▲1867年、ハンガリー王として戴冠式に臨むフランツヨーゼフと王妃エリザベート

オーストリア皇帝や神聖ローマ皇帝など、数々の肩書を持っていたことで知られるハプスブルク家。ヨーロッパの歴史を語る上で、欠かせない王侯貴族のひとつです。 

20世紀初頭まで、70年近くオーストリア帝国を統治したフランツヨーゼフ1世。
美しい皇妃エリザベート（愛称：シシィ）と、美男美女のカップルであったことでも有名です。

フランツヨーゼフ1世はオーストリア帝国皇帝であっただけではなく、ハンガリー王でもありました。

今日ご紹介するコインは、フランツヨーゼフがハンガリー王として描かれた100コロナ金貨です。
ハンガリーの王冠を頂いたフランツヨーゼフ1世が、威厳をもって立っている姿が特徴です。

そのフランツヨーゼフの100コロナ金貨の魅力を、当時の社会的背景とともに説明します。

 

フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨

基本データ

コイン名	ハンガリー フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨
通称	フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨
発行年	1907年〜1908年｜リストライク：1974年
国	ハンガリー
額面	100コロナ
種類	金貨
素材	金
発行枚数	1907年 1 ,088枚｜1908年 4,038枚｜1974年発行のリストライク 457,859枚
品位	Gold (Au.900)
直径	37.0mm
重さ	33.8753g
統治者	フランツ・ヨーゼフ1世
デザイナー	Carl Gerl、Josef Reisner
カタログ番号	KM# 491, ÉH# 1488, H# 2197, Adamo# K10
表面のデザイン	フランツ・ヨーゼフ1世の立像
表面の刻印	FERENCZ.JÓZSEF I.K.A.CS ÉS M.H.S.D.O.AP.KIR.
裏面のデザイン	王冠をかぶった盾と、それを支える天使
裏面の刻印	MAGYAR KIRÁLYSÁG　KB　100 KORONA
エッジのタイプ	Lettering
エッジの刻印	BIZALMAM AZ ŐSI ERÉNYBEN

フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨とは？

▲フランツヨーゼフとともにコインに刻まれたハンガリーの王冠 

ハンガリー王フランツヨーゼフの立像と、美しい紋章が印象的な100コロナ金貨。
この金貨の詳細を解説します。

ハンガリー王としてのフランツヨーゼフ

オーストリア皇帝フランツヨーゼフ1世のコインには、数多くのタイプがあります。
しかしほとんどが横向きの皇帝の胸像であり、立像は非常に珍しいといえます。
フランツヨーゼフ立像100コロナ金貨は、1892年から1915年頃にかけて発行されていました。

100コロナ金貨のフランツヨーゼフ1世は、ハンガリー独特の丸みを帯びた王冠を頂き、すくっと立っています。
ハンガリーの王冠は13世紀から伝わる聖イシュトヴァーンの王冠と呼ばれるもので、頭頂部に十字架が飾られているのが特徴です。

右手には王笏、左手には球形のオーブを手にしていますが、これはどちらも王の象徴です。
マントを羽織り威儀を正したフランツヨーゼフ1世は、オーブを持つ左側を見つめているデザイン。
コインとしてはとても珍しいデザインのものです。

美しい紋章が語るものとは

フランツヨーゼフ100コロナ金貨の裏側には、2人の天使に支えられた美しい紋章が描かれています。この紋章も、表のフランツヨーゼフと同様に聖イシュトヴァーンの王冠を頂いています。

複雑な構成の紋章は、オーストリア＝ハンガリー帝国の時代に使用された「ハンガリーの聖イシュトヴァーンの王冠諸邦」の紋章と呼ばれています。
紋章の中心には、二重十字が印象的なハンガリーの国章が見えます。その他、クロアチア、スラヴォニア、トランシルヴァニア、リエカの紋章で構成されています。

ハンガリーの領土がいかに多様であったか、コインを一見するだけでわかります。

コインに刻まれた文字は？

フランツヨーゼフ100コロナ金貨に刻まれた文字も、彼の領土の広大さを感じさせてくれます。
フランツヨーゼフの立像を囲む文字を見てみましょう。 

FERENCZ JÓZSEF I‧K‧A‧ 
CS‧ÉS M‧H‧S‧D‧O‧AP‧KIR‧
（神の恩寵をうけたオーストリア皇帝、ハンガリー、クロアチア、スラヴォニアおよびダルマチアの使徒王）

裏側に刻まれた紋章を囲む文字は、MAGYAR KIRÁLYSÁG（ハンガリー王国）。
日本人には馴染みの薄いハンガリー語が魅惑的です。

フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨が作られた当時の時代背景

▲ハンガリーのゲデレー宮殿で憩うフランツヨーゼフ一家

オーストリア皇帝であったフランツヨーゼフ1世が、なぜハンガリーのコインに描かれているのでしょうか。
フランツヨーゼフ100コロナ金貨が発行された当時の時代背景を解説します。

