伝説のコレクター・エジプト最後の王”ファルーク”も所持した、アメリカのウルトラ・ハイレリーフ20ドル金貨とは?

アメリカでこれまでに発行された中で最も美しいと言われており、アメリカのコインルネッサンスのきっかけとなった「セントゴーデンス・ウルトラ・ハイレリーフ20ドル金貨」は、どのような背景で発行されたのでしょうか。

アメリカの貨幣史上はじめて”プロのデザイナー”であるオーガスタ・セント=ゴーデンス(Augustus Saint-Gauden)がデザインしたことにより「セント=ゴーデンス金貨」と呼ばれることもあります。

この金貨には2つの年号で発行されました。希少な1907年のオリジナルと、2009年に新たに発行されたものを比較しながら、その歴史と背景を探ります。

 

アメリカ ウルトラ・ハイレリーフ金貨

基本データ

コイン名 アメリカ ウルトラ・ハイレリーフ セントゴーデンス ダブルイーグル 20ドル金貨
通称 ウルトラハイレリーフ
発行年 1907年|2009年
アメリカ合衆国
額面 20ドル
種類 金貨
素材
発行枚数 1907年 12,367枚|2009年 115,178枚
品位 1907年 Au900|2009年 Au999
直径 1907年 34.0mm|2009年 27.0mm
重さ 1907年 33.43g|2009年 31.1g
統治者 -
デザイナー Augustus Saint-Gauden(オーガスタ・セント=ゴーデンス)
カタログ番号 1907年 KM#126|2009年 KM# 464, Fr# 223
表面のデザイン トーチとオリーブの枝を持ち歩いている女神リバティー
表面の刻印 LIBERTY M·M·I·X(リバティ、2009年)
裏面のデザイン 日の出の中を飛んでいるワシ
裏面の刻印 1907年 UNITED·STATES·OF·AMERICA、TWENTY·DOLLARS(アメリカ合衆国・20ドル) 2009年 ·UNITED·STATES·OF·AMERICA··TWENTY·DOLLARS·IN·GOD·WE·TRUST(アメリカ合衆国・20ドル・我々は神を信じる)
エッジのタイプ レタリング
エッジの刻印 1907年 E PLURIBUS UNUM|2009年 E✶P✶L✶U✶R✶I✶B✶U✶S✶U✶N✶U✶M✶

 

ウルトラ・ハイレリーフ金貨発行の背景

今も歴史に残る美しいデザインが生まれるまでには、様々な人間たちのドラマがありました。大統領のリクエストで始まった壮大なプロジェクトがどのように進んだのか、背景を探ります。

1907年のウルトラ・ハイレリーフ金貨が発行されたきっかけ

ルーズベルト大統領はスミソニアン博物館で古代ギリシャのコインを見て、それまでの主任エングレーバーであるチャールズ・バーバーの”実用的ではあるが刺激的ではないデザイン”を改革したいと思いました。

▲第26代アメリカ合衆国大統領セオドア・ルーズベルト・Jr

1904年、ルーズベルト大統領は、大統領選挙後に「アメリカのコインをより美しくするために、議会の許可を得ることなくアメリカの最も著名な彫刻家であるセント=ゴーデンスのような人物を雇ってコインを製造することは可能か?」という書簡を造幣局長に送りました。

その命を受けたのが、アイルランドで生まれ、アメリカを代表する彫刻家であった「セント=ゴーデンス」です。

▲在りし日のセント=ゴーデンス

しかし彼は、主任エングレーバーであるバーバーとの関係は悪く、このプロジェクトに対して不安があったそうです。そして、他のプロジェクトを抱えていることと、胃がんによる健康悪化もその原因のひとつでした。

それを懸念したルーズベルト大統領は「造幣局の職員は一切干渉せず、バーバーからの妨害も阻止する」ということを確約しました。セント=ゴーデンスはこの挑戦を受け入れ、製造されたのがウルトラ・ハイレリーフ金貨でした。

▲セント=ゴーデンスのラフスケッチ

1906年にさまざまな課題をクリアしたデザインの原型が完成しました。ルーズベルト大統領はすぐに承認し、生産用のダイを作るように命じました。

しかし、このウルトラ・ハイレリーフという凹凸のあるデザインを表現することは困難であり、特殊な製造方法により大量生産には非現実的であることが判明しました。

主任エングレーバーであったバーバーは、外部のデザイナーを雇ったことと打刻の過程が非現実的なウルトラ・ハイレリーフのデザインに対して激しく憤慨し、大声で抗議したそうです。

コインの完成まで、油圧プレスで150トンの圧力で7回の打刻が必要でした。さらに、それぞれの打刻の間にプランシェ(コインを打つための平金)をを弱硝酸溶液に浸し、表面から酸化した銅を除去しました。この処理を繰り返したため、見た目がほぼ純金の色をしたコインが出来上がりました。

