トンガ 世界で初めてのパラジウムコイン
世界初?!"パラジウム”製コイン、トンガの「トゥポウ4世戴冠記念パラジウム貨」とは?
世界で初めて作られた”パラジウム”製のコインとして知られる、トンガの「トゥポウ4世戴冠記念パラジウム貨」をご存知でしょうか?このコインは南太平洋の王国・トンガの王トゥポウ4世が1967年に即位する際、記念コインとして発行されました。発行された3枚セットのコインは「1ハウ」「1/2ハウ」「1/4ハウ」の3種類です。
コインは金貨や銀貨、銅にアルミなど、様々な材質で製造されていますが、”パラジウム”のコインはどのような特徴があるのでしょうか?また、このコインが発行された南太平洋の王国・トンガは一体どのような国なのでしょうか?
今回は、日本ともつながりの深い国トンガを追いかけながら、近年注目を集めるレアメタル・パラジウムで作られたコインの魅力に迫ります。
トンガ王国 タウファアハウ・トゥポウ4世 戴冠記念 パラジウム貨
基本データ
コイン名 | トンガ王国 タウファアハウ・トゥポウ4世 戴冠記念 パラジウム貨 |
---|---|
通称 | トンガ パラジウム貨 |
発行年 | 1967年 |
国 | トンガ王国 |
額面 | 1Hau、1/2Hau、1/4Hau |
種類 | パラジウム貨 |
素材 | パラジウム |
発行枚数 | 1Hau 1,500枚、1/2Hau 1,650枚、1/4Hau 1,700枚 |
品位 | Palladium (.980) |
直径 | 1Hau 48mm、1/2Hau 34mm、1/4Hau 25mm |
重さ | 1Hau 64.00g、1/2Hau 32.00g、1/4Hau 16.00g |
統治者 | タウファアハウ・トゥポウ4世 |
デザイナー | - |
カタログ番号 | 1Hau KM# 25、1/2Hau KM# 23、1/4Hau KM# 21 |
表面のデザイン | トゥポウ4世の右向きの肖像、周りに小さな王冠の輪、レジェンド |
表面の刻印 | CORONATION 4TH JULY 1967 TAUFA'AHAU TUPOU IV (1967年7月4日 トゥポゥ4世戴冠記念) |
裏面のデザイン | トンガの国章 |
裏面の刻印 | 額面、TONGA |
エッジのタイプ | レタリングエッジ |
エッジの刻印 | HISTORICALLY THE FIRST PALLADIUM COINAGE (史上初のパラジウム貨幣) |
トンガについて
トンガ王国の基本情報
南太平洋の王国・トンガは、170余りの群島から成るポリネシアの王国です。1616年にオランダ人によって発見され、1900年からはイギリスの保護領となっていました。地理的にはフィジーやサモアに近く、現在は特にニュージーランドとも強いつながりを持っています。
人口は約11万人、全ての島を合わせた大きさは、長崎県の対馬とほぼ同じです。
1970年にイギリスから独立しており、今では南太平洋唯一の王国となっています。
トンガには独自のトンガ語がありますが、歴史的な背景から英語も公用語です。
▲トンガ周辺の南太平洋地域
南太平洋の強豪国に並んで、トンガもラグビーで活躍しています。2023年のラグビーワールドカップでは、前年の熾烈なプレーオフを制して香港代表を破り、2024年現在まで8大会連続でのワールドカップ進出を果たしています。
▲ラグビーワールドカップにおけるトンガ代表チーム
しかしその前の年2022年には、トンガの火山〈フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山〉が噴火を起こし、津波にさらわれた在トンガイギリス人女性が亡くなるなどの被害をもたらしていました。
この噴火の威力は、アメリカが持つ最大級の核兵器に匹敵するといわれ、過去100年に起きた自然現象の中でも最大級の威力を持っていたとされています。この噴火は日本でもニュースに取り上げられ、記憶に新しいところです。
▲トンガの海ではザトウクジラの群れが移動するのを見て楽しむことができる
トンガの美しい海は観光でも人気が高く、シーズンによってはなんとザトウクジラとツーショットを撮れることもあります。
国民の99%がキリスト教徒のトンガでは、日曜日は安息日とされ、独自の伸びやかな風土もあってリラックスした時間が流れていきます。
ギターと歌が上手い若い男性は、トンガでは女性の憧れの的です。
何もない時は、皆思い思いの楽しみを共有しています。
このような時間を人々はゆるやかに過ごしていくため、経済的・社会的な考え方にも特有のものがあり、社会学や人類学の研究対象としてしばしば取り上げられています。
