツ教会、ペグニッツ川をロマンティックに飾るマックス橋・フライッシュ橋。長い歳月をかけて築き上げられた、ロマネスク様式、ゴシック・バロック様式など数々の壮大なる歴史的建造物を誇ります。

ナチス政権の党大会や、ワグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」や画家デューラーでもよく知られている地域です。

ニュルンベルクは、フランクフルト、プラハ、ミュンヘンのちょうど中央に位置する都市で、ポーランドやオーストリアにも便利な立地にあったことから、古くから貿易や行政で主要な都市として栄えました。

 

ニュルンベルクの概要と歴史

ニュルンベルクが著しく発展したのは、11世紀の初頭に神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ1世のカイザーブルク城を居住としたことがきっかけとなっています。その後16世紀まで、カイザーブルク城は皇帝の居城となり、ニュルンベルクは政治的にも経済的にも特権を獲得し、華々しく成長していったのです。

また、12世紀から13世紀にかけて聖ゼバルドゥス教会が建てられたこともニュルンベルクが大きく発展した理由でした。もともとは、聖ゼバルドゥス教会は、奇蹟を起こした聖者ゼバルドゥスのお墓があった場所。多くの参拝者が集まるようになり、都市の発展に貢献しています。

さらに、ニュルンベルクの発展を後押ししたのが、良好な立地条件です。10世紀以降から、周囲国との貿易における流通経路として開拓されていきました。商業・工業、とりわけ職人による手工業が大きく発展しました。15世紀から16世紀にかけて最盛期を迎え、「帝国の宝石箱」「帝国都市」と呼ばれるほど文化・芸術をリードする存在となります。

参照:ニュルンベルクの旧市街地 - 服部尚己

 

ニュルンベルクのコイン史

 次にニュルンベルクのコイン史を見ていきます。

中世以降の神聖ローマ帝国と周辺の国々の貿易は、主にシャンパーニュやジュネーブなど各主要都市の「大市」と呼ばれるマーケットで取引が行われていました。当時の取引に使われていた貨幣は、ローマの貨幣制度に基づいたリブラ、ソリドゥス、デナリウス、ペニーと呼ばれる金貨・銀貨が主流でした。

神聖ローマ帝国の各領土国でも、ペニーをドイツ語にしたペニヒ貨が数百を超える貨幣製造所にて造幣されていました。

 

13世紀に貨幣製造を開始

ニュルンベルクは13世紀に貨幣高権を取得。シュヴェービッシュ・ハル帝国貨幣製造所にて貨幣の発行を開始、独自の金融システムを展開していきます。

13世紀から14世紀にかけてペニヒ貨に変わるヘラー貨が製造されるようになり、15世紀あたりからヘラー貨に変わってグルデン貨が主流になります。

そして、16世紀にグルデン貨にとってかわりターレル銀貨やダカット金貨が登場します。17世紀以降はウェストフェリア条約によって、徐々に諸国の独立主権が強まったことでターレル・ダカット都市景観コインが発行されるようになり、18世紀にピークを迎えます。

19世紀には神聖ローマ帝国の解体、ドイツ統一にともなってマルク通貨へと貨幣制度の統一が計られていき現在に至ります。

参照:近世初期都市ニュルンベルクの市場構造と貨幣流通ドイツのコイン

 

ニュルンベルクの都市景観コイン5選

17世紀から18世紀にかけて、帝国時代の荘厳たる歴史建造物を誇るニュルンベルクでは、コレクターや投資家を魅了して止まない、美しい都市景観コインが多数発行されています

数あるニュルンベルクの都市景観コインの中から、参考として5つ厳選してご紹介したいと思います。

 

レオポルド2世 都市景観ダカット金貨(1790年)

最初に見ておきたい1枚は、レオポルド2世の都市景観ダカット金貨です。

レオポルド2世は1790年から1792年の神聖ローマ帝国の皇帝。父はフランツ1世と母はマリア・テレジア、マリー・アントワネットの兄にあたる人物です。在位期間はわずか2年間となるため、貴重な都市景観コインです。

表面はオリーブの王冠をかぶったレオポルド2世のネオクラシックな肖像、裏面はニュルンベルク都市の全景が刻まれています。カイザーブルク城、聖ローレンツ教会、マックス橋、現在も姿を留める壮大な景観が重厚なタッチで表現されています。

実はこのダカット金貨は、本当に実在するのかと思えるほど、国内と海外と双方において情報がほとんどありません。コインカタログサイトNumistaによると、価格情報や鑑定情報は不明、レア度は100中の100でかなりレアなコインと見なされています。

