1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨とは?特徴や価格、コインの歴史

 

「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は1837年のヴィクトリア女王の即位を記念して1839年に発行された金貨です。

これまで世界中で発行された金貨の中で最も美しい金貨として評価されていますが、このコインで特に注目したいのが裏面に彫刻された女王とライオンの絵、そしてコインの名前に使われている「ウナライオン」という言葉。

いったいこの金貨、その制作の背後にどのような物語が隠されているのでしょうか。

 

 

1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨の特徴

1837年に即位したヴィクトリア女王。その2年後に発行された記念コイン「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は、即位記念コインセットの一つとして発行されました。直径38㎜、重さ38.7~39.3gで、5ポンドコインの中では最も重量の少ないコインになっています。作家は、英国のコイン彫刻家として有名なウィリアム・ワイオンです。



発行数400枚の希少性の高い金貨

「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」について最も注目したいのは、わずか400枚という発行数の少なさです。この数字を見る限り、通貨としてというよりは、コレクターのために発行されたコインだったといえます。

 

また、英国が世界的に勢力を広げつつあったこの時期、1822年には、英国の通貨ポンドを基軸とする通貨制度が始まっていましたから、この金貨にどれほど人気が集まったか想像にかたくありません。

 

このように発行数が極端に少なく需要の高い「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は市場価値が下がることがなく、時がたつにつれてその価格が高騰していることも事実です。

 

直近ですと、2020年1月20日に行われた最大級のオークション「ヘリテージオークション」にて約7,300万円(PF64DCAM)の価格がついています。

▲参考:1839年ウナライオン5ポンドプルーフ金貨DCAM|PCGS ASIA

 

女王とライオンをモチーフにしたデザイン

「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」の表面には若きヴィクトリア女王の横顔が描かれていますが、数あるヴィクトリア女王のコインの中でもこの金貨に彫刻された女王の横顔は最も美しいと評価されています。

 

裏面には右手に笏を持ったヴィクトリア女王がライオンの横に立ち、笏を前方に差している姿が描かれています。つまり国家の長である女王が笏によって国家の行き先を示していると考えられます。このことは、その上に刻まれた「DIRIGE DEUS GRESSUS MEOS (主よ、わが行く手を導きたまえ)」の言葉の中にも如実に表れています。

 

そして何よりもライオンは、イギリスの国のシンボルであり強さの象徴になっています。つまり強い英国であること、またより強固な国家であって欲しいと言う願望をこのコインに込めたのでしょう。それは、また、ヴィクトリア女王が左手に持っている地球儀にも現れているように思われます。つまり世界を目指し帝国として発展していくことを示唆しているのではないでしょうか。



1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨の物語

▲Una and the Lion

 

もしこのコインの名前が「女王とライオン」であったならば、上記の説明だけで十分ご理解いただけるのではないかと思います。ところが、実際のコイン名は「ウナライオン」(または「ウナとライオン」)になっています。ウナとはいったい誰なのでしょうか。

 

ウナとライオンのお話

ウナは、1590年に出版されたイギリスの作家エドマンド・スペンサーの叙事詩「妖精の女王」の主人公の名前です。叙事詩「妖精の女王」は6巻からなる長いもので、出版されて以来、おとぎ話にも書き変えられイギリス国内で伝えられてきました。この6巻の最初の巻に「ウナとライオン」のくだりが出てきます。その部分を簡単に紹介すると次のような内容になります。

 

ウナはある王家の令嬢でした。あるときドラゴンが城を攻撃しにやってきました。王家の人々は城内に立てこもいましたが、7年たってもドラゴンを追いやることができませんでした。そのためウナは妖精の女王に助けを求めるためにロバに乗り「赤十字の騎士」を連れて城をあとにしました。

 

途中で魔法使いに騙されて赤十字の騎士がどこかに消えてしまうのですが、ウナが森で休んでいると、1頭のライオンが森から出てきます。最初ライオンはウナを襲おうとしましたが、彼女の美しさに魅せられ忠実な犬のようにウナを守り行動を共にするようになります。途中泊まらせてもらった家に泥棒が侵入しますが、このライオンが泥棒をやっつけてくれます。

 

その後、ライオンは出会った悪者に殺されてしまいますが、その後もウナはさまざまなヒーローたちに助けられ、最終的にドラゴンを退治し両親を助けます。



叙事詩「妖精の女王」の背景

この叙事詩は当時英国を君臨していたエリザベス1世を讃えるのために書かれた比ゆ的な長文詩です。妖精の女王とはエリザベス1世のことを意味し、ウナとは「真の教会=英国国教会」を擬人化したものだと言われています。

 

エリザベス1世はヘンリー8世の娘ですが、ヘンリー8世の時代に、英国はローマ教皇の支配から独立し、英国の国王を長とする英国国教会を成立します。結果としてヨーロッパのキリスト教国から自国を切り離したわけです。そしてこの英国国教会体制をさらに強固なものに確立したのがエリザベス1世でした。

 

こうした歴史から見えてくるのは「どこにも属さない強い英国」というイメージです。そしてそれは動物の王者であるライオンの持つイメージと重なり合うのです。

 

エリザベス1世とヴィクトリア女王との間には300年以上の隔たりがありますが、「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は、「ウナとライオン」というモチーフを使って、エリザベス1世が確立した強い国のイメージをこの金貨に再現しようとしたのだと考えられます。



当初物議を醸した「ウナとライオン」

「妖精の女王」は悪者退治物語であり、日本の桃太郎に通ずるものがあります。妖精の女王ではドラゴンを、桃太郎では鬼を退治しようとします。その過程で、様々なヒーローが現れ主人公を助け最後に悪物をやっつけるという話の展開になっています。

 

妖精の女王はイギリスで最も語り継がれてきたおとぎ話のひとつであり、その点も桃太郎と似ています。ただ、このような物語の中の登場人物を皇室の記念コインのモチーフに使ったのは、このコインが初めてで、当時、このことが物議を醸したと言われています。

 

少し想像してみてください。日本の皇室の記念コインに桃太郎が使われていたら・・、やはり少し奇妙な気持ちになりますね。

 

とはいえ、この「ウナとライオン」のモチーフは、その彫刻の美しさから、それ以降イギリス国内でも人気を博すことになり、それから180年たった2019年に発行された エリザベス2世の記念コインセットでも同じモチーフが使われ、高い人気を博しているのです。



まとめ

ヴィクトリア女王の即位を記念して発行された「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は、イギリスのおとぎ話の主人公をモチーフとして作られ、当時のイギリスの強さを誇り、またその発展を願う気持ちが込められたコインだと言えます。

実際、1850年代~1870年代になると、英国はさらに力をつけ大英帝国として植民地を増やしていきました。まさにこの金貨に託された願望が現実化していったわけです。

このように英国繁栄期の初期に発行された「1839年ヴィクトリア女王ウナライオン5ポンド金貨」は、ただ美しく希少性が高いということだけでなく、おとぎ話の主人公が使われていることからも人気があり、結果として高い価値がつけられているのではないでしょうか。