▲軍服に身を包むヴィットーリオ・エマヌエーレ3世

イタリアはかつて王国であった時代があります。

その王国の3代目、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は、自身が熱心なコインコレクターでした。

王のこだわりが反映された美しいコインのひとつが、「豊穣の女神（Aratrice）」と呼ばれる100リレ金貨です。

非常に希少性が高いといわれる「豊穣の女神」、その魅力や時代背景を追っていきましょう。

 

イタリア ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世 100リラ金貨

基本データ

コイン名	イタリア　ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世　100リラ金貨
通称	イタリア　豊穣の女神
発行年	1910年・1912年・1936年・1927年
年国	イタリア
額面	100リレ
種類	金貨
素材	金
発行枚数	1910年 2013枚｜1912年 4946枚｜1936年 40枚｜1927年 30枚
品位	Au900
直径	35 mm
重さ	32.25 g
統治者	ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世
デザイナー	エジーディオ・ボニンセーニャ（Egidio Boninsegna）
KM	# 50
表面のデザイン	襟の高い軍服を着たヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の左向きの肖像
表面の刻印	VITTORIO EMANUELE III（ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世）
裏面のデザイン	小麦の束を左手に持ち、右手を鋤に乗せた農業のイタリアの女神。両脇に単位、彫刻家との名前、ミントマークとイタリアの星の間に年号
裏面の刻印	REGNO D'ITALIA LIRE 100 E. BONINSEGNA ML GIORGI INC R 年号（イタリア王国 100リレ エジーディオ・ボニンセーニャ ローマミント 年号）
エッジのタイプ	リーデッド
エッジの刻印	-

 

100リレ金貨 豊穣の女神とは？

芸術の国イタリアで発行されたコインのなかでも、美しいデザインで人気の100リレ金貨。「豊穣の女神」という通称も詩的なこのコインについて詳細を解説します。

1910年に発行されたうち、ほぼ全てが金含有量の問題で溶解されています。1926年（四十枚）と1927年（30枚）はコレクター向けに作られたもので、法定通貨として一般流通はありません。

イタリアの豊かさの象徴！

アートの国イタリアは、豊かな土壌でも知られた農業王国。

「豊穣の女神」と日本語に訳されているこのコインの通称「Aratrice」は、直訳すると「耕作にいそしむ女性」という意味になります。

一説によればこの女神は擬人化されたイタリアであり、国の豊かさを願い祝福するという意味が込められているともいわれています。

女神にふさわしい優美な衣装は、ドレープの1枚1枚が風に揺れるような美しさです。

小麦の束を抱え鋤を手にする女神からは、母性を尊ぶイタリアの国民性も見えるようです。

壮年の王の肖像と彫刻家

コインの表面には、1900年に30歳で王となったヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の横顔が彫られています。コイン発行当時の王は40代、在位10年を越えて円熟味を増した男性の肖像となっています。

コインのデザインをしたのは、ミラノのブレラ美術アカデミーで学んだエジーディオ・ボニンセーニャ。ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世と同じ年であったボニンセーニャは、彫刻家としても有名でした。1901年頃から、記念メダルやコインのデザインも数多く手がけています。

コインに刻まれた文字の意味は？

イタリア王の肖像を囲むように刻印されているのは、

VITTORIO EMANUELE III（ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世）

の文字。

裏面の豊穣の女神とともに刻まれているのは、

REGNO D'ITALIA（イタリア王国）

LIRE 100（100リレ）

E.BONINSEGNA（エジーディオ・ボニンセーニャ）

そして発行年が記されています。

 

100リレ金貨 豊穣の女神が作られた当時の時代背景

▲母マルゲリータ王妃と幼少期のヴィットーリオ・エマヌエーレ3世

「豊穣の女神」の100リレ金貨が発行されたのは、1910年から1927年とされています。

20世紀初頭、王国としての歴史は若かったイタリアはどんな状況にあったのでしょうか。

このコインが発行された当時の時代背景を探ってみましょう。

イタリア王国3代目の王として

古代ローマ帝国崩壊後、イタリア半島は長らく群雄割拠の時代が続きました。19世紀半ばになってようやく「イタリア」という国として統一され、国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世（3世の祖父）のもと、初めてひとつの国となったのです。

ちなみに、イタリア王国時代は1861年から始まり100年足らずで終止符を打っています。

ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は1869年生まれ。

1900年、暗殺された父ウンベルト1世の跡を継ぎ、3代目の王となりました。ちなみに、王の母はイタリアを代表するピザ「マルゲリータ」の名の由来となったマルゲリータ王妃です。

厳格な軍事教育を受けたヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は、世界大戦に翻弄される時代のイタリアの舵取りを担うことになります。イタリア王だけではなく、エチオピア皇帝、アルバニア王の称号も持っていました。

