ヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨(クァドリガ)を徹底解説!発行当時のイタリアや現在の価格推移

美しいアンティークコインは、目を楽しませてくれます。そのコインの背景に物語があれば、歴史的価値も高くなります。


そのいずれの要素も有しているアンティークコイン、それがヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨です。世界史を学んだ人ならピンとくる1914年、激闘の時代の幕開けに登場したこのコインについて、時代背景や高騰の理由をご紹介したいと思います。

 

1914年 ヴィットリオ・エマヌエレ3世 5リレ銀貨(通称:クァドリガ)

エマヌエレ3世の5リレ銀貨

基本データ

 コイン名
ヴィットリオ・エマヌエレ3世 5リレ銀貨
通称
クァドリガ
発行年
1914
イタリア
額面 5リレ
種類 銀貨
素材
発行枚数
272,515枚
品位 Sv900
直径 37.00mm
重さ 25.00g
統治者 ヴィットリオ・エマヌエレ3世
デザイナー
Davide Calandra(ダビデ・カランドラ)
KM
#56(通常貨)/ #Pr21(試鋳貨)
表面のデザイン
右向き軍服姿のヴィットリオ・エマヌエレ3世の胸像。首下にダビデ・カランドラの名前。
表面の刻印 VITTORIO EMANVELE III RE D'ITALIA
D. CALANDRA
裏面のデザイン 花飾りの美しいクァドリガの上に立つイタリア。左手に盾、右手にはオリーブの枝。碑文の線上、左が作者名。5リレを表すL・5の左側にミントマーク(R:ローマ)、右側にイタリアの星が描かれている。試鋳貨は、馬の上に「PROVA DI STAMPA」または「PROVA」の文字入り。
裏面の刻印 1914 FERT D. CALANDRA MOTTI INC. L.5 R (FERTはヴィットーリオ・アメデーオ2世によって採用されたイタリア王国、 またイタリア王国の前身であるサルデーニャ王国、そしてそれらの王国の君主であったサヴォイア家の標語。Foedere Et Religione Tenemur:我等、法と神によって守られんという意味のほか諸説ある)
エッジのタイプ レタリングエッジ
エッジの刻印 FERT FERT FERT と結び目と星

 

ヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨(クァドリガ)ってどんなコイン?

ヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨、その概要を見ていきましょう。

王自身のコインへのこだわりが反映されたといわれる同銀貨。アートの国イタリアの名に恥じないエレガンスを有するこの銀貨について、詳細をご紹介いたします。

ヴィットリオ・エマヌエレ3世の貨幣への情熱が体現されたコイン

1914年に製造された5リレ銀貨。

イタリア王であったヴィットリオ・エマヌエレ3世の横顔の裏面には、古代の4頭立ての馬車が彫られています。この美しい馬車を「クァドリガ(Quadriga)」と呼ぶことから、同コインはこの名称で呼ばれるようになりました。

ヴィットリオ・エマヌエレ3世の銀貨クァドリガは、芸術的な観点から見て、イタリアのアンティークコインのなかでも最も美しいもののひとつとされています。

その理由は、貨幣学に興味があったヴィットリオ・エマヌエレ3世自身が、コインのデザインにこだわりを持ち、妥協をしなかったから。

大変小柄であったというヴィットリオ・エマヌエレ3世ですが、コインに彫られた横顔は国王としての気品にあふれています。彼の頭上には「VITTORIO EMANUELE III RE D’ITALIA”(イタリア王ヴィットリオ・エマヌエレ3世)」と麗々しく彫られています。

さらに、馬車の車輪の上には「FERT」の文字が見えます。

これは、ヴィットリオ・エマヌエレ3世が生まれたサヴォイア家、およびサヴォイア家が創設した聖アヌンツィアータ騎士団のモットーです。

その意味するところは諸説ありますが、誇り高きサヴォイア家のシンボルであることに変わりはありません。

聖アヌンツィアータ騎士団の制服に身を包み、昂然と頭をあげるその姿に、サヴォイア王家のなかでも突出した存在といわれたヴィットリオ・エマヌエレ3世の矜持が見えるようです。

 

1914年に発行されるまでの変遷

ヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨は、古代およびルネサンス時代のコインを研究し、デザインされたといわれています。

ヴィットリオ・エマヌエレ自身の理想は非常に高く、デザイナーや職人たちとの妥協点を見出すのが難しかったというエピソードまで残っています。

1905年に発布された勅令により、ヴィットリオ・エマヌエレ3世の銀貨を担当することが決まったのはダヴィデ・カランドラでした。馬車を引く4頭の馬の足もとに、「D.Calandra」と彼のサインが残されています。

とくにヴィットリオ・エマヌエレ3世がこだわったのは、馬車を引く馬の動きでした。

より伸びやかな馬の動きを要請した王に応えて、カサンドラは数回デザインを変更したといわれています。

デザインを彫りあげたのは、1913年から造幣局の局長であったアッティリオ・シルビオ・モッティ。

コインの彫刻家としては、当時のイタリアでは第一人者とされていました。

 

試鋳貨含め4種類存在するクァドリガ

試鋳貨2種類の画像

ところで、ヴィットリオ・エマヌエレ3世のクァドリガには、試鋳貨が存在します。

  • PROVA 試鋳貨 マットプルーフ
  • PROVA DI STAMPA 試鋳貨 マットプルーフ

これは、コイン発行時に試験的に作られたもの。発行枚数272,515 枚に含まれているため、試鋳貨の詳細な枚数は不明とされています。

 

 

