2022年11月08日

ウィリアム4世の希少なプルーフクラウン銀貨とは？イギリス史上稀に見る「良い王様」の生涯とコインの価値を解説

ヴィクトリア女王のひとつ前の君主であり、叔父であった「ウィリアム4世」をご存知ですか？国民に寄り添った生涯を送り、「質素倹約」だった王は今でもイギリス国民から愛されています。

ウィリアム4世は短い在位期間のため、発行されたコインはどれも希少です。ウィリアム・ワイオンがデザインを手がけた肖像が美しいプルーフクラウン銀貨を、ウィリアム4世の生涯とともにご紹介します。

ウィリアム４世クラウン銀貨

ウィリアム４世　表裏デザイン

基本データ

コイン名	イギリス　ウィリアム4世　クラウン銀貨
通称	ウィリアム4世　クラウン銀貨
発行年	1831年・1834年
国	イギリス
額面	1クラウン
種類	銀貨
素材	銀
発行枚数	100枚
品位	Sv925
直径	38.6 mm
重さ	28.3 g
統治者	ウィリアム4世
デザイナー	表：ウィリアム・ワイオン　裏：ジャン・バプティステ・メルレーン
KM	# 715
表面のデザイン	右向きのウィリアム4世とレジェンド
表面の刻印	GULIELMUS IIII D: G: BRITANNIAR: REX F:D:（William the Fourth by the Grace of God King of the Britains Defender of the Faith：ウィリアム4世神の恵みにより英国の王信教の擁護者）
裏面のデザイン	マントルの下に発行年
裏面の刻印	ANNO 1831
エッジのタイプ	プレーン
エッジの刻印	-

ウィリアム4世とプルーフクラウン銀貨とは？

イギリスの歴代の男性君主の中でも少ない「良い印象」といわれるハノーヴァー朝最後の君主、ウィリアム4世。在位期間はわずか7年という短い間の出来事を、コインと共に振り返ります。

「船乗り王（Sailor King）」と呼ばれて

ウィリアムはジョージ3世の3番目の子供として生まれました。2人の兄がいたため、王位を継承することは期待されていませんでした。

王族であることを隠して13歳の時に海軍に入隊したウィリアム。海軍では調理場を担当し、一般の海軍士官候補生とほとんど変わらない生活を過ごしました。家庭教師を帯同させている以外、普段は1人で出歩くことが多かったそうです。

ジブラルタルで酔った勢いで乱闘騒ぎを起こし、一時逮捕されますが、身元が判明した瞬間急いで解放されました。

ウィリアム４世の肖像

▲海軍従軍時のウィリアム

スペイン艦隊撃破を経験、その際に王族という素性がわかり、市民からも大歓迎されました。アメリカ独立戦争の際はニューヨークで勤務し、歴代君主の中でアメリカ合衆国を訪れた最初の人物となりました。

その際にジョージ・ワシントンによる誘拐計画がありましたが、陰謀は実現しませんでした。この事件により、以降は1人で出歩く際には警備の人間を帯同させられるようになりました。

その後、海軍大将としてはさまざまな功績を残しました。海軍での犯罪に対する厳しい処罰「キャット」と呼ばれる鞭打ちを廃止し、イギリス最初の蒸気軍艦を建造しました。

老齢の王「ウィリアム4世」としての歩み

兄王ジョージ4世の逝去後、64歳で王位に就いたウィリアム4世は、君主としてどのような生涯を送ったのでしょうか？

ウィリアム４世戴冠時の肖像

▲戴冠時のウィリアム4世

質素倹約、庶民的な王の戴冠式

派手で華美なことを嫌ったウィリアム4世は「戴冠式は必要ない」と言い、周囲を慌てさせました。その結果、「地味で質素であることを」条件に執り行いました。

先王の戴冠式には24万ポンドを費やしましたが、ウィリアム4世は3万ポンド未満に費用を抑えました。参加者の貴族からは「つまらない」という評価でしたが、その時ウィリアム4世は「ウエストミンスター寺院が広々として涼しげではないですか」と皮肉を言い、全く意に介さなかったそうです。

ウィリアム4世の戴冠式の様子

▲ウィリアム4世の戴冠式の様子

「王族」としての生活よりも市中での生活が長かったため、王になってもなお侍者を連れず、ロンドンの街を一人で歩いたといいます。国王を見つけた市民は歓喜のもとに近寄り、彼もまた街の人たちと握手をしたり気さくに語り合いました。現実的で親しみがあるウィリアム4世は、国民から非常に慕われました。

王室主催のイベントでもゲストに対して「服を気にしないで来てください」というほど、質素な考えの持ち主でした。贅沢を嫌い、兄王ジョージ4世の美術コレクションの多くを、国に寄付しました。

プルーフクラウン銀貨のデザイン

国王に即位した翌年の1831年にコインの発行がはじまりました。

今回ご紹介するプルーフクラウン銀貨の表面は「ウナとライオン」や「スリーグレイセス」など、イギリスを代表するマスターピースの作者ウィリアム・ワイオンです。

戴冠式のための贈呈用にわずか100枚の製造という、希少なプルーフ仕上げの大型銀貨です。

裏面には王冠とマントルが美しく刻印されています。流通用には発行されておらず、1834年はわずか10枚未満の発行と言われています。

ウィリアム4世が築いた君主制の礎

ウィリアム4世は英国救貧法を見直し、児童労働を制限しました。そして、大英帝国のほぼすべてで奴隷制を廃止しました。他にも腐敗選挙区の廃止など、イギリス初の選挙制度改革も行いました。

兄王であるジョージ4世ほど政治に関わっていませんでしたが、一度だけ積極的に政治に干渉したのは、議会の意志に反して首相を任命した時でした。

この議会改革により、君主制へと移行させました。

ヴィクトリア女王へと繋ぐバトン

2人の娘に先立たれたウィリアム4世の王位継承者にはのちの女王となる姪のヴィクトリアが選ばれ、妻共々ヴィクトリアを我が子同然に可愛がりました。ヴィクトリアが18歳で成人を迎え、摂政を置く必要が無くなるまでの間、「ヴィクトリアが成人するまで死ねない」が口癖で、生きることを熱望したウィリアム4世。無事、姪の成人を見届けた1ヶ月後に亡くなりました。71歳でした。

現在まで続くイギリス王室の系譜を繋いだウィリアム4世。ドイツにある銅像には「祖国の父」とラテン語で表記されています。

もし、ウィリアム4世が戴冠を拒否したり在位期間が短ければ、後見人や摂政になる母親などからの政治的な干渉により、イギリスに栄華をもたらしたヴィクトリア女王は誕生していなかったかもしれません。