ハプスブルク家の終わりの始まり？オーストリア＝ハンガリーの二重帝国

フランツヨーゼフ1世が、ハンガリー王として100コロナ金貨に描かれたのには複雑な事情がありました。

13世紀にヨーロッパの歴史に登場して以来、ハプスブルク家は結婚政策により領土を拡張し、広大な領土を有するようになります。ハンガリーも、18世紀にはハプスブルク家のオーストリア皇帝の統治下におかれるようになります。

ところが長い繁栄を誇ったハプスブルク家にも、陰りが見え始めます。
それが1866年に起こったオーストリアとプロイセンの戦争でした。この戦争で負けたオーストリアは、ドイツにおける支配権を失います。
これを契機に、帝国内の各地で民族運動が激化したのです。
事態を収拾するためのフランツヨーゼフ1世の政策のひとつが、ハンガリーの独立の承認でした。

つまりオーストリアとハンガリーが対等の2つの国家として、ひとつの帝国を構成するという構造になったのです。

1867年、フランツヨーゼフ1世は独立したハンガリー王国の王として戴冠式を挙行しました。
この姿が、100コロナ金貨に反映されているのです。

ハンガリーを熱愛した皇妃エリザベート

フランツヨーゼフ1世は、1848年に18歳の若さでオーストリア皇帝となります。
当時からハンガリーでは独立の気風が高く、若き皇帝の暗殺計画まで企てられたほどでした。

オーストリアとハンガリーのこうしたわざわいの元を取り除くのに一役買ったのが、フランツヨーゼフの美しき妻、エリザベート（シシィ）です。
彼女は姑のゾフィー大公妃と犬猿の仲でした。ゾフィー大公妃がハンガリー嫌いであったことから、逆にハンガリーを熱愛しました。

末子のマリー・ヴァレリー皇女をハンガリーで出産したほどハンガリーを愛し、ハンガリー国民もシシィへの敬愛の念から、オーストリア帝国と歩調を合わせたといわれています。

今でもプタペスト近郊には、皇妃エリザベートがこよなく愛したゲデレー宮殿が残っています。

複雑な歴史を持つハンガリー

ハンガリーは、マジャール人といわれる民族が多く住む国です。
マジャール人はウラル山脈付近が原住地といわれ、誇り高い民族としてハンガリーの歴史を作ってきました。

西暦1000年にローマ教皇からハンガリー王国の承認を得ます。しかし、13世紀にはモンゴルの、そして15世紀にはオスマントルコの襲撃を受けます。その結果、国が分割されるなど苦渋の歴史を歩んできた経緯があります。

第1次世界大戦の影響を受け、オーストリア＝ハンガリー二重帝国も崩壊。
第2次世界大戦後はソ連の影響下にありましたが、1989年に共和国となり、現在にいたります。

 

フランツヨーゼフ立像金貨のコインの種類・その他のコイン

コインにデザインされた立像は、神々や国の擬人化されたものとして描かれることが大半。
実在した君主が立っている肖像画は、とても珍しいといえます。

フランツヨーゼフ立像をデザインしたコインには、他にどんなものがあるのでしょうか。

フランツヨーゼフ立像金貨には20コロナと10コロナも

今回ご紹介したフランツヨーゼフ立像のコロナ金貨には、100コロナのほかに20コロナと10コロナも発行されています。
デザインは同じですが、大きさと重さが変わります。  

100コロナ金貨	直径：37mm　重さ：33.8753g
20コロナ	直径：21mm　重さ：6.775g
10コロナ	直径：19mm　重さ：3.3875g

フランツヨーゼフ立像 1ダカット金貨

フランツヨーゼフ立像100コロナ金貨より以前には、1ダカット金貨も発行されていました。
100コロナ金貨のフランツヨーゼフ立像とほぼ同じデザインですが、裏側の紋章はハンガリー王国の国章のみとなっています。

どちらにもハンガリー王の象徴である聖イシュトヴァーンの王冠がデザインされていて、ハンガリー人のアイデンティティとして輝いています。

 

フランツヨーゼフ立像 100コロナ金貨の価格推移

オリジナルは滅多に見ないため、オークションでは高値で取引されています。

リストライクであれば比較的手に入れやすい価格で取引されています。珍しい君主の立像とエンジェルが美しい大型金貨なのでコレクションの1枚に加えてみてはいかがでしょうか。

MS63+　オリジナルストライク

2023年1月9日に$28,800で落札。

MS65 リストライク

2023年3月19日に$1,800で落札。

MS67 リストライク

リストライクを手に入れるのであれば、断然ハイグレードがおすすめです。

2023年11月23日に$2,040に落札。

 

混乱の欧州事情を反映したハンガリーの100コロナ金貨

フランツヨーゼフ立像100コロナ金貨は、19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、ハンガリーで発行されました。
オーストリア帝国の皇帝フランツヨーゼフ1世が、ハンガリー王として立像で描かれた珍しいコインです。

欧州全体を巻き込んだ19世紀の混乱から第一次世界大戦にいたる政情が、100コロナ金貨には反映されています。
ハンガリーの人びとの誇りを感じるこのコイン、ご興味がある方はぜひ、アンティークコインギャラリアにご相談ください。

 

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