ドイツのカタログ情報によると約70万円の価格。2016年のドイツオークションでは約65万円で落札されています。ちなみに、英語圏でのその他レオポルド2世の落札状況を調べると、概ねで10万~30万程度、種類によっては300万円~400万円の値がついています。

もし、購入の機会があるならば、入手しておかない手はないといえる謎のコインで、将来的に破格の値がつく可能性があるかもしれません。

 

レオポルド1世 都市景観6ダカット金貨(1698年)

次にご紹介するのは、優れた作曲家でもありバロック大帝と呼ばれたレオポルド1世の都市景観、1698年に発行された6ダカット金貨です。こちらは、表面にオリーブの枝と鷲の紋章の杖を持った女神。両脇には盾を手にした天使、おそらく神聖ローマ帝国の勝利を象徴したデザインだと思われます。

裏面の都市景観はやや遠目にみたニュルンベルクで、広々とした景観が繊細な光沢を帯びている神々しいコインです。上空にある太陽の光には、ヘブライ語の”Jehovah/神”という言葉が刻まれ、神の目からみたニュルンベルクとの意味が込められています。

NGCの参考価格は、6ダカット金貨がグレードVFで約80万円、XFで約130万円。Coins Weeklyによると2019年のオークションでは6ダカット金貨がXFのグレードで約600万円で落札されたとのこと。ぜひコレクションに加えたい、資産価値が高い1枚です。

 

フランツ1世 都市景観6ダカット金貨(1745年)

ニュルンベルク都市景観で抑えておきたいもう1枚は、1745年のフランツ1世の6ダカット金貨です。フランツ1世は先にご紹介したレオポルド2世の父、マリア・テレジアとの婚姻によって帝位を継ぎました。

表面は活気あふれるフランツ1世の肖像、裏面は洗練されたデザインが施されたニュルンベルグの景観。神の目を表す上空の太陽の光はトライアングルから閃光を発し、バランスよく配置された教会の塔、中央にはZ型にペグニッツ川が走る斬新な構図が印象的です。

NGCの参考価格はグレードXFで約110万円。海外でも情報が少なく、日本ではほぼ入手が難しいと思われるこの都市景観は、日本のコイン専門店にて1,980万円で売却されています。希少価値に優れたコインです。

 

カール6世 都市景観ターラー

ここで、シルバーコインコレクターのためにご紹介したいのが、カール6世の都市景観コインです。カール6世はマリア・テレジアの父にあたる人物で、ハプスブルク家の最後の君主として勢力を最大に拡大しました。

上記は1711年の2ターラー銀貨で、表面は華麗な巻き毛と軍服をまとい、毅然としたカール6世の肖像。裏面は盾を掲げる天使たちが空を舞い、繊細なライン描写のニュルンベルク。波打つ曲線がフランスのバロック・ロココ調を思わせる都市景観コインです。

カール6世は多くのコインを発行していますが、このタイプが市場に出てくることは非常に稀です。Coin Weeklyによると、90万円程度で見積りされていたこのコインが、2020年に約180万円で落札されています。値上がりを期待するなら、ぜひ手にしておきたい1枚です。

 

ヨーゼフ2世 都市景観ターラー銀貨(1765~1780年)

そして、都市景観を代表するもう1枚とは、ヨーゼフ2世のターラー銀貨です。ヨーゼフ2世は、皇帝フランツ1世とマリア・テレジアの第4子で長男、フランツ1世の跡継ぎとして皇帝の座につきます。レオポルト2世の兄にあたる人物です。

ヨーゼフ2世の時代になると、デザインも近代的で現在のドイツ通貨の原型のようなものが増えてきます。表面は神聖ローマ帝国の紋章である双頭の鷲、裏面はニュルンベルクの従来のコインとは異なる視点で描かれた景観。

細部にこだわった精密な描写が魅力的なヨーゼフ2世の都市景観コインは1765年~1790年にかけて数種類のタイプが発行されています。海外オークションでは、1768年版が約5万円、1779年版は10万円程度で落札されています。比較的安価なうちに購入しておきたい都市景観です。

 

ニュルンベルク都市景観は今が狙い目か?

ドイツの都市景観コインは世界的に有名で、時には数百万円から1千万円以上の値が付くケースもあります。

ひとことでドイツの都市景観といっても、フランクフルトやレーゲンスブルクなど多数の地域で発行されている中、ニュルンベルクは独特の歴史を持つ地域として、昨今になってとくに注目を集めています。

それぞれにとって手近な価格のニュルンベルク都市景観を、まずは1枚確保しておきましょう。