イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨|王位継承の運命を刻んだイギリス王室の名品

イギリス ジョージ6世5ポンド金貨は、1937年の戴冠を記念して発行されたイギリス近代貨幣を代表する名品です。しかし、この一枚が語るのは、金貨としての希少性や美しさだけではありません。

兄エドワード8世の退位によって突然王位を継ぎ、第二次世界大戦という激動の時代を国民とともに歩んだジョージ6世。その静かな生涯は、金貨の肖像にも深く刻まれています。

本記事では、イギリス ジョージ6世5ポンド金貨の歴史的背景やデザインの魅力、希少性について、イギリス王室の物語とともに紐解いていきます。

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨

基本データ

コイン名 イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨
通称 ジョージ6世 5ポンド金貨
発行年 1937年
イギリス
額面 5ポンド
種類 金貨
素材
発行枚数 5,501枚
品位 Gold (.9167)
直径 38.6 mm
重さ 39.9 g
統治者 ジョージ6世
デザイナー Thomas Humphrey Paget(表面)、 Benedetto Pistrucci(裏面)
カタログ番号 KM# 861, Sp# 4074, Fr# 409
表面のデザイン ジョージ6世の無戴冠の肖像、周囲にレジェンド
表面の刻印 GEORGIVS VI D:G:BR:OMN:REX F:D:IND:IMP.(神の恩寵により、全ブリテン諸島の王、信仰の守護者、インド皇帝、ジョージ6世)
裏面のデザイン 馬に乗った聖ジョージが竜を退治する姿、下部に年号
裏面の刻印 1937 B.P.
エッジのタイプ Plain
エッジの刻印 -

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨とは?

1948年の議会開会式の際のジョージ6世とエリザベス王妃

こちらではイギリス ジョージ6世 5ポンド金貨についてご紹介します。

イギリス王室の伝統を受け継ぐ格調高いデザイン

1937年、ジョージ6世の戴冠を祝して誕生した5ポンド金貨は、イギリス王室の伝統と卓越した芸術性を一枚に凝縮した記念金貨です。直径約36mm、重量約39.94g、品位91.67%(22金)という堂々たる規格は、手にした瞬間にその存在感を感じさせ、イギリス近代貨幣を代表する名品として今日まで受け継がれてきました。

表面には、王室御用達の彫刻家トーマス・ハンフリー・パジェットによるジョージ6世の左向き肖像が刻まれています。王冠をあえて身に着けない姿は、19世紀から続くイギリス君主貨幣の伝統に倣ったものです。華やかな権威を示すのではなく、静かなまなざしと引き締まった横顔からは、誠実な人柄と揺るぎない責任感が伝わり、激動の時代を支えた一人の国王の姿が静かに浮かび上がります。

裏面を飾るのは、1817年のソブリン金貨以来、イギリス貨幣の象徴として受け継がれてきたベネデット・ピストルッチ作「聖ジョージの竜退治」です。白馬にまたがる聖ジョージが竜へ立ち向かう力強い構図は、勇気と正義、そして困難に打ち勝つ希望を象徴しています。

ジョージ6世の戴冠という歴史的な節目に、この伝統ある意匠が採用されたことは決して偶然ではありません。一人の国王の門出イギリス王室の新たな時代への願いが、この小さな金貨の中に静かに託されているのです。

英国紳士を思わせるジョージ6世の気品

▲1938年のジョージ6世の肖像

ジョージ6世は、歴代のイギリス君主の中でも、誠実で実直な人物として知られています。その穏やかな人柄は、5ポンド金貨に刻まれた肖像にも静かに映し出されています。

表面の肖像を手掛けたのは、英国王室の肖像彫刻を数多く手掛けた彫刻家トーマス・ハンフリー・パジェットです。左向きに描かれたジョージ6世は、王冠や華美な装飾をまとわず、引き締まった表情と落ち着いたまなざしだけで国王としての品格を表現しています。威厳を誇示するのではなく、節度や知性を感じさせるその姿は、イギリス君主の肖像貨幣らしい気品に満ちています。

1938年頃に撮影されたジョージ6世の写真と見比べてみると、端正な顔立ちや穏やかな眼差しは金貨の肖像にも忠実に表現されていることがわかります。写実性を重視したパジェットの彫刻は、外見だけでなく、実直で落ち着いた人物像までも巧みに映し出しました

だからこそ、この5ポンド金貨の肖像は、単なる国王の横顔ではありません。そこには、時代を超えて人々を惹きつける英国紳士らしい節度と気品が静かに息づいており、眺めるほどにその魅力を深く感じられる一枚となっています。