トンガと日本との関わり
トンガは大の親日国と知られており、そろばんや相撲も普及しています。
▲トンガ出身の力士たち
1974年にはトンガ初の力士〈南ノ島〉らが朝日山部屋に入門。以降、トンガ人力士は日本の相撲史の1ページを飾ってきました。
日本からのODAでは、有償資金協力はなく、無償資金協力が中心です。
有力な輸出品がなかったトンガは、日本との数十年にわたる経済協力関係を背景に、かぼちゃの輸出力を強めました。
今でもかぼちゃはトンガの主力な輸出品で、日本のかぼちゃ輸入ランキング(2008年)では4位にトンガがランクインしています。
トゥポウ4世について
親日家でもあったトゥポウ4世
トンガがこのような親日国になったのは、コインに描かれているトゥポウ4世の影響も計り知れません。
▲若かりし頃のトゥポウ4世
トゥポウ4世は2006年に亡くなるまで、その生涯で少なくとも7回来日しています。
特に日本の高い教育水準に注目し、日本のそろばんをトンガに取り入れたのも、朝日山部屋に力士を送り出したのもトゥポウ4世でした。
来日時には落語家の桂小枝氏などとも交流していました。
1973年には靖国神社に参拝、1989年には昭和天皇の大喪の礼に参列するなど、日本との関係を非常に大切にした人物でした。
トゥポウ4世の”ちょっと変わった”世界記録
トゥポウ4世は、世界一重い君主として知られており、1976年には209.5kgにまでなりました。
この記録はギネスブックにも登録され、体重140kg超とも推定されている北朝鮮の金正恩氏などを抑えての世界一です。
後年は減量にも挑戦し、体重は約半分まで落ちたとされますが、ついに2006年にニュージーランドの病院で息を引き取ってしまいました。
現在はトンガの首都・ヌクアロファにある王家の墓に眠っており、死してなおその威厳を失っていません。
▲トンガの首都ヌクアロファの王墓
トゥポウ4世の1967年戴冠記念コインセット
トゥポウ4世のコインについて
トゥポウ4世とコインの魅力にも迫ってみましょう。
1965年に母王サローテ・トゥポウ3世が崩御すると、トゥポウ4世が践祚しました。
母トゥポウ3世は、エリザベス2世女王の戴冠式で、土砂降りの中を無蓋の馬車から観客に手を降ったとして、多くの人から崇敬を集めた王でもありました。
偉大な母から王位を譲り受け、トゥポウ4世が正式に即位したのは喪が明けた1967年のことです。
これらのコインセットは、その戴冠を祝って製造されました。
通貨単位は「ハウ」で、これほど大きな額面のものはトンガでも非常に珍しいとされています。
▲トゥポウ4世の戴冠記念コイン(エッジ部分)
エッジには「HISTORICALLY THE FIRST PALLADIUM COINAGE(史上初のパラジウム貨幣)」と刻まれています。
ケースにも「ONE OF 1500 COMPLETE SETS STRUCK OF THE FIRST PALLADIUM CURRENCY(初のパラジウム貨、1500のコンプリートセット製造品のうちの1つ)」と表記があります。
トンガは「世界初」じゃない?!本当の世界初パラジウムコインとは
この表記のため、トンガのパラジウム貨は世界初のパラジウムコインだと言われています。
しかし、実際にはこのコインが発行される前年に、シエラレオネからパラジウム製のコインが発行されています。
▲1966年に発行されたシエラレオネのパラジウム貨
1965年に母王が亡くなり、この戴冠記念コインセットを発行するまでの企画中は、たしかに「世界初」のコインになる予定だったのでしょう。
しかし実際には、発行の直前になってシエラレオネのコインに実際の「世界初」の座を奪われてしまいました。
トンガが事実上「世界初」のパラジウムコインとして認知されているのは、エッジに刻まれている「史上初」という刻印や、ケースに記載されている「初のパラジウムコイン」という説明文が高い宣伝効果を持っていたからでしょう。
▲トンガの戴冠記念変形切手
トンガはトゥポウ4世の戴冠記念に、パラジウム箔で押された変形切手も発行しています。
しかし近年の研究ではなんと、こちらの切手にパラジウムはほとんど使われていないことが判明しました。
化学分析の結果では、アルミ箔だということが分かっています。
トンガとシエラレオネがほぼ同時期にパラジウム製のコインを発行したのは、金や銀と異なる材質のコインを作ろうという科学史上の試みと言えます。現に、トンガやシエラレオネでのパラジウムコイン発行が先駆けとなって、ロシアやアメリカ、カナダでもパラジウム貨は製造されています。
特に20世紀以降、人類はニッケルや銅、アルミを用いたコインの製造に取り組んできました。
