ウナとライオン金貨とは?ヴィクトリア女王5ポンド金貨発行の背景や逸話、最新の価格推移まで徹底解説
ウナとライオン金貨(1839年ヴィクトリア女王5ポンド金貨)
基本データ
コイン名 | イギリス ウナとライオン 5ポンド金貨 |
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通称 | ウナライオン |
発行年 | 1839年 |
国 | イギリス |
額面 | 5ポンド |
種類 | 金貨 |
素材 | 金 |
発行枚数 | 400枚 |
品位 | Au916 |
直径 | 38 mm |
重さ | 39.0 g |
統治者 | ヴィクトリア女王 |
デザイナー | William Wyon(ウィリアム・ワイオン) |
KM | #742 |
表面のデザイン | 左向きの若きヴィクトリア女王の肖像とレジェンド |
表面の刻印 | VICTORIA D:G: BRITANNIARUM REGINA F:D:(Victoria by the Grace of God Queen of the Britains Defender of the Faith:神の恩寵 信仰の擁護者 イギリス女王であるヴィクトリア) |
裏面のデザイン | ライオンの左側に王冠をかぶりオーブ(宝珠)と笏(しゃく)を手にしたウナ役のヴィクトリア女王の立像|発行年とレジェンド |
裏面の刻印 | DIRIGE DEUS GRESSUS MEOS.MDCCCXXXIXW. WYON R.A.(May God direct my steps 1839:我が君主が進むべき道を示すであろう 1839年)|DIRIGIT DEUS GRESSUS MEOS (God directs my steps:神は私の歩みを導く)のタイプも存在する |
エッジのタイプ | プレーン(刻印あり) |
エッジの刻印 | DECUS ET TUTAMEN ANNO REGNI TERTIO(An ornament and a safeguard, third year of reign:女王は国の装飾品であり、保護者である 治世3年) |
ウナとライオン金貨が発行された当時の時代背景
1837年に18歳の若さで女王に即位したヴィクトリア女王。在位中は、世界中が注目する輝かしい出来事がたくさん起こりました。1851年に開かれた「ロンドン万国博覧会」は、1798年にパリにおいて「内国博覧会」が開かれていましたが、世界的に開催したのはイギリスが初めてになります。この万国博覧会は、イギリスの産業革命による産業力と技術力を駆使して作られた「水晶宮(クリスタル・パレス)」という巨大な建物で開催されました。そこには34カ国から集まった約10万点の展示品が並び、その半分はイギリスとその植民地からの品物でした。イギリスは「世界の工場」としての位置を世界に見せつけたのです。
この時期をイギリスの平和という意味の「パクス・ブリタニカ」と呼び、ヴィクトリア女王はこの時代を象徴する存在となりました。
しかし、「影」の部分もありました。貧富の差の拡大や1840年からのアヘン戦争、自国の領土を拡大するあまり、イギリスは次々と植民地を得ていきました。イギリスの階級制度はピラミッド型になっており、トップには王族や貴族が存在します。しかし、人口の割合から見て労働者階級の人々の方が多いのにも関わらず、そんな彼らは貧しい生活をしていたことはまさにこの当時の「影」の部分と言わざるを得ません。
女王とライオンをモチーフにしたデザイン
女王即位記念コインセットとして発行された中の一枚が「ウナとライオン金貨」です。直径38㎜、重さは約39gで、5ポンド金貨の中では最も重量が少なく、デザイナーはイギリスのコイン彫刻家としても有名なウィリアム・ワイオンです。
表面には若きヴィクトリア女王の横顔が描かれていますが、数あるヴィクトリア女王のコインの中でもこの金貨にデザインされた女王の横顔は最も美しいと評価されています。
裏面には右手に笏(しゃく)を持ったヴィクトリア女王がライオンの横に立ち、笏を前方に差している姿が描かれています。つまり国家の長である女王が国民を率いて行き先を示していると考えられます。このことは、その上に刻まれた「DIRIGE DEUS GRESSUS MEOS (主よ、わが行く手を導きたまえ)」の言葉の中に表れています。
そして何よりもライオンは、イギリスの国のシンボルであり強さの象徴になっています。つまり強いイギリスであること、より強固な国家であって欲しいと言う願望をこのコインに込めたのでしょう。それは、左手にはオーブ(宝珠)を持っています。
ウナとライオンの物語
▲「妖精の女王」より
もしこのコインの名前が「女王とライオン」であったならば、上記の説明だけで十分ご理解いただけるのではないかと思います。ところが、実際のコイン名は「ウナとライオン」(または「ウナライオン」)になっています。ウナとはいったい誰なのでしょうか。
エドマンド・スペンサー『妖精の女王』の主人公ウナ
1590年に出版されたイギリスの作家エドマンド・スペンサーの叙事詩『妖精の女王』の主人公の名前が「ウナ」です。叙事詩『妖精の女王』は出版されて以来、おとぎ話にも書き変えられイギリス国内で伝えられてきました。この全6巻の最初の巻に「ウナとライオン」のお話があります。