1907 年のダブル イーグルには 4 つのバリエーションがありました。1902年の2月7日〜14日まで打刻された最初の2種類は、ウルトラ・ハイレリーフの中でも特にレリーフが厚みがありました。これは大統領の友人や貨幣学者のために特別に製造されたものでした。

しかし、大量生産には向いていなかったため、レリーフの縮小などデザインが再考されました。1907年12月に一回の打刻で完成する、大量生産に適した最後のダイが完成し、合計約12,000枚が製造されました。

セント=ゴーデンスの芸術的な傑作にも関わらず、当時の製造技術ではハイレリーフを細部まで表現することは難しかったようです。それまでに発行された金貨の中で「最も美しい金貨」とされていましたが、ルーズベルト大統領とセント=ゴーデンスの完璧なまで美しいコインを製造するというビジョンは実現しませんでした。

セント=ゴーデンスは、最初の発行が始まったすぐ後の1907年8月3日にがんで亡くなりました。

2009年のウルトラ・ハイレリーフ金貨

これは「アメリカの造幣局が、最高の技術を世界に示すためのもの」として発行されました。21世紀のテクノロジーの進歩により、1907年のものをデジタルマッピングし、当時表現しきれなかった細かなデザインの精度を高めました。

2009年は、現在の50州を表す4つの星、そして1907年発行のコインにはなかった「In God We Trust(我々は神を信じる)」のモットーを新たにデザインしました。金の品位もAu900からAu999(純金)での発行に変わっています。素材の変更により、ハイレリーフをより浮き彫りにすることができました。

それぞれのデザインに込められた意味とは?

共通のデザインとして、表面にはセント=ゴーデンスがデザインした女神リバティが、力強く前進する様子が描かれています。手にはトーチとオリーブの枝を持っています。

これはニューヨークのセントラルパークの南口に位置する記念碑の像からインスパイアされたものです。

▲モデルとなった像

左下には小さくアメリカ合衆国議会の議事堂のドームも描かれており、これは代議制民主主義を通じてアメリカの自由が完全に達成され、世界中に進出するアメリカの立場を強化していることを意味しています。

裏面には日の出の中を飛ぶ若いワシが描かれています。これは若くて強く、明るい未来を前にして隆盛を極めているアメリカを表現しています。刻印されたモットーはアメリカを視覚的に具体化した表現になっています。

「自由」はアメリカの精神の中心であり、「すべての人にとって自由と平和が長く続くように」という願いが込められています。

 

ウルトラ・ハイレリーフ20ドル金貨の価格推移

1907年のオリジナルと2009年に発行されたものを、グレードごとに比較しながらみていきましょう。一見デザインは同じように見えますが、価格帯が全く異なるので、注意してください。

1907年

アメリカ大統領ルーズベルトと、彫刻家であるセント=ゴーデンスの思いが込められた1900年代のはじまりにふさわしい大型金貨です。希少な細分類は、特に高額で落札されています。

PF62

PF62

この時代のアメリカコインの「プルーフ鑑定」は大変珍しく、定義づけなどは未だ議論され、解決していないそうです。

そのため「プルーフ鑑定」がついているものはとても希少です。

MAY 5, 2023 FOR: $28,800で落札。

MS66 Flat Rim

MS66 Flat Rim

アメリカコインには細分類がいくつかあり、この「Flat Rim(フラットリム)」はリムと呼ばれるコインの一番外側の部分が平坦になっているものをさします。

他にもこの「リム」にはワイヤーリムなどという貴重なものもあります。

そして、ほとんどのコインは梨地仕上げですが、このコインはつや消しです。

The Blue Ridge Collectionより。

MAY 3, 2023 FOR: $102,000で落札。

PF67

PF67

希少なワイヤーリム。

2023年5月3日に$186,000で落札。

PR69

PR69

ゴールドラベルでEliasberg-Basコレクションより、反転エッジ。

コインの最終的な完成を見ずに早すぎる死を迎えた、セント=ゴーデンスが唯一確認したダイによって打刻されたのが、このコインです。

このダイによって打刻されたのはおよそ20枚ほどと言われています。最初の2枚は造幣局で破壊されたという記録が残っています。

残ったうちの5枚はスミソニアン博物館、アメリカ貨幣協会(ANA)、そしてコネチカット州立図書館に収蔵されています。

2023年8月10日に$4,320,000で落札。

2009年

1907年のオリジナルに比べると発行枚数がかなり多いため、発行当時の状態を保っているものが多く存在します。ハイグレードでも比較的手に入れやすい価格帯のコインです。数あるアメリカコインの中でも代表的なデザインの大型コインなので、コレクションに一枚持っていても良いのではないでしょうか。

MS69 Prooflike

MS69 Prooflike

2023年7月10日に$2,400で落札。

MS70 Prooflike

MS70 Prooflike

2023年7月10日に$3,840で落札。

 

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