高い耐久性や、より安価な製造方法を模索する中で、コインは様々な材質が検討されてきたのです。
パラジウムの特色
▲パラジウム
パラジウムがこの時代、複数の国々から注目されたのは不思議ではありません。
パラジウムは遷移金属と呼ばれる金属の仲間で、1960年代は触媒としての遷移金属研究が大いに発展した時期でした。
世界中の化学研究者からパラジウムは注目されていたのです。
パラジウムは高い耐久性とプラチナのような輝きを持っており、当時はまだ比較的安価だったため、コインの製造に注目されたものと考えられます。
パラジウムは現在でも、銀歯のブリッジ部分に活用されているほか、有害な排気ガスから環境を保護できるよう自動車のマフラーなどに触媒として活用されています。
▲マフラーに利用されるパラジウム。高騰時には国内でも盗難が相次いだ。
パラジウムは主にロシアや南アフリカで産出しています。
そのためロシアも、90年代頃にパラジウム貨を発行していました。
▲1989年にロシアで発行されたパラジウム製のバレリーナコイン
しかし、自動車のマフラーへの利用などで需要が増大すると、額面の価格よりパラジウムの地金価格が上回る現象がおきました。
これは日本の十万円金貨などでも時々起きてしまう価格現象で、この時期に多くのパラジウム貨は溶かされたのではないかと推測されています。
(もちろん、現在でも使用可能な貨幣を改造することは多くの国・地域で禁止されていますのでご注意下さい。)
▲2020年にはグラム単価1万円を記録したパラジウム(出典:「日本マテリアル」)
2018年頃にも、環境問題への意識の高まりを背景に、パラジウムの価格が高騰しました。
この流れは2022年のコロナ禍まで続きましたが、コロナの影響で自動車の売上が落ちると、パラジウムの地金価格も急落していきました。
しかし現在でも、主要な産出国であるロシアがウクライナ侵攻を続けているため、パラジウムの価格推移は不透明な状況が続いています。
トンガで”世界初”といわれているパラジウム貨が作られた意味とは?
トンガが発行した1967年の戴冠記念セットは、世界中で注目度が高まっていたパラジウムを使い、「世界初」の旗を掲げて発行されました。
人口約10万人の島国にとって、そしてそれを新たに率いていく新王トゥポウ4世にとって、「世界初」の文字は大きな意味を持っていたに違いありません。
現在でも希少な金属であるパラジウムが使われたコインセットは、大国であるロシアやアメリカに先鞭をつけたみせたのでした。
1967年 トゥポウ4世 戴冠記念 パラジウム貨の価格推移
希少なパラジウムという希少金属としての素材価値もさることながら、世界でみてもなかなか類を見ない「パラジウムコイン」の価格推移を見てみましょう。
カウンターマーク有 3枚セット オリジナルケース付 限定400セット
発行された翌年の1968年にトゥポウ4世50歳記念のカウンターマーク(加刻印)がある特別仕上げのもの。
スラブ入りはほとんど無く、さらにあまりマーケットでも見ないため、コレクタブルアイテムとして希少です。
▲画像は1 Hau
1 Hau PCGS MS65
1/2 Hau PCGS MS64
1/4 Hau PCGS MS64
3枚セットで2024年1月28日に$3,840で落札
未鑑定 1 Hau
2020年4月27日に$3,720で落札。
未鑑定 1/2 Hau
2020年4月27日に$1,920で落札。
未鑑定 1/4 Hau
2020年2月13日に$1,110で落札。
”世界初のパラジウムコイン”を発行したトゥポウ4世の戴冠記念パラジウム貨とは
世界がまだ冷戦の最中にあった頃、不透明な先行きの中で一国の王として即位したトゥポウ4世。多くの尊敬を集めた先代の女王でもある母に、負けじと改革を行ってきた屈強なこの王は、日本からも積極的に多くを学ぼうとしていました。
当時の彼が見据えていたのは、およそ日本ばかりではなかったでしょう。突然の崩御から即位したトゥポウ4世でしたが、その戴冠を記念して発行されたこの”パラジウム”のコインは、”世界初”の名を大々的に掲げ、アメリカやソ連に先行してみせたのでした。たとえそれが厳密な”世界初”ではなかったとしても、トンガが放ったこの1枚が、今もなお「パラジウムといえばトンガ」とイメージするだけのインパクトに繋がっているのです。
近年、鑑定済みの高鑑定品が中々出回らないコインではありますが、「トゥポウ4世戴冠記念パラジウム貨」にご興味いただけましたら、ぜひアンティークコインギャラリアにご相談ください。
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