ウナはある王家の令嬢でした。あるときドラゴンが城を攻撃しにやってきました。王家の人々は城内に立てこもりましたが、7年たってもドラゴンを追いやることができませんでした。そのためウナは妖精の女王に助けを求めるためにロバに乗り「赤十字の騎士」を連れて城をあとにしました。
途中で魔法使いに騙されて赤十字の騎士がどこかに消えてしまうのですが、ウナが森で休んでいると、1頭のライオンが森から出てきます。ライオンはウナを襲おうとしましたが、彼女の美しさに魅せられ、忠実な犬のようにウナを守り行動を共にするようになります。途中泊まらせてもらった家に泥棒が侵入しますが、このライオンが泥棒をやっつけてくれます。その後、ライオンは出会った悪者に殺されてしまいます。
エリザベス1世を称える叙事詩『妖精の女王』の制作背景
この叙事詩は当時イギリスの女王として君臨していたエリザベス1世を讃えるのために書かれた比喩的な長文詩です。妖精の女王とはエリザベス1世のことを意味し、ウナとは「真の教会=英国国教会」を擬人化したものだと言われています。
エリザベス1世の父ヘンリー8世は、イギリスはローマ教皇の支配から独立し、国王を長とする英国国教会を成立します。結果としてヨーロッパのキリスト教国から自国を切り離したわけです。そしてこの英国国教会体制をさらに強固なものに確立したのがエリザベス1世でした。
こうした歴史からイギリスは「どこにも属さない強い国」というイメージです。そしてそれは動物の王者であるライオンの持つイメージと重なり合うのです。
エリザベス1世とヴィクトリア女王との間には300年以上の隔たりがありますが、即位記念金貨に「ウナとライオン」というモチーフを使い、エリザベス1世が確立した強い国のイメージを再現しようとしたのだと考えられます。
5ポンド金貨「ウナとライオン」のデザイン採択の逸話
『妖精の女王』は悪者を退治するイギリスで最も語り継がれてきたおとぎ話のひとつで、その過程で、様々なヒーローが現れ主人公を助け最後に悪物をやっつけるという話の展開になっています。ただ、このような物語の中の登場人物を王室の記念コインのモチーフに使ったのは、このコインが初めてのことでした。そのため当時、このデザインの起用が物議を醸したと言われています。
しかしこの「ウナとライオン」のモチーフは、その彫刻の美しさから後世にわたりイギリス国内でも人気を博すことになります。それから180年後の2019年に発行された「エリザベス2世の記念コインセット」でも同じモチーフが使われ、高い人気を示しています。
ウナとライオン金貨の希少性
ウナとライオン金貨について注目したいのは、わずか400枚という発行数の少なさです。この数字を見る限り、通貨というよりは、コレクターのために発行されたコインだったといえます。
また、イギリスが世界的に勢力を広げつつあったこの時代、1822年には「ポンド」を基軸とする通貨制度が始まっていました。
このように発行数が極端に少なく現在でもコレクター需要の高い「ウナとライオン」は市場価値が下がることがなく、時がたつにつれてその価格が高騰していることも事実です。
▲世界最高落札金額を記録した「ウナライオン」
2021年8月20日に行われたアメリカのオークションハウス「ヘリテージオークション」では、世界最高鑑定である「PF66★Ultra Cameo」が出品され、歴代最高金額を更新する落札金額である120万ドル(手数料込み144万ドル)、日本円で約1億5840万円で落札されました。
ウナとライオン金貨の価格推移
まず最初に、2011年と2021年にオークションに出品された、ほぼ同グレードの「ウナとライオン」の価格を比較してみましょう。10年の間に、価格にどのような変化があったのでしょうか。
PF63 Ultra Cameo
2011年9月9日に$92,000で落札。
PR63 Deep Cameo
2021年5月6日に$420,000で落札されました。
10年で約4.5倍ほど大きく値上がりしています。発行枚数が少なく、希少だという理由の他に美しいデザインであることも相まって、特に「ディープ・カメオ(Deep Cameo)」評価のような付加価値の付いているハイグレードなものは、年々価格が高騰しています。
ハイエンドなコインになればなるほど、グレードが1つ違うだけで価格に差が出てしまいます。グレード別の価格推移を見てみましょう。
PR61+ Ultra Cameo
2018年8月17日に$204,000で落札。
PR62 Cameo
2020年4月24日に$300,000で落札。
PR64 Deep Cameo
2022年1月10日に$528,000で落札。
ウナとライオンはイギリスを象徴するアンティークコイン
ヴィクトリア女王の即位を記念して発行された「ウナとライオン」は、イギリスのおとぎ話の主人公をモチーフにした珍しいデザインが採用され、高い技術により当時のイギリスの強さを誇り、またその発展を願う気持ちが込められたコインです。数あるアンティークコインの中でも誰もが知っていて特段人気の高い「ウナとライオン」。チャンスがあれば、是非ともあなたのコレクションの一枚に加えてみてはいかがでしょうか。
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