発行数5,501組のみの希少な記念金貨

イギリス ジョージ6世5ポンド金貨は、一般流通を目的として製造された貨幣ではありません。1937年の戴冠式を記念して組まれた4種金貨プルーフセット(ハーフソブリン・ソブリン・2ポンド・5ポンド)の一枚としてのみ製作され、単独で発行されることはありませんでした。このセットの発行数はわずか5,501セットで、5ポンド金貨も同数のみ製造されています。ジョージ6世治世に発行された5ポンド金貨はこの1937年銘のみであり、イギリス近代金貨を代表する希少な記念貨として知られています。

本貨は、鑑賞・収集を目的としたプルーフ貨として製作され、多くは専用ケース入りのセットとして販売されました。そのため、現在でも鏡面の美しさや繊細な彫刻を良好な状態で残す個体が比較的多く見られます。発行から90年近くを経た今日でも、高い保存状態で鑑賞できることは、本貨ならではの魅力の一つです。

発行数の少なさだけではなく、1937年というイギリス王室の歴史的な節目を記念した一枚であることも、この金貨が長く愛され続ける理由といえるでしょう。

 

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨が作られた当時の時代背景

▲父ジョージ5世のクリスマス・ラジオ中継の様子(1934年)

こちらでは、ジョージ6世5ポンド金貨が作られた当時の時代背景についてご紹介します。

国王になるはずではなかったアルバート王子

▶︎右から、イギリス国王エドワード7世、孫エドワード(後のイギリス国王エドワード8世)、同じくアルバート(後のイギリス国王ジョージ6世)、エドワード7世の次男で王太子ジョージ(後のイギリス国王ジョージ5世)(1908年頃)

 

1895年、後のジョージ6世となるアルバート王子は、後にジョージ5世となるヨーク公ジョージの次男として誕生しました。幼い頃から家族には「バーティ」の愛称で親しまれましたが、病弱な体質で、左利きを右利きへ矯正されたことやO脚の治療など、幼少期からさまざまな困難を経験します。さらに重い吃音にも悩まされ、人前で話すことに強い苦手意識を抱えていました。

次男として生まれたアルバートは、本来であれば王位を継ぐ立場ではありません。王太子として将来の国王になるための教育を受けていたのは、兄のエドワード王子(後のエドワード8世)でした。そのため、アルバートは海軍士官として勤務した後、1923年にエリザベス・ボウズ=ライアンと結婚し、ヨーク公として公務に励みながら家庭を築いていきます。1926年には長女エリザベス王女(後のエリザベス2世)が誕生し、穏やかな家庭生活を送っていました。

この頃のアルバートにとって、自らがイギリス国王となる未来は、想像すらしていなかったことでしょう。しかし、その穏やかな日々は、1936年に起きた一つの出来事によって大きく動き始めます。それが、兄エドワード8世による前例のない「退位事件」でした。

兄エドワード8世の退位がイギリス王室の運命を変えた

▲1936年、ユーゴスラビアで休暇を過ごすエドワード8世とウォリス・シンプソン

1936年、イギリス王室はかつてない危機に直面します。父ジョージ5世の崩御を受けて即位したエドワード8世が、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの結婚を望んだのです。しかし、当時の国王はイギリス国教会の首長でもあり、その結婚は政府や英連邦各国に受け入れられませんでした。王冠を守るか、それとも愛する人を選ぶのか…。国王は、歴史上かつてない選択を迫られます。

そして1936年12月11日、エドワード8世はラジオを通じて国民へ退位を表明しました。「愛する女性の助けなくして、国王としての重い責務を果たすことはできない」。その言葉とともに王冠は弟へと託され、「退位危機(Abdication Crisis)」として知られる歴史的な出来事は幕を下ろします。

しかし、その王冠を受け継ぐことになったアルバートに歓喜はありませんでした。突然訪れた運命を前に、彼はルイス・マウントバッテンへ「国王になる教育を受けてきたのは兄だ。私は何の準備もしてこなかった」と胸の内を明かしたと伝えられています。さらに、退位前日に母メアリー王太后のもとを訪れた際には、「ひどいことが起こってしまいました」と語り、子どものように泣き崩れたことを日記に記しました。望んだ王冠ではなく、逃れることのできない責務としてその重みを受け入れたことが、後のジョージ6世という国王を形づくっていくのです。

▲1937年5月7日号の『ラジオ・タイムズ』の表紙。C. R. W. ネヴィンソンによるイラストで、初めて生中継され、一部がテレビ放送された戴冠式を記念したもの。

