マーケット戦略と資産運用―富裕層の長期的な視点で集める、希少価値の高いアンティークコイン収集戦略

知識層が生み出すと言われる「スマートマネー」を貨幣に投資する理由とは?

ここ数年の貨幣業界での、興味深く、インパクトの大きい変化は、一部の裕福なコレクターの動きと彼らのマーケット戦略だ。

彼らは一枚一枚の硬貨に、標準的なコレクターが一生のうちに費やすより多くの資金をつぎ込み、独自のマーケット戦略を展開しているのだ。 少なくともそういったメガコレクターの中には、硬貨のコレクションに1億ドル以上は費やしている方もいる。記録的な数の希少価値の高い硬貨が、高級マーケットで取引が行われているという話もよく耳にしている。こういった取引は主に、このメガコレクター達によるものだ。

いわゆるメガコレクターたちは、ただ何百万ドルもかけて硬貨を買いあさっているわけではない。彼らのマーケット戦略は、アメリカや世界、古代の硬貨のセットを積極的に作ることだ。品質も最良のものに大金を費やす。 彼らにとってこの数年間はかなり幸運だっただろう。極めて希少価値の高い遺品のコレクションがオークションで出品されたのだ。個人のコレクターが何十年もかけて築き上げたコレクションだ。

例えばエリック・ニューマン氏のコレクションは、1930年代からずっと表に出ることはなかったが、多くの硬貨がかなりの美品だったため、超富裕層のコレクターによる競売の結果、かなりの価格で取引されている。

ところで、いわゆる「スマートマネー」がどのように投資運用に関わっているのか、皆さん気になっているのではないだろうか。株式マーケットの専門家は、「オラクル・オブ・オマハ(オマハの賢人)」のウォーレン・バフェット氏の記事を分析し、彼の投資戦略のヒントを探している。 希少性の高い硬貨のマーケットに膨大な額の投資を行う人たちが本当に「スマート(賢い)」で、マーケット戦略を持っているのかどうかはやや疑わしいが、私はそういったコレクター達に会うことができた。そして、会ってみてわかったことは、彼らには意欲があり、極めてスマートで、長期的思考をしているということだ。



歴史的なつながりを愉しむメガコレクター

疑問なのは、なぜ「趣味の王様」のような貨幣に、そんなに投資するのかということだ。

だが実際にコレクターや、コレクター達を知る人と話してみて、彼らは共通して歴史通であるということに気づいた。彼らはみんな、集めた貨幣を実際に手にすることで歴史的なつながりを感じられることをとても嬉しく思っているようである。

それがアレクサンダー大王の時代の貨幣だろうが、ジョージ・ワシントンの個人的な繋がりのあるものであったとしても、歴史的に意味を持つという点が強い興味を引き寄せるのだろう。希少硬貨は往々にして重要な歴史的出来事とつながっている。また、アメリカの経済の歴史は、こういった硬貨という人工遺物に強く映し出されるため、超富裕層に属するコレクター達の目に留まるのも当然だろう。



希少硬貨の市場価値はまだまだ安く、いまが買い時

さて、彼らのような人物たちが、本当に希少硬貨が割安な資産クラスに分類されると考えているのかという点にもやや疑問がある。良い投資だと思っていなければ、これほどの巨額な投資を希少硬貨につぎ込むというのは考えにくい。

すると、彼らは歴史が好きだから硬貨を買っているだけではなく、他の全ての真剣なコレクター達と同様に、趣味に大金を費やすことがいつか大きな投資となると望んでいるということになる。 現在の状況で希少硬貨が割安な理由は多数考えられる。

真に価値のある硬貨は数百万ドルで取引されるが、美術品の場合、取引は何億ドルと桁違いの額になってしまう。とある裕福なコレクターが、世界水準のコレクションは購入可能だが、世界水準の芸術品は、平均的な資産家ではとても手が届かないと話していたことがある。超富裕者だけが考えるにいたる興味深い視点だ。

1854-Sハーフイーグル金貨
「一生に一度の発見」と表される、4番目に有名な1854-Sハーフイーグル金貨。貨幣保証会社NGCの鑑定により、XF45(極美品軽微な摩耗あり)とされている。

他の理由として挙げられるのは、メガコレクターからの需要が増えてきたとは言え、最近は有名な硬貨が驚くほど低額で取引されていることだ。逸品として知られる1913年銘のリバティニッケルは、2018年8月のオークションで、約450万ドルで落札されている。その前の最後の取引は10年以上前で、落札価格は500万ドルだった、これほどの希少硬貨には何とも驚きである。

最近発見された1854-Sハーフイーグルは世間を騒がせたが、落札価格はわずか200万ドルをわずかに上回る額であった。この価格は多くが予想していたものよりずいぶん低い(ただし買い手はオークションの後すぐに売りに出している。恐らく営利目的だろう)。

この1854-Sハーフイーグルは一般発行で、わずか2枚のみが民間人の手にある。他にも超高額硬貨の市場が低迷している例は、最近のオークションの結果を見るとよく分かるはずだ。 超富裕者が希少硬貨に興味を抱く最大の要因は、富裕者たちの資産が飛躍的に増えていることだろう。株式マーケット、不動産、一般ビジネスでの取引が史上最高額である場合は多い。ある裕福なコレクターによると、高値と思う資産を売りに出し、割安だと思う希少硬貨を買っているという。

金利が低いことも考えれば、有利な利率での債券への投資は不可能だということだ。 希少硬貨に注目が集まっている最後の要因として考えられるのは、富裕コレクター達は、登録目録にある最高額の品を持っていることなどで、互いに競い合うことも好きなことのようだ。あるコレクターは、目標としているのは世界一のコレクターであるルイ・エリアスバーグ氏を越えることだと話している。

本当にそこまでするかは疑問だが、控えめに見ても野心的な発言だろう。 仮に、ありふれた硬貨でも最高の品だと知られているものがオークションに出品された場合、実勢価格は驚きの額になるだろう。熱心なコレクターは競うのが好きだし、登録目録に載っているコレクションを愛しているのだ。 普通のコレクターは、そのことが彼らの収集活動にはあまり関係ないと考えるだろう。

しかし、「スマートマネー」の動きを観察することは決して悪いことではない。ここ数年で富裕コレクターが趣味に投じてきた巨額なお金は希少硬貨マーケットのほぼ全体に影響を及ぼしている。 富裕コレクター達が硬貨に興味を持たなかったら希少硬貨マーケットがどんな風になっていたか疑問に思う人も多くいるだろう。私としては、彼らの投資が賢明であったことが証明され、他の富裕層の人たちにも続いてほしいと願っている。

引用元:coin week
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