暴君か名君か?皇帝ネロが愛した美と芸術
新約聖書ヨハネの黙示録13章18節
「獣が地から上ってくる」
第二の獣に従うものに押された獣の数字は666
ローマの皇帝ネロを指すという。
シーザーとネロ
世界史が不得手でも
「ローマ帝国の中で知っている人物は誰か?」
と問えば、
「ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)」
「ネロ」
という2人の人物の名が返って来る。
それだけ、カエサルとネロは有名なのだ。
活躍した時代は違うのだが、
この2人が同じ人物であるとか、
「皇帝」だ、という思い違いや勘違いもあるくらいの双璧なのだ。
カエサルは、ウィリアム・シェイクスピアが描いた悲劇
『ジュリアス・シーザー』(英語:The Tragedy of Julius Caesar)の
「ブルータス、お前もか!」
という、暗殺される場面で発する台詞で有名だ。
ローマ帝政の礎を築き、共和制から君主制を目指したカエサルが、
まだ存在しない称号の「皇帝」になれるはずはない。
後を継いだ養子(大甥・姉の孫)オクタウィアヌスが、
初代のローマ皇帝になったのだ。
その後、英雄「カエサル」(AD100~44)の業績を称え、
その名がローマ帝国の君主、皇帝を表わす称号として定着した。
ちなみに、カエサルはラテン語の読みで、
シーザーは英語読みの発音なのだ。
神への道
カエサルの偉業の1つに、通貨制度の整備がある。
金銀の換算率を固定化したり、
国立の造幣所を開設したりしたのだ。
それまでの造幣者は、
硬貨に自身の祖先などを描いていた。
カエサルが初めて、存命中の人物、
それも自分の肖像を図像の中心に刻ませた。
硬貨の流布によって皇帝の肖像は帝国中に広まった。
同時に様々なメッセージ、
戦勝記念とかを硬貨に刻んで帝国の民たちに伝えた。
刻印を利用して、
皇帝の存在を神に近づけていったのだ。
このアイデアは歴代の皇帝たちにも引き継がれて行った。
暴君ネロの真実
「ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス」
という長い名を持つネロは、
ローマ帝国の第5代皇帝(在位AD54~68)だ。
この名前の中にある「アウグストゥス」(Augustus)も、
「威厳者」または「尊厳ある者」を意味する称号である。
皇帝は、人ではなく、
神に近い存在、いや、神そのものなのだ。
ネロが皇帝になったのは、16・7歳の時だった。
治世の前半には、有能な部下を登用して政治で成果を残した。
後半には冤罪で政敵、腹心の将軍たちを、
次々と処刑したり、自決に追いやった。
結果、
稀に見る極悪非道の暴君というイメージが定着して、
歴史の中にその名を残している。
身内にも容赦はなく、母を殺し、2人の妻を殺した、
ネロポリスという新しい首都を造るために
ローマの都市に火を放ち、
逃げ惑う民を焼き、
高台からその灼熱地獄を満足げに見下ろして、
詩を吟じたとも言われているのだ。
住処を焼かれた民衆の怒りが高まると、
己に向かう矛先をすり替えて、
キリスト教徒の放火だと流言して罪を逃れようとした、とか、
罪を被せた無実の教徒たちに残酷な公開処刑を行った、
などなど、身勝手で酷い話も数多く残されているのだ。
1951年のアメリカ映画
『クォ・ヴァディス』
(出演:ロバート・テイラー、デボラ・カー)
では、心を病み、魂を病んでいるネロを
英国の映画俳優ピーター・アレクサンダー・ユスティノフが見事に演じ、
ゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞している。
ただこれらのネロが残したとされるエピソードの中には、
キリスト教徒が増えるにつれ、
人類史上初めてキリスト教を弾圧した圧制者への恨み辛みから、
脚色したり、創り上げた逸話も多々あるようだ。
芸術家ネロ
皇帝ネロは、芸術と美の愛好家で保護者でもあった。
ギリシャ文化に心酔して、
オリンピックの由来である
4年に1度の『オリンピア祭』に対抗して、
5年に1度の『ネロ祭』を創設したりした。
ドムス・アウレア(黄金宮殿)や、
ネロ浴場といった当時の最先端を行く建築物も残した。
自ら創作した詩を、竪琴の演奏で披露するのが趣味だった。
死の直前には
「何と惜しいことだ。
素晴らしい芸術家(ネロ自身のこと)が失われることになる!」
という言葉を残したとも伝わっているのだ。
コインについて
今回紹介するコインは、そんなネロの肖像が刻印された、
とても珍しく美しい古代ローマのアウレウス、金貨だ。
アウレウス(aureus)とは、ラテン語で「金」を意味する。
アウレウスの大きさや重さは、時代によって様々だが、
金の純度はほとんど変わっていない。
99%ぐらいが一般的であるとされている。
イギリスのソブリン金貨が91.7%、
アメリカ合衆国の金の延べ棒が90%だから、
はるかに純度は上回っている。
古代ローマの通貨には、
アウレウス(金貨)、
デナリウス(銀貨)、
セステルティウス(青銅貨)、
デュポンディウス(青銅貨)、
アス(銅貨)がある。
金貨のアウレウスは、
カエサルが定めたようにデナリウス25枚相当の価値があった。
ローマ政府は、納税は金か銀でしか受け付けない。
当時の地方軍人の日給はデナリウス貨1枚から3枚で、
アウレウス金貨は、兵士の給与の1年分に相当したそうだ。
この金貨1枚で、兵士とその家族1年の暮らしが成り立ったのだ。
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