ジョージ6世は1937年の戴冠式を経て、新たなイギリス国王として歩み始めますしかし、その胸には幼い頃から抱え続けてきた吃音という大きな苦悩がありました。国民へ向けた演説は国王の重要な務めですが、言葉が思うように出ないことは、本人にとって何よりも大きな試練だったのです。

それでもジョージ6世は逃げませんでした。言語療法士ライオネル・ローグの支えを受けながら、何度も練習を重ね、一つひとつの演説に真摯に向き合います。その努力は後に映画『英国王のスピーチ(The King's Speech)』として世界中に知られ、多くの人々の心を打ちました。

やがて第二次世界大戦が勃発すると、ジョージ6世は王妃エリザベスとともにロンドンへ残る決断を下します。ドイツ軍の空襲によってバッキンガム宮殿が被害を受けても宮殿を離れることはなく、自ら被災地へ足を運び、人々を励まし続けました。国王もまた国民と苦難をともにするというその姿勢は、不安に揺れる英国に大きな勇気を与え、王室への信頼を取り戻す原動力となります。

華々しい英雄ではなく、悩み、迷い、それでも責務から逃げなかった一人の国王。

その誠実な生き方は、今なおイギリス史の中で最も敬愛される君主の一人として語り継がれています。

父から娘へ受け継がれた「奉仕」の精神

▲戦時中、イギリス空軍部隊を激励する国王夫妻とエリザベス王女

 

ジョージ6世にとって、長女エリザベス王女は特別な存在でした。

本来であれば王位継承者として育つはずではなかった娘は、伯父エドワード8世の退位によって、一夜にして未来の女王という運命を背負うことになります。

突然国王となった自身の経験があったからこそ、ジョージ6世は娘に王冠とは権力ではなく、国民への奉仕であるという姿勢を、日々の背中で伝え続けました。

その教えは、第二次世界大戦中にも表れます。エリザベス王女は女性補助部隊(ATS)に入隊し、自動車整備や運転技術を学び、王族でありながら国民とともに戦時下を生きる道を選びました。その姿には、父から受け継いだ責任感と使命感が息づいていました。

1952年2月、体調を崩していたジョージ6世は、周囲の制止を振り切るようにしてロンドン空港へ向かいます。ケニアへ旅立つ娘夫妻を、自らの手で見送りたかったからです。冷たい冬の朝、父は笑顔で娘を送り出しました。しかし、それが親子にとって最後の別れとなりました。数日後、ジョージ6世は56年の生涯を閉じ、その知らせを受けたエリザベス王女は、旅先で「イギリス女王エリザベス2世」となります。

ジョージ6世が娘へ遺したものは、王位だけではありません。それは、どのような時代にあっても国民とともに歩み続けるという、一人の父が身をもって示した奉仕の精神でした。その教えはエリザベス2世へ、さらに今日のイギリス王室へと受け継がれ、今なお静かに息づいています。

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨とあわせて知りたい関連コイン

こちらでは、イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨とあわせて知っておきたい関連コインをご紹介します。

ジョージ6世の治世(1936~1952年)は約15年と短く、その大半が第二次世界大戦という激動の時代と重なりました。そのため、イギリス本国で発行された金貨は限られており、戴冠記念貨や記念メダルなど、特別な目的で製作されたものが中心です。

一方で、ジョージ6世の肖像はイギリスだけでなく、当時のイギリス王室のもとにあった地域でもさまざまな貨幣に採用されました。それぞれに異なるデザインや歴史的背景があり、コインを通してジョージ6世という国王の時代をさまざまな角度から知ることができます

ここでは、代表的な関連コインを4種類ご紹介します。

イギリス ジョージ6世・エリザベス 戴冠記念メダル(1937年)

1937年5月12日に行われたジョージ6世の戴冠式を記念して、イギリス王立造幣局(Royal Mint)が製作した公式記念メダルです。

表面には、彫刻家パーシー・メトカーフによる戴冠したジョージ6世の左向き胸像が、裏面には戴冠した王妃エリザベスの左向き胸像がそれぞれ配されています。国王と王妃を両面それぞれに描くことで、新たなイギリス王室の門出を格調高く表現したデザインとなっています。

本作は金製のほか、同じデザインの銀製メダルも製作されており、材質によって異なる魅力を楽しめます。貨幣ではありませんが、1937年の戴冠式を今に伝える公式記念作品として高い人気を誇っています。

イギリス領南アフリカ ジョージ6世 1ポンド金貨

イギリス領南アフリカでは1947年から1952年にかけて、ジョージ6世の肖像を描いた1ポンド金貨(ソブリン)が発行されました。

表面には、トーマス・ハンフリー・パジェットによる左向きのジョージ6世肖像が刻まれ、周囲にはGEORGIVS VI REX IMPERATOR(ジョージ6世 国王・皇帝)の銘文が配されています。