しかし1920年代にムッソリーニの台頭により、王位も揺らぎ始めます。

ムッソリーニとファシズムに揺れた王位

1922年、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世はムッソリーニを首相に任命。

ここにファシズム内閣が誕生します。

その後20年、ファシズムによって先導されたイタリアは、世界大戦に参加し国民は疲弊していきます。イギリスやオーストリアといった列強とは、綱渡りのような外交戦で渡り合いました。

ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世は、ムッソリーニとは信用関係が築けなかったにもかかわらず、組閣を命じた責任を負って1943年にムッソリーニを逮捕。

1946年には王自身も退位し、亡命先のエジプトでまもなく亡くなりました。

王の資質の有無はともかく、当時のイタリアを席巻したファシズムの波に抗しきれなかった悲劇の王。

ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世には、そんなイメージが付きまとっているのです。

王はコインコレクター！その美意識が生んだ「豊穣の女神」

▲ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世の時代には多種のコインが発行された

ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世はコインコレクターとして有名で、生涯に集めたコインの数は11万枚を超えるといわれています。

1946年の亡命に当たって、ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世はコレクションの大半を、当時の首相デ・ガスペリに託しました。

歴史上、類を見ないほど貴重なコレクションとされるコインは、現在ローマにある国立博物館で見ることができます。

コインを愛したがゆえに、発行するコインのデザインにもこだわったといわれるヴィットーリオ・エマヌエーレ3世。美意識によって生まれた「豊穣の女神」は現在、世界のコレクターたちのあこがれを集めています。

 

豊穣の女神の種類

通称「豊穣の女神」と呼ばれるコイン、実は100リレ金貨以外にも種類があります。100リレ金貨同様に人気のこれらのコインについて説明します。

豊穣の女神20リレ金貨

100リレ金貨同様、1910年から1927年に発行された20リレ金貨。

発行枚数は6万枚ほどと伝えられています。

100リレ金貨と比べると小さめで、直径は21mm、重さは6.45g。

豊穣の女神のコインの中では、比較的入手しやすい枚数と価格になっています。

豊穣の女神50リレ金貨

同じく豊穣の女神には50リレ金貨もあります。

重さは16g強、100リレ金貨より小ぶりです。

1912年に発行された1万1千枚が市場に出回っているといわれています。

 

100リレ金貨 豊穣の女神の価格推移

20世紀初頭に発行された豊穣の女神100リレ金貨はどのくらいの価格になるのでしょうか。発行枚数が多くない同コイン、気になるその価格を見てみましょう。

100リレ金貨豊穣の女神の発行枚数は少ない！

1910年から1927年に発行されたといわれる豊穣の女神100リレ金貨ですが、実は発行されたのは1912年に6,000枚、1926年から1927年にかけて5,000枚弱という数字が報告されています。

つまり、発行枚数は1万枚強と少ないのです。

ずばり、100リレ金貨豊穣の女神の価格は？

近年の市場で、豊穣の女神100リレ金貨はどのくらいの価格で取引されているでしょうか。

日本のコイン販売サイトを参考にすると、

135万円～200万円

の間で推移しているようです。

保存状況や入荷のタイミングにもよりますが、価格は上昇の傾向があるといえるでしょう。

 100リレ金貨豊穣の女神の今後は？

細部にまでこだわったデザインが美しい豊穣の女神の金貨。

今後の価格はどのように推移するでしょうか。

世界的な金の高騰、アンティークコインの人気上昇に伴い、100リレ金貨豊穣の女神も需要が多くなる可能性は高いです。

 

コインの価格推移

現存枚数が多い1912年のご紹介です。

MS66

2022年8月25日に$60,000で落札。

MS62

2022年5月7日に$6,600で落札。

MS61

2019年9月6日に$4,920で落札。

その他の「イタリア 豊穣の女神」のアンティークコイン

20リレ金貨

1912年　MS64

2022年5月7日に$1,596で落札。

重量は6.45 gで直径は21.0mmです。

50リレ金貨

1912年　MS63

2022年5月7日に$2,160で落札。

重量は16.12gで直径は27.0mmです。

 

アンティークコインを愛したイタリア王発行のコイン！

20世紀のイタリア王国に君臨したヴィットーリオ・エマヌエーレ3世。

彼の時代に発行された100リレ金貨豊穣の女神は、軍人として生きた王の厳格な横顔と、品格ある女神像が魅力的な1枚です。

ファシズムに揺れたイタリアの王として苦難の歴史を歩んだ男性の思いを、ぜひこの美しいコインからくみ取ってみてください。

ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世による100リレ金貨豊穣の女神にご興味がある方は、ぜひアンティークコインギャラリアにご相談を！

 

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