通常貨については、

  • 通常貨 ミントステイト
  • 通常貨 マットプルーフ

の2種類が存在します。

つまり、クァドリガは全部で4種類存在しています。

 

エマヌエレ3世の5リレ銀貨(クァドリガ)が作られた当時のイタリア

 エマヌエレ3世の肖像
▲ヴィットリオ・エマヌエレ3世の肖像

まれに見る美しさと謳われるヴィットリオ・エマヌエレ3世のクァドリガ。この貨幣が製造されたのは20世紀初頭、1914年のこと。

第一次世界大戦が勃発したこの年、イタリアはどんな情勢にあったのでしょうか。クァドリガが発行された時代背景に迫ってみたいと思います。

父王の暗殺とエマヌエレ3世の即位

ヴィットリオ・エマヌエレ3世が生を受けたサヴォイア家は、もともと北イタリアを領有していた貴族です。

フランスとの関係が強かったサヴォイア家ですが、エマヌエレ3世の祖父エマヌエレ1世がイタリア王となり、イタリア半島を統一します。

列強が並び立っていた時代が長かったイタリアをまとめるのは至難の業で、エマヌエレ3世の父ウンベルト1世は、無政府主義者によって暗殺されてしまいます。

これに伴い、1900年にエマヌエレ3世は即位。31歳でした。ちなみに、エマヌエレ3世の母はピザの名前に名を残すマルゲリータ。

そのエピソードからもわかるように、国民に大変愛された王妃でした。

長い在位期間と世界情勢

エマヌエレ3世の在位は、1900年から1946年と長きにわたりました。

クァドリガが発行された1914年、エマヌエレ3世の治政は14年目、彼は40代半ばになっています。

この年、第一世界大戦の発端となったオーストリア皇太子暗殺事件が発生。

オーストリアとは領有をめぐって揉め事が絶えなかったイタリアは結局、エマヌエレ3世の判断によって連合国に加入、参戦します。

即位当初は紳士的な穏やかな君主象を体現していたエマヌエレ3世も、世界が大戦へと流れていくこの時期には、国王として最前線に立ち兵士を鼓舞したと伝えられています。

つまり彼が1914年に発行したクァドリガは、混沌とした時代への出発点となったコイン、といっても過言ではないのかもしれません。

イタリアのファシズム化

第一次世界大戦後も、世界は不穏な空気に包まれていました。
イタリアではムッソリーニ率いるファシズムが台頭しはじめます。イタリア国内の反政府勢力を抑えるために、エマヌエレ3世はムッソリーニの権力掌握を黙認したのです。

第二次世界大戦の趨勢が明らかになるとともにムッソリーニは失脚、長らく王位にあったエマヌエレ3世も王位を追われます。

1947年、エマヌエレ3世は失意のうちに78歳の生涯を終えました。
彼の息子ウンベルト2世はイタリア最後の王であり、即位後わずか1か月でイタリアは王政を廃止、サヴォイア王家は終焉を迎えています。

 

エマヌエレ3世の5リレ銀貨(クァドリガ)の現在の価格相場

世界が大きく変わろうとしていた時代に発行されたヴィットリオ・エマヌエレ3世のクァドリガ。

芸術的にも価値が高いといわれるこのアンティークコインの相場は、どのくらいになるのでしょうか。

価格高騰にまつわる伝説

同銀貨は発行部数が決して少なくないのに、希少性の高さがコレクター泣かせといわれています。1914年にクアドリガの5リレ銀貨が発行された後、第2次世界大戦の影響もあり、このコインの評価はうなぎのぼりになったようです。

さらにイタリアでは、なかなか市場に出ないこのクァドリガについてこんな伝説があります。

世界大戦中、ヴィットリオ・エマヌエレ3世のクァドリガ5リレ銀貨を山と積んだ軍艦が海に沈んだ、というものです。この噂の真偽は不明ですが、銀含有量の高さやデザインの美しさを考慮しても、高額となる理由は十分にあり、といえるかもしれません。

通常貨の価格相場

取り扱い数が多く、価格推移が見やすいため、米大手オークションHeritage Auctionの落札履歴を参考にご紹介いたします。

直近のデータですと、2020/8/5のHeritage Auctionで、通常貨のMS65が$18,000(約189万円 *為替105円)、同年1/13には、MS64が$10,800(約119万円 *為替110円)で落札されています。

日本から購入する場合は、ここに輸入消費税10%が乗ってきます。

通常貨ではNGCのMS66が最高鑑定品なので、64-65のハイグレード品を狙うとなると、概ね150-250万円の予算で望みたいところです。

 

試鋳貨の価格相場

2022/5/5のHeritage Auctionで、PROVA DI STAMPAマットプルーフの落札履歴があります。グレードはPF64(最高鑑定品)、$21,600(約280万円 *為替130円)です。

もう1つの試鋳貨、PROVAマットプルーフは、2020/11/5に落札されています。グレードはSP64で、価格は$16,200(約167万円*為替103円)でした。

通常貨と比較すると、やはり希少性の高い試鋳貨のほうが相場は高くなっています。

 

エマヌエレ3世の5リレ銀貨(クァドリガ)

1914年、第一次世界大戦勃発の年に世に出たコイン、それがヴィットリオ・エマヌエレ3世の5リレ銀貨です。エレガントな古代の馬車のデザインから、クァドリガの別名を持っています。

エマヌエレ3世自身のアンティークコインへの想いが込められた意匠は、発行当初から高い評価を受けてきました。激闘の時代の生き証人ともいうべき同銀貨、コインとしてだけではなく、アートとしても目を楽しませてくれます。

 

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