裏面には、ジョージ・クルーガー・グレイがデザインした南アフリカを象徴するスプリングボック(ガゼル)が躍動感豊かに描かれ、「SUID-AFRIKA」「SOUTH AFRICA」とアフリカーンス語・英語の両方で国名が記されています

本貨は、品位91.67%(22金)、重量約7.99gイギリスソブリン金貨と同じ規格で製造されました。ジョージ6世の治世にはイギリス本国で一般流通用の金貨がほとんど発行されなかったため、本貨はジョージ6世時代を代表する実用金貨として、現在も世界中のコレクターから高い人気を集めています。

イギリス ジョージ6世 クラウン銀貨(1937年)

1937年に行われたジョージ6世の戴冠を記念して発行されたクラウン銀貨です。一般流通も想定した記念貨として発行され、品位50%の銀を使用した直径38.61mm、重量28.28gの堂々とした大型銀貨に仕上げられています。

表面には、トーマス・ハンフリー・パジェットが手掛けたジョージ6世の無冠の左向き肖像が描かれています。王冠を着けない姿はイギリス君主の貨幣に受け継がれてきた伝統的な表現であり、新国王の落ち着いた品格を感じさせます。

裏面には、ジョージ・クルーガー・グレイによるイギリス王室の紋章(ロイヤル・アームズ)が、ライオンとユニコーンに支えられた格式高いデザインで表現されています。周囲には「FID: DEF: IND: IMP(信仰の擁護者・インド皇帝)」、中央には王室のモットー「DIEU ET MON DROIT(神と我が権利)」が刻まれ、イギリス王室の伝統と権威を象徴する一枚となっています。

イギリス ジョージ6世 5シリング(クラウン)白銅貨(1951年)

1951年に開催された「フェスティバル・オブ・ブリテン(Festival of Britain)」を記念して発行された5シリング(クラウン)白銅貨です。戦後復興を象徴する国家的な博覧会を記念して製作され、ジョージ6世治世に発行された2種類のクラウン貨のうち、最後を飾る一枚となりました。

表面には、トーマス・ハンフリー・パジェットが制作したジョージ6世の無冠の左向き肖像が描かれています。裏面には、ベネデット・ピストルッチによるイギリス貨幣を代表する意匠「聖ジョージの竜退治」を採用1817年のソブリン金貨以来受け継がれてきた名作であり、躍動感あふれる構図は現在でもイギリスコインを象徴するデザインとして親しまれています

本貨は品位50%銀だった1937年クラウンとは異なり、戦後の貨幣制度の変更により白銅(銅75%・ニッケル25%)で製造されました。大型クラウンならではの迫力ある造形と芸術性を気軽に楽しめる一枚として、現在もジョージ6世時代を代表する人気の記念貨となっています。

 

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨の価格推移

1937年のみの単年号の発行です。発行枚数も比較的多いため、グレードによっては手に入りやすい大型コインのひとつです。

PR63 Cameo


2026年8月3日に$11,895で落札。

 

PR64 Cameo

コインがスラブの中で回転してしまっていますが、コインの価値には影響はありません。

2026年1月12日に$12,200で落札。

 

PR65 Cameo

PCGSのスラブも古く裏側のホログラムのステッカーも少々剥がれ気味ですが、コインの価値には影響が無いのが落札金額を見るとわかります。

2026年1月12日に$18,910で落札。

 

PR66 Cameo

2025年11月6日に$31,200で落札。

 

 歴史の転換点を刻んだジョージ6世 5ポンド金貨の魅力

▲ウェストミンスターのカールトン・ハウス・テラスにある、ウィリアム・マクミラン作の像(1955年)

イギリス ジョージ6世 5ポンド金貨は、イギリス王室の歴史が大きく動いた時代を見つめ続けてきた一枚です。

そこに刻まれているのは、華やかな王権の象徴だけではありません。兄エドワード8世の退位という歴史的な転機、第二次世界大戦という激動の時代、そして一人の国王が果たした責務までも静かに映し出しています

ジョージ6世は、自ら王位を望んだ人物ではありませんでした。しかし、突然訪れた運命から逃げることなく、国民に寄り添いながらその重責を全うしました。

その誠実な生き方は、後にエリザベス2世へと受け継がれ、現代のイギリス王室にも大きな足跡を残しています

ジョージ6世5ポンド金貨は、単なる戴冠記念金貨ではなく、一つの時代を象徴する歴史の証人です。その背景を知ることで、この一枚は美術品や資産という価値を超え、約90年前のイギリスへと思いを巡らせてくれる、かけがえのない存在となるでしょう。